「ひとごと(人事)」と「たにんごと(他人事)」 「他人」に「事」と書く「他人事」について、「ひとごと」と「たにんごと」という二通りの読み方 や言い方を耳にする。放送での読み方については いったいどうなっているのであろうか。 そのまま素直に読めば「たにんごと」。だが、伝統的な読み方は「ひとごと」なのだという。 まず、「他人事」「たにんごと」という表記(書き方)と言い方・読み方は、どちらも放送では 原則として用いないことにしているそうだ。「自分に関係ないこと」などを意味する場合の 伝統的な言い方は「ひとごと(人事)」【ヒトゴト】とされて、放送でもこの語法を採っている。 表記は、「ひと事」または「ひとごと」である。 ×「他人事」、「たにんごと」 「ひとごと」は『日国』によれば、平安時代から用例が見られる(『紫式部日記』)。それ以降 の例でも、軍記物の『曾我物語』(南北朝頃)や、井原西鶴の浮世草子『懐硯(ふところす ずり)』、谷崎潤一郎の『蓼喰ふ虫』などが引用されている。そして、「ひとごと」の表記も、 「人こと」、「人事」、「他人事」と様々である。 『蓼喰ふ虫』は「他人事」で「ひとごと」と読ませているが、「他人」を「ひと」と読ませる例は、 江戸時代後期から見られる。たとえば、為永春水(ためながしゅんすい)の人情本の代表 作『春色梅児誉美(しゅんしょくうめごよみ)』に使用例がある。 さらには、単に「他」と書いて「ひと」と読ませている式亭三馬の滑稽本『浮世床』のような 例もみうけられる。 これは推測の域を出ないのであるが、「ひとごと」は古くは「人ごと」、「人事」などと書かれ ていたが、江戸後期に「他人」と書いて「ひと」と読ませるようになったために、「他人事」と いう表記が生まれ、さらにこの「他人事」を「たにんごと」と読むようになったのではないか。 つまり、「たにんごと」の読みは比較的新しい言い方だと考えられる。 このようなこともあってテレビ・ラジオでは「たにんごと」とは言わないようにしているようだ。 また、「常用漢字表」による限り「他人」を「ひと」とは読めないので、新聞は「他人事」とは 書かず、「人ごと」「ひとごと」、テレビは「ひとごと」と書くようにしている。新聞やテレビ・ラ ジオで「人事」を使わないのは「じんじ」と紛らわしいからだとも思われる。