重岡大毅はなぜ「バナナうんち」と書いたか? ジャニーズWEST『おい仕事ッ!』を聴いて考えた | オーヤマサトシ ブログ

重岡大毅はなぜ「バナナうんち」と書いたか? ジャニーズWEST『おい仕事ッ!』を聴いて考えた

 

オーヤ「どうも、オーヤです」

マサトシ「どうも、マサトシです」

オーヤ「いや~、ジャニーズWESTの新シングル『週刊うまくいく曜日』、いいねえ。12月の配信ライブで、生バンドとともに披露されたパフォーマンスも素晴らしかったし」

 

 

マサトシ「こないだテレビでやった、楽曲を提供したサンボマスターとの共演もよかったよね。山口さんのギターがワウ踏みまくりで、ああサンボがやるとこういうアプローチなんだという発見もあって」

オーヤ「アレンジは変えてないのに、あの3人が演奏すると一気にサンボ色が強くなってよかったね。どっかの野外フェスでやってくれたらいいのにな」

マサトシ「まあそんな話もしつつ、そろそろ今回の本題に入ろうか」

ソングライター・重岡大毅の楽曲たち

オーヤ「はい! えーとそもそも俺らがジャニーズWESTの音楽を聴くようになったきっかけのひとつが、アルバム『WESTV!』に収録されている『間違っちゃいない』という曲を、偶然ラジオで聴いたことなんだよね」

マサトシ「うん。他ではあまり聴いたことのない叙情性にあふれる歌詞とメロディに、一気に惹きつけられてしまったんだけど、この曲、メンバーの重岡大毅さんが作詞作曲を担当してて」

オーヤ「これも驚いたよね、へえ~こんないい曲を作る人がグループ内にいるのか、と。で、その後重岡さんはアルバム『W trouble』収録の『to you』という曲を手掛けるんですが、これを聴いてますます彼の音楽が好きになり」

マサトシ「うん、この曲にはマジで驚いた! 2020年はこの曲をほんとによく聴いたよ。3月のリリース時点でははまさかコロナがここまでひどいことになると想像もしてなかったわけだけど、誰にとっても漏れなくしんどくキツかった2020年に『to you』という曲が存在してくれていたことは、すごくありがたいことだったね。

 

この曲については別途「ジャニーズWEST・重岡大毅『to you』――音楽で世界を受け入れるということ」というやつも書いたので、よろしければ。

 


重岡さんはこの他にも『乗り越しラブストーリー』『do you know, girl??』といった曲たちも手掛けてますね(『do you~』は小瀧望さんと共作)」

オーヤ「そして今度こそこっからがようやく本題。今回リリースされた新曲『週刊うまくいく曜日』のカップリングに、新たな重岡楽曲が収録されました。それが『おい仕事ッ!』という曲なんですが」

言葉遊びで歌詞を作る難しさ

※『おい仕事ッ!』は、2021年1月23日(土)夜あたりまで下記radiko経由で聴取可能です。頭出し済。地方在住の方はエリアフリーで。

 

 

マサトシ「まず聴いてみての感想、率直にどうだった?」

オーヤ「あのねえ、イントロでまず驚いた!」

マサトシ「意外だったよねえ。えーーこっちいくのか、と。『間違っちゃいない』~『to you』に心酔してきた俺らからしたら、めちゃめちゃアッパーじゃん、と」

オーヤ「そもそも聴く前にクレジット見たら、リズム隊がベース種子田健×ドラム吉田佳史from TRICERATOPSでしょ!! なにその最強タッグヤバい!! これでタイトルがおい仕事ッ!! えーどうなるの!? 再生!! うわーこういう感じーー!! ぐわーーー!!!!みたいなw」

マサトシ「大興奮だなw で、聴きながら歌詞を追ってさらにびっくりという。

テーマとしてはタイトル通り“仕事”なんですが、王道のお仕事がんばろうぜ的な応援歌・励ましソングというよりは、あっけらかんとしたユーモアを交えながら労働環境を軸として社会に対して怒りを表明するような歌詞が、生バンドによる4つ打ちロック×ディスコ調アレンジのトラックに乗っかるアッパーチューンです。

 

歌詞については『to you』と比較すると、言葉遊びの要素が色濃く出てるね」

オーヤ「あの、正直なことを言うと、俺らってこういう言葉遊び的な歌詞って、あんま得意じゃないじゃないですか」

マサトシ「うん。別にこういうタイプの曲の全部が全部ダメとは言わないけど、簡単に見えてやっぱ難しいと思うんだよ、上手くやらないと音と言葉どっちかに偏りが出る気がして。


この曲、おそらくサウンド先行で歌詞をあとから嵌めてるんだと思うんだけど、聴き心地を最優先にするとどうしてもどこかに無理が出てきたり、意味を放棄せざるを得ない場面が出てきたりする」

オーヤ「うん。まあこの曲も全部が全部神がかった言葉選びになってるかと言うと、ステレオタイプな物言いもなくはないしね。


例えば『to you』を振り返ると、2番の<お前の恥ずかしい過去知ってるぜ>の譜割りって、おまえのっはっずっかっしいっかこしってるぜ~っと、若干の詰め込み感があったりするじゃん。


でもこの跳ねてつんのめる感じが、互いの恥部も知り尽くしたうえで築かれた関係性の妙を絶妙な塩梅で表現してると思うんですよ、単なる言葉遊びじゃなくて」

マサトシ「わかる。でも『おい仕事ッ!』ってテンポも早いし、そういうチャレンジがしづらいというか、けっこう律儀に韻を踏んでいたりもするし、トラックとメロディからの要請にかなり厳密に歌詞を置いている感じというのかな。歌詞カード無しでは聴き取りが困難なのは、やっぱり第一には響きを重視してるからだと思う。

 

でも細かく見ていくと、やっぱ面白いんですよ。曲中随一のキラーワードはやっぱり<バナナうんち>よね」

「バナナうんち」をどう解釈するか

オーヤ「バナナうんちね、いいよねこれw まあ一見なんじゃそりゃという大爆笑ワードなんだけど、前後に配された言葉をどう解釈するかでニュアンスが変わってくるなと。


直前の<やかましい世間>からの流れでは、サイクル早すぎな社会にクソ!と吠える反骨の叫びにも取れる。一方でバナナうんちって要は快便ってことで、健康体の証でもあるじゃん。

 

その後の<健康に生きていたいだけ>を踏まえると、社会に対してバナナうんちを投げるという行為自体が、健康な肉体を持っていることの証明でもある、とも捉えられる」

マサトシ「確かに、そもそも社会の問題にふざけんなと吠えることと、健康に生きることを望むことって、相反しないどころか密接に繋がってるし、どちらも社会で生きる人の営みとしてめちゃめちゃ大事なことだもんね」

オーヤ「おかしいことばかりの世間にバナナうんちを投げつける=異議を表明することは、自分が健康に生きていくために必要なことなんだぜ、とも取れるんだよ。バナナうんちというワードは一見トリッキーだけど、実はめちゃめちゃ健全でまっとうなメッセージなんじゃないかと」

マサトシ「アイドルはトイレに行かないと公言していた時代から幾星霜、単なる下ネタとしてではなく、社会に対する異議申し立てのスタンスの表明としてバナナうんちを選び取るアイドルが現れた、というわけね。

 

確かにこの曲の歌詞って、バナナうんちの価値を実感としてわかってる人の言葉って感じがするのがいい。日々バナナうんちをする喜びを実感してる人から紡がれた言葉というか。……あのー念のため、これあくまで俺らの勝手な解釈ですけどね」

オーヤ「はははw まあ歌詞なんて深読みしてナンボでしょう! 誤読上等!」

マサトシ「もちろんよ! で、このバナナうんちよりもっと驚いた歌詞があるんだよね」

オーヤ「うん。それはどこかというと、終盤で藤井流星さんによって歌われる<頑張る時もありますけど 頑張らない時もあります>のラインだね。本曲の中でも最も注目を集めるであろう落ちサビパートに配されてます」

「頑張らない時もある」と表明するということ

マサトシ「この曲に通底するムードとして、色々あるけどまーまー適当にいこうぜ、っていう楽天的な感じがあるじゃん。それがアイドルポップスとしての聴きやすさに寄与してると思うんだけど。ただこの<頑張る時もありますけど 頑張らない時もあります>には、そういういい意味での適当さや楽観が薄くて、一気にマジな感じがするというか。


やっぱり“頑張る”って圧倒的に、絶対的に善なことじゃん。でもこの国の労働の現場においては、頑張る・頑張ろう・でも頑張れない・頑張ってもどうにもならない、みたいな現実が当たり前のようにゴロゴロ転がっている。

 

ブラック企業という言葉が子供の間にも普通に浸透してしまったほど、頑張ろうとした人たちが頑張れなくなって倒れてしまうしんどい状況が露呈し続けていて。それでもやっぱり“頑張ること”は善であり続けているわけで」

オーヤ「そこでこの<頑張る時もありますけど 頑張らない時もあります>って、絶対的な善とされてきた“頑張る”を、自ら、主体的に、放棄しますよ、っていう意思表示なんだよね。厳密には放棄することもありますよ、というニュアンスだけど、この主体性がポイントで。<頑張らなくていいんだよ>となだめるんじゃないのよ」

マサトシ「しかもそこから<目指すは大往生>につながるんだよね。だから要は、“頑張らないことを選び取ってでも、健康で生き延びようぜ”、ってことでしょ」

オーヤ「凄いのが、あえて言えばこれまでジャニーズWEST自身が歌ってきた応援ソングもやっぱり頑張ることを肯定してきたし、そもそも応援ソングというもの自体がそういう性質のものであるとは思うんですよ。それを否定するつもりはないし。

でも2021年にジャニーズ事務所所属のアイドルグループとして発表する仕事・労働をテーマにした楽曲の肝となる歌詞として<頑張らない時もあります>という言葉を持ってきたというのは、なんというか、ギリギリの抵抗というか……や、うーーん別に抵抗の意識はないのかもだけど、この国や社会に対しても、そしてこの国のエンタテインメントや自らの生業=男性アイドルという存在に対しても、結果的にすごく批評的な表現になっていると思う」

マサトシ「そもそも仕事をテーマにしたうえで、描き方は他にいくらでもあるわけで、その中からなぜ“怒り”や“抵抗すること”を切り口に設定したのか。この曲の結論としては、やっぱり大往生を迎えるためなんだよね。

 

つまりだから、“適当な時も頑張らない時もあるし、おかしいことには怒るし抵抗もする、そうやって社会の中でみんなバナナうんちしながら健康体で生き延びようぜ”って曲なんだよ。これ、2021年の日本においてけっこう切実なメッセージなのでは?っていう」

オーヤ「少なくとも俺らはおおっと思ったよね。で、大事なので繰り返すけど、そういうメッセージを一方的にではなく、聴き手の主体性に訴えかけてるのがポイントで。

 

<頑張らなくていいんだよ>じゃないんだもん。<頑張らない時もあります>って言い切ってるからね。聴き手をある意味挑発してるし、信頼してもいる」

マサトシ「いやー最初はシンプルにわかりやすいパーティーチューンとして聴いていたけど、何度も繰り返し聴くことで大きく印象が変わった曲だった。それだけ読み解きがいのある歌詞だったね。

 

まあ身も蓋もない言い方すれば、ここまで考え込まなくても普通に楽しく元気が出る曲ではあるんだけどw」

 

※リマインド。『おい仕事ッ!』は、2021年1月23日(土)夜あたりまで下記radiko経由で聴取可能です。頭出し済。

 

 

オーヤ「でもその、読み解きがいがあるっていうのは『to you』とか重岡さんの過去曲にも同じことが言えるよね。

 

小学生にも伝わる平易な言葉の組み合わせで、聴き手の想像力を拡張していくセンスとテクニック、そしてその先にあるメッセージの着眼点の独自性に、改めて気付かされた曲だったな。うーんこの他にもおもろい所は色々あるけどキリがないわ」

マサトシ「とりあえず今後の音楽家・重岡大毅による作品にさらなる期待を! という感じで今回は〆かね。じゃあお疲れさまでした~」

オーヤ「お疲れさまでした~」

 

マサトシ「……」

オーヤ「……」

マサトシ「……ごめんやっぱ最後にいっこいい? こないだの12月の配信ライブ、すごくよかったんだけどさ」

オーヤ「あ、やっぱ気になった?」

マサトシ「あのー、これ彼らに限らず、ロックバンドとかシンガーとか色々な表現者に言えるんですが、新譜のレコ発ツアーで新譜の曲をぜんぶやらないの、あれはどういうことなんだろう」

「レコ発ツアーで新譜の曲ぜんぶやらない問題」はなぜ起こる

オーヤ「だってレコ発ツアーなんだぜ? 新譜の曲を聴きたいと思うのって自然なんじゃないの?」

マサトシ「や、これまでは俺もそう思ってたよ。聴き手はもちろん、アーティスト側だってやっぱりいちばん新しい曲を聴いてほしいんじゃないの?って。でも本当に多いんだよ、新譜の曲がカットされること。

 

今回で言うと個人的に俺が観た回で『ごっつえーFriday』が聴けなかったのは痛恨の極みだったんだけど、それ以上に特にわけわからんかったのが、生バンドを引っさげたパートで披露された『ANS』がなななんと日替わり曲で入れ替えになってたんですよね……」

オーヤ「それを知ったときの落胆といったら……。『ANS』はジャニーズWESTのもうひとりのソングライターである神山智洋さん作で(作詞は藤井流星さんとの共作)。

 

重岡さんとはまったく違うタイプの音と言葉を紡ぐ人なんだけど、『ANS』はこれまでの彼のレパートリーの中でもメロディも歌詞も出色の出来だと思っていたし、音源でのメンバーの歌唱もすごく感情が乗っていて、きっとライブの沸点になるだろうと思ってたからさ」

マサトシ「しかも日替わりで入れ替えだったのがよりによって『アンジョーヤリーナ』って(頭抱)……いやそれテレコにする2曲じゃねーだろ!! アンジョーヤリーナもめちゃめちゃよかったけども!!!」

オーヤ「どっちもこのタイミングで聴きたかった曲だよねえ……選べるわけないよねえ……。まあライブ全体の構成の完成度を突き詰めるなかでの判断だというのもわかる。わかるよ。わかるし実際満足もしてる。してるけどさ……ううう」

マサトシ「まあ万人が完全に満足できるセットリストなど存在しないというのは揺るがぬ真理ではあるんだけどさ。まあこのレコ発ツアーで新譜の曲演奏されない問題は、地道に訴えていきましょう……。繰り返すけどライブ自体はよかったです! 

 

あと本当の最後に、今回各メンバーのパフォーマンスについて全然触れられなかったんだけどせめてこれだけでも。あのー、神山さんの歌の巧さ、あれは何?」

オーヤ「グループ内でも断トツにいい異様なまでのピッチの正確さ、あれほんとにどうなってんだろうね。そして言うまでもなく巧さを超える情緒もある。今回のシングルだと表題曲の歌い出しとか、カップリング『Candy Shop』の2番の歌唱とか、すさまじかった」

マサトシ「『週刊~』のMVの身のこなしもすごいしね。彼以外にもまだまだ俺らが気づいてない魅力がたくさんあるってことなんだろうなあ」

 

 

オーヤ「じゃあまた彼らの刺激的な音楽に出会えることを楽しみにつつ、本当に〆!」

マサトシ「『おい仕事ッ!』のライブ初披露はいつになるかなあ…」

 

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※1/21 19:00頃若干追記しました。

 

※2/9 22:04 読み返すと、「レコ発ツアーで新譜の曲演奏されない問題」と書いてるけど、これって細かく言うと新譜=リリースツアーに冠された新アルバム、という意味合いなんですね。なので『W trouble』を冠したツアーで『ごっつえーFriday』を(日替わりとは言え)やらないのはどうなのよ、という論旨だったわけです。で、それで言うと、『ANS』と『アンジョーヤリーナ』はどちらもシングルのカップリングで新譜(=アルバム『W trouble』)収録曲ではないので、おんなじ段落に収めるにはちょっと無理があるというか説明が足りないと言うか、若干書き飛ばしてしまってた感があるなと。ANSとアンジョーってテレコにする曲ではないじゃん、というのが主題ではありました。自省。