平成の怪奇小説が15作品、発表順に収録されているアンソロジー。

 

宮部みゆき、坂東眞砂子、小池真理子などホラー小説でなじみがある作家もいれば、吉本ばななの作品もあったりして、いろいろな怪奇小説が楽しめると思います。

 

わたしがこの本を手に取ったのは、霜島ケイ「家――魔象」が目当て。

 

*

 

霜島ケイ「家――魔象」

怪談好きなひとは知っているかもしれません。「三角屋敷 怪談」とかで検索したら詳しくでてくると思います。この「三角屋敷」について書かれた作品は「家――魔象」以外にもいくつかあります。霜島ケイ「三角屋敷の怪」(『文藝百物語』に収録)など。

 

簡単に内容を説明すると、霜島さんが住んでいた二等辺三角形をしたマンション。少し気になることはあったけど、何事もなく二年間住んでいたマンションが、印象的な夢をみたことを霊感のある友人に話したことがきっかけになって、恐ろしい場所だと知ってしまう……という感じです。

 

わたしは作品を読むまえに「この話は実話」と見かけたことがあったので "実話" として読みましたけど、真っ新な状態でこの作品を読んだひとはどのように思うのでしょうかね。

 

霊感がある友人のことばに引っ張られて被害妄想気味になった女性を描いた作品、と読むこともできますよね。

 

霜島さんは二年間問題なく過ごしていたのに、霊感のある友人から「呪を仕掛けられたマンション」だと知らされます。たちの悪いオカルティストの設計者が、住んでいる人間がどうなるかおもしろがって建てたマンションだと……。その友人は霜島さんに、そのまま住んでいると最悪の場合は命まで取られる、というのです。そして「3」という数字に気をつけて、と。

 

霜島さんは友人がいっていることが本当だとしても、楽しく暮らしていればいいだろう、悪いことが起きたときに、なんでもかんでもマンションのせいにするほうが問題だろうと、冷静に判断します。けれど、結局、引っ越しをします。(引っ越しのとき、霜島さんは引っ越し業者のひとりから「前の家、何かありました? この仕事、長いですから。いろいろな家をみていますからね」と意味深なことをいわれたそうです。)

 

引っ越しを決める数日前、霜島さんは33歳の誕生日を迎えます。その日、送り主不明のケーキが届いたのです。「家――魔象」には詳しく書かれていませんけど、霜島ケイ「実在する幽霊屋敷に住んで」(『日本怪奇幻想紀行 六之巻 奇っ怪建築見聞』)を見ると、チョコレートケーキとチーズケーキだったそうです。このことを聴いた知人は「白と黒」という取り合わせというのは気味が悪いといったそうです。

 

ケーキの差出人は霜島さん本人になっていました。友人、知人、いろいろなひとに電話して訊いてみたけれどだれも知りません。霜島さんは(作家ということもあって)自分の本名を知っているひとは限られているといいます。住所、誕生日を知っているひとも限られていますよね、きっと。知っているひとは親しいひとなんじゃないですか。

 

……わたし、この話、とてもこわいと思うのです。

 

この建物がお話のなかでいわれているようなものだとしても、そうじゃないとしても。

 

このケーキってだれが送ったのでしょう。オカルティストの設計者の関係者?(だとするなら悪手よね。どうなるか見ていたいならなにもしないのがいい。)そうじゃないなら……自宅、誕生日、本名を知っている、たぶん身近な誰かが(それこそ悪意を持って、もしかしたら善意かもしれないけど)送ったことになりませんか。

 

*

 

夢枕獏「抱き合い心中」

ちょっとびっくりした、釣り怪談。

 

私小説に思わせて物語の世界に違和感なく連れていかれる……さすが、と思っていたら、「編者解説」を読むと

 

『作者が鮎釣りの名人から聞かされた実体験談にもとづく作品だという』

 

と書かれているじゃないですか。まさかの実話怪談小説。

 

 

***

 

余談。

「三角屋敷」の感想を書いていたとき(2024.6.4)、突然、部屋の照明が勝手に点くという現象が……。おなじ部屋のべつのライトも一緒に点きました。なに、これ。ってたぶん、(音は聞こえなかったけど)雷のせい。