『ムーンライト』の真髄は“冒頭21秒”にあり。重岡大毅とジャニーズWESTが紡ぐ音楽の喜び | オーヤマサトシ ブログ

『ムーンライト』の真髄は“冒頭21秒”にあり。重岡大毅とジャニーズWESTが紡ぐ音楽の喜び



ジャニーズWEST・重岡大毅は、俺がいま掛け値なしに信頼しているソングライターである。

「ソングライターとして信頼できる」。それはどういうことか。

シンプルに言えば、彼は、

他の誰にも書けないぬくもりとひらめきに満ちたメロディを書き、

そのメロディに他の誰にも書けない温度と重さをもった言葉を与え、

そしてその音楽を歌うべき人=ジャニーズWESTのために生み出すことができる。

すごく健全で、こう書くと当たり前にも思えるようなことだけど、これは音楽家であれば誰でもできるというようなことでは決してない。当たり前のようにいい音楽を作り続けるために必要な胆力と技術と情熱。そういう“当たり前でない当たり前”を体現するような音楽表現を、彼は、少なくとも俺が彼を知ってから今まで、途切れること無くやり続けている。

これはすごいことだ。『バニラかチョコ』や『オレとオマエと時々チェイサー』のような豊かなポップスをシングルのカップリングとしてコンスタントに聴くことができるのは、決して当たり前なことではない。これは本当に、本当にすごいことなのだ。

以前『to you』『おい仕事ッ!』の2曲について書いたときは彼の歌詞にフォーカスしたが、音楽家・重岡大毅の真髄はメロディにこそある、と今は思っている。

ポップスやロックをベースにし、聴き馴染みよくしかしどの曲にも必ず、目のくらむようなひらめきが与えられている。『ムーンライト』の冒頭の21秒を聴くたびに、俺はそのことを実感する。



桐山照史から中間淳太へとリレーするボーカル、そこに寄り添うようなピアノ伴奏のみで構成される12小節。特に叩きつけるような無骨さと今すぐにでも消え失せてしまいそうな儚さが同居するピアノで鳴らされるコード進行の素晴らしさ。

ド頭のピアノに感じるのは、何かが始まる予兆への興奮の輝きと、武者震いと不安が入り混じった淡い影のコントラスト。そこに桐山の力強いボーカルが背中を押すように耳に飛び込む。そして桐山の<宇宙行きチケット>から中間の<縁石に乗り込み>へと移行していく瞬間。

俺はこの瞬間のピアノの音色とコード進行が本当に本当に大好きで、このシークエンスがなければ、その後のバンドサウンドの躍動も7人の熱の入った歌唱も、<いつか君を襲う夜の底 一輪の光を>の必殺フレーズも、あっけなく色褪せてしまうだろう。

この永遠にも一瞬にも思える21秒間の音色と声を聴くたびに、ああ、この音楽がいま・ここにあってくれて本当に幸福なことだな、と思う。それはそのまま、自分がいま・ここに生きていてよかった、という実感と同義だ。

重岡大毅が作り、ジャニーズWESTが歌う音楽を聴いて、俺は俺がいま生きているこの世界を肯定する気持ちを思い出す。Mixed Juiceツアーで聴いたときもそうだったし、メトロックで聴いたときもそうだった。そしてこれからもきっと、この曲を聴くたびに俺はこの世界を肯定したくなる、この世界でもっと生きていたくなる、そういう気持ちを思い出すだろう。で、これも全然当たり前なことではない。そういう音楽がいま・ここにあることも、そういう音楽に出会えることも、本当はものすごく、とんでもなくラッキーで幸福なことなのだ。

最後に、この際なので表明しておく。『to you』という曲がリリースされた2020年の時点で音楽家・重岡大毅の、そしてアーティスト・ジャニーズWESTの評価が広く周知されなかったことは今でもとても信じられないことだし、その後にリリースされた楽曲たちに向き合えばなおさら、その思いを強くするばかりである。2022年は『Mixed Juice』という力作とそれを引っ提げたツアー、そしてメトロック・LOVE MUSIC FESといったフェスへの出演、開催中のドームツアーという道程を経て、ようやく彼(と彼ら)の音楽的充実が認知されつつあると思う。

しかし一方で、そういったこと、つまり自分以外の誰かの評価というのは、実は本当に些細で心底どうでもいい事でもある。俺は37歳の薄給安酒好きおじさんで彼らはジャニーズ所属アイドル業7人組であるのだが、互いの立場がここまで違ったとしても音楽というコミュニケーションにおいてはまったくの対等である。作り手・演じ手と受け手が一対一で向き合うことができる、そこにこそ音楽の喜びはある。

幾多の優れた音楽もそうであるように、ジャニーズWESTの『ムーンライト』という曲を他でもない俺自身が浴びることができることの喜びを、心の深いところで受け止める夜だ。


●過去記事

重岡大毅はなぜ「バナナうんち」と書いたか? ジャニーズWEST『おい仕事ッ!』を聴いて考えた

ジャニーズWEST・重岡大毅『to you』――音楽で世界を受け入れるということ