奥さんは、僕と同世代である。
人は今が全てであり、一瞬先の命すら保証されない。
頭の中だけで、分かっている。
今朝、いつものように起きる。嫁さんが子どもたちを起こす声がする。猫が部屋を駆けずり回る。
我が家では、ふつうの朝である。
お向かいの家は、どんな朝を迎えたのだろう。
夫と二人の子どもたちが、黒い喪服姿で家から出るのが見えた。
声をかけることができなかった。
嫁さんは、洋服タンスから喪服を引っ張り出した。
僕は今から出勤する。
人は一瞬先の命すら保証されていない。
ふつうの朝だと思っているが、実は奇跡的な朝だったりする。
そんな大切なことを、頭の中だけで分かっている僕は、事務所の扉を開けるまでには忘れているかもしれない。