最近、企業や団体の経営者・人事担当者から、「こう不景気だととても人なんて採用できる状態じゃない」という話を耳にします。実は不景気であったり、震災で雇用が停滞している今こそ人材を雇用するにはうってつけのタイミングなのですが・・・と思いながら聞いているのですが、今回は企業・団体の方へ雇用の適正時期について書いてみようと思います。
確かに多くの企業で景気が良くないので人材を採用できない、震災で業務停滞ぎみの中で人材を雇用できないと考えるのは普通の感覚だと思います。しかしながら、最も人材確保を上手に行っている企業はこういう不景気の時に人材を雇用して、好景気の時に雇用しないということは意外と知られていません。何故、この不景気に人材を雇用するのでしょうか?そのメリットは主に以下のような点だと思います。
①景気が悪く失業率が高いときほど、優秀な人材が市場に眠っている確率が高くなり、且つ不景気であればあるほど獲得しやすくなります。好景気になればどこの企業も積極的に人材雇用を始めますので、そのときに一緒に採用活動を始めたのでは優秀な人材を獲得するのは困難です。好景気は優秀な人材には多くの企業がよりよい条件を用意し、主導権は求職者が握っている状況ですので、優秀な人材を確保しようと思ったら高待遇・高給与・広告宣伝費・企業ブランドと多大な資本を必要とします。
②不景気に採用した人材ほど定着率が高くなります。人材の定着率とは入社後1~2年以内にその会社に合うか合わないかで分かれます。サラリーマン・OLの経験者ならわかると思いますが、各人が全てにおいて満足できる企業というのは存在しません。誰でも多かれ少なかれ不満や人間関係の縺れはあるものです。「この不景気だから多少の事は我慢しなければ」ということで不景気こそ人材の定着率は高い傾向にあります。労働者にとってもネガティブ思考からポジティブ思考への切り替えがスムーズにでき、自身で働きやすい職場環境創造に努められる利点もあります。一方、好景気は労働者にとっても他社から誘いはいくらでも来るでしょうから、より条件の良い企業への転職に抵抗がなくなってきます。ある程度お仕事を覚えた段階で社員に辞められてしまうことこそ企業にとって痛手になる事はないと思いますので、この点でも不景気ということ自体が良い方向に作用していると言えるのではないでしょうか。
③不景気や震災で企業が雇用を控えると町に失業者が溢れてしまい国が不安定になってしまいます。こういうときにこそ、公的援助が手厚くなるのです。この時期に雇用を率先して行うことで国・自治体からの助成金等をはじめとする公的補助が過剰とも言えるくらい用意されますので、これらを上手く利用すれば実は不景気に人材を雇用しても企業自体は負担もリスクも少ないのです。不景気で利益が少ないので人件費が・・・と思われるかもしれませんが、政府・国・自治体はこういうときだからこそ、しっかりフォローアップしてくれているのです。
好景気には人材も確保できないし、公的援助もない、優秀な人材の奪い合いが始まれば資本競争が発生し弱い企業はとても太刀打ちできなくなり、そして多大な費用をかけて採用した人材も不満があれば離職してしまうというように、実は好景気に人材を雇用する事の方が危険も資金も大きくなるのです。
皆に右へ倣えで行動を起こす企業は、資金力がなければなかなか大資本には太刀打ちできないものですが、皆が右を向いているときに左へ歩くアイデアもあっていいはずです。好景気には人材を確保しないで、不景気の時にのみ大量に人材を確保して成長を続けているという徹底した企業もあると聞きます。リーマンショック後の不景気で雇用の沈み、そしてこの震災で更なる雇用停滞と続いていますが、「不景気だから採用しない」が本当に正しい選択肢なのかどうか、企業・団体の経営者及び人事担当者は今一度見直してみる時期かもしれません。