上巻(『日本怪談集 奇妙な場所』)はこちら

 

怪談アンソロジー。『日本怪談集 取り憑く霊』と内容は同じです。

「動植物」「器怪」「身体」「霊」に分類して作品が収録されています。

 

下巻には怪談アンソロジーでよく見かける作品が収録されていました。小松左京『くだんのはは』、岡本綺堂『蟹』『鎧櫃の血』、橘外男『蒲団』、田中貢太郎『竈の中の顔』などなど。どの作品もおもしろいです。こわさを期待するとちがうと思います。見たらわかる通り文芸的なおもしろさ。

 

芥川龍之介『妙な話』

おどろおどろしい幽霊話じゃないです。ふしぎな話。「妙な話」。おもしろいですよ。最後の数行が効いているんです。ここで物語の印象がガラッと変わる(話し手〈村上〉はすべてを知っている)。と、わたしは読みましたけど、ひとによって受け取り方はちがうみたいですね。いろいろな解釈ができるし、謎解き的なおもしろさがあります。kindleや青空文庫で無料で読めます。数ページの短い作品なので気軽にどうぞ。

 

『妙な話』の作品紹介のところに、芥川の『奇怪な再会』『近頃の幽霊』もぜひご併読を、と書かれていたので素直に読んでみました。どちらもkindleや青空文庫で読めます。

 

『奇怪な再会』はなかなかこわい話。こわさだけでいったら『妙な話』よりずっとこわいです。

 

お妾さんがだんだんと "あちらの世界" に行ってしまう(発狂する)話。

 

お手伝いの婆やが障子の隙間から覗くお妾さんの姿の不気味なことよ……。お妾さんが話す出来事と、その出来事を玄関の陰から盗み見ていた婆やが話すことのギャップよ……。神経がぴりぴりするような不安感が味わえる作品。

 

こちらも一時間もあれば読み終わる作品です。 

 

ちょっとおもしろいなと思ったのは『近頃の幽霊』に書かれていたこと。

 

『(略)近頃の小説では、幽霊――或は妖怪の書き方が、余程科学的になってゐる。決してゴシツク式の怪談のやうに、無暗に血だらけな幽霊が出たり骸骨が踊りを踊つたりしない。殊に輓近の心霊学の進歩は、小説の中の幽霊に驚くべき変化を与えたのです。』

 

とあるのですけど、『新耳袋』が出るまえは恨み言をいったり血だらけの幽霊が主だった、なんて話があったりするように、80年代くらい? の怪談を読むと、さすがに骸骨は踊らないけど、無暗やたらに血だらけで自らそれっぽい雰囲気を作ってくる幽霊がよく登場する気がします。大正時代の小説ではすでに退場しつつあった "いかにも" な幽霊たちが怪談で活躍していたんですよねえ。いまでは怪談でもあまり見かけなくなりました。