ジャニーズWEST・重岡大毅『to you』――音楽で世界を受け入れるということ | オーヤマサトシ ブログ

ジャニーズWEST・重岡大毅『to you』――音楽で世界を受け入れるということ

 

ジャニーズWESTの重岡大毅ちゃん(※これは照れ隠しを踏まえた敬称です)がちょっと前に作詞と作曲を手がけた『間違っちゃいない』という曲を、密かに気に入っていた。

まずメロディがとてもいい。ジャニーズ所属のアイドルが歌うポップスとしての分別(そんなものが明確にあるわけでないけど、そのようなもの)はきちんと踏まえつつ、しかしありそうでなかなかない、普通ならこっちにいくだろうという定石を絶妙に排しながら、オリジナルな温度を持ったメロディラインなのだ。

そんなメロに対する言葉の乗せ方にも、新鮮な驚きがある。有り体に言えば応援ソングではあるのだけど、<間違っちゃいない>という平易かつ若干のいなたさをもった言い回しが、決して歌いやすくはない高低差のある音階と跳ねるリズムとともに歌われると、生きることを丸ごと肯定するマジカルなフレーズとしてキラキラと輝き出す。

まずメロディメイカーとして得難いセンスがあり、そこに最適な言葉を選ぶことができる。つまりはポップスを創作する音楽家として必要不可欠な能力を彼がすでに備えていることが、『間違っちゃいない』という曲を聴けばわかる。

さらに重要なのは、そのある種の器用さがテクニカルな領域にとどまることなく、今様に言えばエモさの発露として機能している、ということなのだ。

今回、重岡大毅ちゃんが、ジャニーズWESTのニューアルバム『W trouble』のために新たに書き下ろした『to you』という曲を聴いて、思い出したことがある。『文藝 2007年春季号 特集:恩田陸』(河出書房新社)内で展開された、恩田と漫画家・よしながふみの対談における、下記のやりとりだ。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309977065/


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恩田
あと、よしながさんの描く漫画では登場人物がちゃんと自分の人生に対するツケを払っているところが好きなんですよ、私。

『西洋骨董洋菓子店』でも、主人公が幼少時代に誘拐されるというトラウマを背負いながらも最後、「結局、オレは全然変わってねーじゃねーかよ、じゃあまたケーキ売るか」って呟いていつも通り家を出ていく、というのは、何かちゃんと自分の人生を自ら引き受けて生きているっていう感じがするんです。

よしなが
私はドラマが大好きでよく観るんですけど、例えばヒロインのトラウマがレイプだった場合、途中で男性恐怖症に陥りながらも、レイプした当事者を告訴し最後は恋人とよりを戻すという、まあいい終わりなんですよ、決して明るくはないけれど。これから苦しいこともあるだろうけど頑張っていこうというところで終わっている。

やっぱり物語だと克服させちゃうんですよね。でも実際生きている人の中には、加害者を告訴もできなければ恋人ともよりを戻せなかった要するにトラウマを乗り越えられなかったという人も大勢いると思うんです。

ただそうすると克服できない人というのは不幸なのか、男性恐怖症のまま幸せになるという道筋はないものかなという、何かそういうことを思って『西洋骨董洋菓子店』は描き始めたんです。

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恩田の<登場人物がちゃんと自分の人生に対するツケを払っている>という指摘は、よしなが作品に対する端的かつ的確な批評だと思う。

キャラクターそれぞれの人生を収まりのいい物語に回収させることなく、物語からどうしようもなくはみ出してしまう、生きているからこそ生まれてしまう、整理のつかなさややるせなさ、ままならなさ、そういったものを掬い取るのが、よしなが作品の魅力だ。

で、俺は重岡大毅ちゃんが作る音楽にも、同じものを感じる。

重岡ちゃんが作る楽曲は、ポップスとして、音楽として、すごくよくできている。あえてこういい方をしてしまうけど、この人は日本のヒットチャートを主戦場とする、しかもアイドルが歌う商業商品として成り立つポップスを作ることができる資質と能力を備えている。(個人的には彼が楽曲のアレンジ・編曲にどこまで自覚的に関わっているのか、とても興味深い)

しかし、繰り返すが、彼の作った曲を聴いて最終的に心に残るのは、そういった技巧的なうまさを超えた、彼自身の中からあふれるエモーションなのだ。

<あばよ、あばよ>という、彼らしいつっけんどんだけどチャーミングな言葉選びと、暖かさを増す春の日差しが似合う陽性のサウンドが相まって、喜びや悲しみといった単一の感情を表す言葉では整理できない、ストレンジな手触りが生まれる。

この世界には、自分の力では、ましてやどんな方法でもどうすることもできない、抗いようのないことが、確かにある。そんな世界に生きる者として、「そんな世界を愛せるのか?」、という自問。それはある種の諦観(=世界の原理に逆らうことはできないという確信)を含んでもいる。

そんなシビアかつ根源的な問いに対して、つまりこの世界が抱えるどうしようもなさ/ままならなさのすべてをまるっとひっくるめて、「おうよ、愛してやるぜ、愛してやろうじゃねーか」、と宣言してしまう、(投げやりや強がりも含んだ)覚悟のような、世界への応答。これは自分の人生、そして自分が生きる世界を、(ネガや矛盾も含め)受け入れていこう、受け入れてやる、という態度の表明だ。

で、彼は、そういうメッセージを、ヒットチャートを主戦場とするジャニーズ所属のアイドルグループであるジャニーズWESTの新作アルバム収録曲として、身と心を削って生み出したのだ。つまり自分が作るこの『to you』という音楽が、この世界にとって必要なものなのだ、と、心の中でグッとアクセルを踏んだのだ。

俺にとって『to you』はそういう曲で、あーいい音楽と出会ったなー、と思って、何度も聴いている。音楽が好きな者にとって、そう思えるような音楽と出会えることほど嬉しいことはないし、そういう音楽を作る表現者との出会いは、このうえない幸せだ。7人のボーカルもすごくいい。こういう曲が肯定・共有され、いま世に出たことが喜ばしいよ、俺は。

重岡大毅ちゃんには、もっともっと音楽を作って欲しい。まずはいま生み出されたばかりの『to you』という曲を繰り返し聴こうと思う。

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※おそらく3/25くらいまではこのラジオ内でOAされたもの↓をタイムシフトで聴けるかもです(何も調べず書いてます間違ってたらすみません

http://radiko.jp/share/?sid=QRR&t=20200319232403