それぞれが気の置けない関係なので、いろんな話題が絶えなく続く。
時に辛辣な、遠慮のない会話も繰り広げられた。
「なぜギターを弾きだしたのか」
こんな話題になったとき、対角線上に座した男が「女にモテたいから」と答えた。
「オレも同じ」
僕は、そう答えた。
きっかけなんて、そんなものだ。
女にモテたいという、男であれば至極当然な欲求。その欲求を満たすために、ギターを弾きだす。
ところが、大半の男は、欲求が満たされることのない現実に直面することになる。
問題は、そこから先だ。先にはまず、二つの道が用意されているのを確認する。
女にモテたい欲求が叶わず、失意のうちにギターをやめてしまうか、またはやめずにいて、欲求が音楽に昇華するか。
僕は後者の道に進んだ。対角線上に座した男もそうだ。
ギターを弾きだして、かなり時が経ったが、腕前はちっとも上がらない。
しかし、対角線上の男は凄いテクニックを持っている。
腕前は相当違うし音楽性も違う。しかし女にモテたいという、ギターを弾きだした動機は同じだ。
さて。
対角線上の男には、実際に女にモテたかもしれないという、疑義が残っている。
次に会ったときに探りをいれるが、正直な答えが返ってくるとは限らない。やはり疑義が残る。
しかし、ちっともモテなかったという返答があれば、それは晴れるだろう。
対角線上の男はどう答えるだろうか。
どちらにしても、動機は不純でよい。