「息子は親父を追い越してゆく」
息子に追い越されることが、現実味を帯びてきた。
息子は現在、中学二年生である。
確かに将棋では、息子に負けることが多くなった。
将棋を教えてやったのは私だけれど、最初の頃はもちろん親父のほうが強い。しかし息子はいつしか、雪辱に燃えていたようだ。
ある日の夜。息子にしては珍しく本を読んでいると思ったら、詰め将棋の本に食い入っていた。
先週の日曜日。爺さんから小遣いをもらった息子はこれまた珍しく、本屋に行ってくると言って出かけた。
帰ってきた息子は、早速買ってきたばかりの本にかじりついている。
こっそり後ろから覗いてみると、ベージには「将棋序盤完全ガイド・振り飛車編」とある。
彼なりにいろいろと、戦法を研究しているようだ。
そんなこんなで、努力が実ってきたのだろう。既に実力は伯仲している。
息子に初めて負けたときは本当に悔しかったが、今では少し嬉しくもある。
話は変わり、息子は中学の部活で、剣道部に入っている。
先週、初段を取った。彼なりに一生懸命頑張っている。
実は私も剣道をやっていて、段位では上だから、息子に稽古をつけることがある。
今のところは、私のほうが強い。しかし、そのうち追い越されるのは確実だろう。事実、この前の稽古ではいきなり小手を決められた。
油断できない腕前になってきたのである。こちらも本気にならないと、やられてしまう。
初めて小手を決められたときは悔しかったが、今では本気で立ち合えるのが嬉しくもある。
徐々に息子は、親父を追い越し始めているのである。追い越し禁止区間は、長くは続かないのだ。
生意気盛りで腹の立つこともあるが、男として認めてやれる場面が多くなった。
ただ、風呂上がりに素っ裸で居間に現れるのだけは、認めてやるわけにはいかない。黒々した股間を露わにする男を、見たくもない。