嫌われ剛の生涯[3]入院、そして改心 | オカハセのブログ

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[2]は。

それから数年後、剛はあるジャズクラブのジャムセッションにまるでホームレスのようないでたちでふらっと現れた。こんな嫌われ剛でも、唯一「順也」という大学生のベーシストからは恩人として慕われているのだ。
剛がサックスを吹いたその瞬間に順也は自分の耳を疑った。「あれ?この人はもう前のようなプレイはできなくなったのか?」。
それは酷い音に酷いリズム感…順也は「この人はもう終わった人なのかもしれない」と思ってしまった。順也は、なんとか昔のような剛に戻って欲しかったから剛に対して「あんた何をやってるんですか!ちゃんと吹けるようにしてきて下さいよ!」と喝を入れた。剛は精神バランスを崩し精神安定剤や眠剤などの処方を受けていたために副作用でまともな演奏をするための聴覚や体力が低下していたのだ。酒と処方薬でろれつも回らなくなってる。順也に対する言動や態度も酷くなっていた。ふたりは大喧嘩になってしまう。

その数日後、順也の大学のジャズ研の部室に現れた。
明らかに酔っ払っている…
学生達に「おい!ワークショップをするぞ。それぞれ楽器を持って準備をしろ!」。
部長である順也はあきれ返りながらも剛が吹く気になってるんだから吹かせてやろうという愛情から「お前ら、剛さんがワークショップしてくれるのは貴重な機会だぞ」とまとめた。
図に乗った剛は自分のアドリブになると好きなだけ延々と吹きまくり、学生達はウンザリしていた。剛はトイレにしょっ中行き、グラスを吸って帰ってきては吹きまくる。確かに数日前のジャムセッションの時とは大違いに音も出てるしリズム感もしっかりしていた。剛は「吹けなくなる処方薬は嫌だ。だったらちゃんと吹けるグラスを吸って何が悪い」と正当化していた。実際きっちり飲んでいた処方薬をいきなり全く飲まなくなったための離脱症状を抑えるために、知り合いのロックミュージシャンから安くわけてもらったのだ。おまけにカバンの中から安ワインを取り出してラッパ呑みしながら吹いている。「部室で飲酒は禁止ですよ!」と順也がいっても聞かない。
また順也と剛は大喧嘩になった。
順也は剛を部室から追い出し「剛さん!もうあんた出入り禁止だ!それからトイレで麻を吸って、誰かが通報しても俺は知らないからな!」と言った。
剛「ああ、わかったよ!でもな!お前が『ちゃんと吹けるようにしてきて下さい』と言ったから処方薬をやめたんだからな!俺は悪くない法律が悪いんだ!」
順也「うるせえ!二度と来るな!」
剛があまりにも破滅的になっているため、もう順也は手に負えなくなり離れざるおえなかった。

数ヶ月後、剛は「とうとう俺には味方はひとりもいなくなった」と更に精神を病んでしまい精神科病棟へ入院した。自業自得だ。
幸いな事に主治医との相性が良くて、入院初日に【毎日1時時間半と土日は3時間、サックスを吹く】ということが治療の一環として約束された。

入院して2ヶ月程経った。
順也もさすがに入院している剛を放っておけなくなってきていた。
剛を見舞いに来た順也は「来月の○日に外泊許可取れますか?」と聞いた。剛は「何があるんだ?」「あんたのライブに決まってるでしょう」「あー、わかった!今聞いてみる」

こうして剛は順也に助けられた。この頃は剛よりも順也のほうが信用も人気もあったから他の楽器メンバーも「剛はもちろん良いテナー吹きだ。だけど人間的にはかなり問題がある…でも順也の頼みなら協力するよ。もちろんいいライブにしような!」と動かすことができた。

1ヶ月後のライブは成功した。まだまだ剛は本調子とはいえないが、充分に聴き手をワクワクさせる演奏をした。順也は「この人はまだ終わってはいなかった…良かった」と思った。
順也「退院したら今度はもっと自分を大事にすると約束するなら、必ず一緒にやりましょう!」
剛「もちろん約束する。今回のライブ、本当にありがとう」
剛は順也のはからいに感謝して目に涙を浮かべていた。




[4]へ続く。



長谷川孝二