外壁工事に数百万円を払う年と、設備の小修理だけで済む年では、アパートの支出は大きく変わります。毎年の家賃から一定割合を残すだけでは、工事が集中する時期に資金が足りないこともあります。

もう一つ注意したいのが、支払額と税務上の経費の違いです。建物を直す工事でも、全額がその年の修繕費になるとは限りません。三つの修繕区分、長期的な費用モデル、資金の逆算、会計処理の順に確認します。

アパートの修繕を三つに分ける

大規模修繕:建物全体の機能を保つ

屋根、外壁、防水、共用階段、給排水管などのまとまった工事です。塗装と葺き替え、表面補修と下地交換では範囲も価格も異なります。足場が必要な工事をまとめられるか、漏水など急いで直す箇所がないかを点検し、優先順位を決めます。

劣化を放置すると、雨水が内部へ入り、補修対象が広がることがあります。ただし、築年数だけで一律に工事を発注するのではなく、診断結果と過去の施工内容を照合してください。

小規模修繕:故障や部分的な傷みに対応する

給湯器や換気扇の修理、水栓交換、排水管の洗浄、廊下やベランダの部分補修などです。小さな工事でも同時期に複数戸で発生すれば、負担はまとまります。設備の設置年、故障内容、交換履歴を戸別に記録すると、今後の支出を見積もりやすくなります。

点検、防蟻処理、耐震補強は、それぞれ目的が異なります。「小規模」という呼び名だけで金額や会計区分が決まるわけではありません。

原状回復修繕:退去後の負担範囲を確認する

壁紙、床、水回りの清掃・補修などが中心です。通常の使用による損耗や経年変化は原則として貸主側の負担で、借主の故意・過失による損傷とは分けます。

落書きや無断の改造による傷があっても、新品交換費の全額を当然に請求できるとは限りません。有効な特約、必要な施工範囲、経過年数も確認します。所有者が次の募集のために行うグレードアップと、借主が負担すべき回復工事も別です。国土交通省の原状回復ガイドライン

修繕費は11~15年、21~25年に集中するモデルもある

国土交通省のガイドブックには、木造・10戸の賃貸住宅について次の例が掲載されています。金額は各期間の「一戸当たり」の概数です。

建築後の期間 1LDK~2DK 1K
5~10年 約9万円 約7万円
11~15年 約64万円 約52万円
16~20年 約23万円 約18万円
21~25年 約98万円 約80万円
26~30年 約23万円 約18万円

資料記載の合計は、一戸当たり約216万円/約174万円、一棟では約2,160万円/約1,740万円です。各欄は丸めた概数なので、表示値を足した額とは一致しません。

このモデルは2014年の資料等を基礎としており、2026年の工事見積額ではありません。屋根や外壁、設備の更新が重なる時期を考えるための資料です。30年を超えれば支出がなくなるわけでもありません。国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」

取得時に修繕履歴を確認し、長期計画を作成したうえで定期点検を行います。異常があれば専門家による調査と工事へ進み、計画を更新する流れです。潮風、日射、使用状況、素材による差もあるため、周期の表を交換期限や安全保証にしないことが大切です。

積立額は家賃の割合ではなく、工事の期限から逆算する

家賃の10~15%という目安だけで十分かは、建物ごとに異なります。6年後の計画工事が480万円、専用資金が120万円なら、不足360万円を72か月で準備するため月5万円が必要です。

日常の故障対応を年24万円、退去関連を年36万円と見込む仮例では、それぞれ月2万円、月3万円を加えます。合計は月10万円、年120万円。年間家賃480万円なら25%に相当し、10%の積立では届きません。ただし、日常修繕等を運営費に含めている場合は二重に差し引かないようにします。

工事が20%値上がりして576万円になれば、追加積立は月約6.33万円、他の二予算を含め月約11.33万円です。価格は480万円のままでも、工事が2年前倒しになれば、不足360万円を48か月で準備するため月7.5万円、合計月12.5万円になります。

計画工事の値上がりと前倒しによる必要資金の違い

以上は資金計画の仮定で、相場ではありません。点検で時期が変わったとき、見積もりを更新したとき、積立を取り崩したときには再計算します。

相見積もりでは面積、材料、下地処理、足場、廃材処理、消費税、保証をそろえます。追加工事が発生する場合の単価、写真報告、承認手順も発注前に決め、工事後は完成写真と請求明細を残してください。

修繕費と資本的支出を五段階で判定する

通常の維持管理や原状回復の支出は修繕費、価値を増したり使用可能期間を延ばしたりする部分は資本的支出として扱うのが基本です。請求書の工事名ではなく、実際の内容で判断します。

まず、新しい独立した設備の取得と、既存資産の修理・改良を区別してください。そのうえで修理・改良について、次の順で確認します。

  1. 一つの修理・改良が20万円未満か。該当する場合は修繕費にできる取扱いがあります。
  2. おおむね3年以内の周期で行うことが、過去の実績などから明らかか。これも修繕費にできる取扱いです。
  3. 通常の維持管理・原状回復か。内容が明らかなら、20万円以上でも修繕費になり得ます。
  4. 価値や使用可能期間を増す部分か。明らかな部分は資本的支出として区分します。
  5. なお区分不明の金額が残る場合、60万円未満、または前年末の取得価額のおおむね10%以下かを確認します。

20万円判定は、一つの計画に基づく同一資産の修理・改良を単位に行います。請求書を分けて少額に見せる判定ではありません。また、10%の基礎は減価償却後の帳簿価額ではなく、前年末の取得価額です。国税庁「修繕費とならないものの判定」

区分不明額を一律30%・70%に分けない

上の基準で扱いが決まらない区分不明額について、継続適用を条件に「その支出額の30%」と「前年末の取得価額の10%」の少ない方を修繕費にする取扱いがあります。

例えば区分不明額120万円、前年末取得価額800万円なら、36万円と80万円の小さい方である36万円が修繕費、残り84万円が資本的支出です。常に30%が修繕費になるわけではありません。明確な価値向上工事を任意に分割する制度でもありません。国税庁・所得税基本通達37-10~37-14

アパート修繕費と資本的支出を判定する5段階

四つの工事例で違いを確かめる

キッチン:同等品への修理か、機能の追加か

傷んだ部分を同等の機能に戻す工事と、従来のブロック型から高機能なシステムキッチンへ変更する工事では、判断材料が異なります。既存設備の状態、変更前後の機能、配管や電気工事の範囲を明細に残します。新しい独立設備の取得に当たるかも確認が必要です。

給湯器:故障対応と追い焚き機能の新設を分ける

同等性能に戻す修理と、追い焚き機能を新たに付ける改良を区別します。既存資産の一つの修理・改良が18万円なら、20万円未満の取扱いを検討できますが、新規取得まで同じ理由で修繕費にはできません。金額は本体だけでなく必要な取付工事等も含めて確認します。

外壁:塗料名だけで資本的支出にしない

ひび割れや色あせを直す通常の塗装は、維持回復の支出として考えます。一方、断熱等の性能を付加する工事は、その内容によって資本的支出になり得ます。「フッ素塗料だから全額資産」とは限らず、通常の補修に必要な仕様と性能向上部分を見分けます。

災害復旧:通常の修理とは別の取扱いもある

被災資産の原状回復や、一定の補強・排水・土砂崩れ防止の費用には、修繕費として扱える規定があります。新しい資産の取得は別です。

業務用被災資産の復旧費で区分困難な金額の30%を原状回復とする別の特例もあります。通常の「30%と取得価額10%の少ない方・継続適用」と混同せず、雑損控除の対象か、資産損失と二重にならないかまで税理士に確認します。国税庁・所得税基本通達37-12の2、37-14の2

会計処理で間違えやすい三つの点

一つ目は、消耗品費との違いです。清掃用品等と、耐久性のある設備の取得を分けます。少額資産には「使用可能期間1年未満、または取得価額10万円未満」の取扱いがありますが、使用期間を勝手に1年と決めたり、一台の設備を部品ごとに割ったりして判定しません。貸付用資産の除外・例外も確認が必要です。国税庁「少額の減価償却資産」

二つ目は、中小企業者等の少額資産特例です。2026年4月1日以後の対象取得等では40万円未満、年合計300万円までに改正され、適用期限は2029年3月31日です。青色申告、規模、取得・供用時期、貸付用途等の条件があります。中小企業庁の改正案内

特に法人の既存資産への改良は、原則としてこの特例の「取得」に該当しません。独立機能の付加など実質的な新取得に当たる例外はありますが、「資本的支出でも40万円未満なら全額経費」とは説明できません。国税庁・租税特別措置法関係通達67の5-3

三つ目は、経費と現金の時期の違いです。自分の修繕用口座へ積み立てただけでは、工事の必要経費になりません。反対に、資本的支出でも工事代の現金は必要です。原則として同じ種類・耐用年数の資産を新取得したものとして減価償却するため、古い建物の残り年数で一律に割ることもできません。国税庁「資本的支出を行った場合」

個人は白色申告なら収支内訳書、青色申告なら青色申告決算書等へ、判定に応じて修繕費や減価償却費を反映します。申告時に迷わないよう、着工前から見積書と施工内容を整理してください。

まとめ

修繕費は、大規模・小規模・原状回復の支出を分け、工事時期と手元資金から準備額を逆算します。過去のモデルは集中時期の参考にし、現在の見積もりに置き換えることが必要です。

会計では修理、新規取得、価値向上を区別し、金額基準には適用条件を添えます。必要な工事を実施できる資金と、内容を説明できる記録の両方を用意することが、修繕管理の基本です。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト https://oscar-c.jp

築古アパート投資の基本|購入前の見極めと四つの空室対策

築古アパートの魅力は、購入価格を抑えながら、既存の賃貸実績を見て投資を検討できることです。一方、安い価格に未実施の修繕や弱い賃貸需要が織り込まれていることもあります。安さを評価する前に、購入後に何を直し、誰に貸し、どのように手放せるかを確かめる必要があります。

「築古」に統一された法的年数の定義はありません。本記事では築30年前後以上を主な対象として、三つの利点と弱点、購入時の確認、空室対策、出口の順に整理します。

築古アパートが検討対象になる三つの理由

購入価格を抑え、賃貸実績を確認できる

新築より建物価格が低ければ、家賃に対する取得価格の割合が小さくなり、表面利回りが高くなる場合があります。既存の契約書や入金記録があるため、家賃、入居期間、退去頻度を確認できる点も特徴です。

ただし、築20年を過ぎれば家賃下落が止まるという決まりはありません。長期入居者の契約家賃と、今から募集して決まる家賃を分けて調べます。大学や工場など一つの需要源に依存していないか、近隣で競合物件が増えていないかも重要です。

仮に8戸のうち4戸が次回入替時に月5,000円下がれば、満室でも年24万円の減収です。空室率だけでなく、入居者が入れ替わった後の賃料水準も計算に入れましょう。

短い期間で建物の取得費を償却できる場合がある

中古建物は、取得後の使用可能期間を見積もることが難しい場合、条件により簡便法で耐用年数を計算できます。住宅用建物で法定耐用年数を全て経過している場合は、法定年数の20%を計算し、1年未満を切り捨てます。

住宅用建物の構造 法定耐用年数 全部経過後の簡便法
木造 22年 4年
金属造・骨格材3mm以下 19年 3年
金属造・3mm超4mm以下 27年 5年
金属造・4mm超 34年 6年
鉄筋コンクリート造等 47年 9年

19年×20%は3.8年なので、切捨て後は3年です。木造と同じ4年にはなりません。金属造は「軽量・重量」という呼称だけでなく、骨格材の肉厚を確認します。国税庁「耐用年数表」

簡便法には制限もあり、使用開始のための資本的支出が中古資産の取得価額の50%を超える場合などは利用できません。土地は償却の対象外で、建物代を短期間で費用化できても、その金額がそのまま税金から戻るわけではありません。国税庁「中古資産の耐用年数」

個人では不動産所得の損失を給与所得等と通算できる場合がありますが、土地取得の借入利息に相当する損失などは対象外です。税率や他の所得にも左右されるため、短期償却だけを購入理由にしないことが大切です。国税庁「不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」

土地の価値が購入価格を支える場合がある

築古では、購入価格に占める土地の比率が高い物件もあります。建物の価値が既に小さい物件なら、新築時の価格上乗せがなくなる局面とは条件が違います。

しかし、土地が物理的に古びないことと、売却価格が下がらないことは別です。需要、接道、境界、形状、用途制限、金利環境などによって評価は変わります。「土地値以下」と説明されたら、その土地値が路線価、査定、金融機関評価のどれかを確認してください。

見落とせない三つの弱点

第一は、修繕支出が取得直後に集中する可能性です。屋根・外壁、給排水、共用階段、室内設備などを一度に直すと、表面上の安さを超える支出になる場合があります。費用が高いからといって安全や漏水対応を先送りすれば、被害や退去を増やしかねません。

第二は、償却費と返済のずれです。減価償却費はその年の支払いを伴わない経費ですが、借入元金の返済は現金支出であり、必要経費ではありません。一般に元金返済額が償却費を上回る状態をデッドクロスと呼びますが、その一点で現金収支が赤字になるわけではありません。

償却が終わっても税引前の現金収支が同じなら、税金が増える分だけ手残りが減る可能性があります。初年度の節税額だけでなく、償却後の所得税等と返済を含めた資金残高を確認します。

第三は、入居者と買主の両方を確保しにくくなる場合があることです。設備や間取りが需要に合わなければ募集が長引き、将来の買主が利用できる融資期間も短くなることがあります。建物の古さだけでなく、家賃、修繕履歴、買主の資金調達を組み合わせて判断します。

購入前に、安全性・調査範囲・必要資金を確認する

旧耐震かどうかと、建物の実際の状態を見る

1981年5月31日以前の建築確認による建物は、旧耐震基準の可能性を確認します。完成年から一律に判定せず、確認済証などの資料を調べます。木造では、2000年の接合部等の規定明確化より前かも確認点です。

2016年熊本地震の益城町中心部の木造1,955棟を対象とした調査では、建築時期が1981年5月までの759棟中214棟、1981年6月~2000年5月の877棟中76棟、2000年6月以降の319棟中7棟が倒壊・崩壊と報告されています。比率は28.2%、8.7%、2.2%です。国土交通省「熊本地震に関する報告書概要」

これは同報告の2016年9月8日時点の暫定値で、新耐震全体の倒壊率を8.7%とする数字でも、全国の将来確率でもありません。旧耐震なら補強済みか、新耐震でも接合部や劣化に問題がないかを専門家に確認します。国土交通省も、2000年以前の在来軸組構法の木造住宅を中心とする耐震性能検証を案内しています。国土交通省「新耐震木造住宅検証法」

修繕履歴がなければ、未確認を残さない

売主や管理会社から工事報告書、請求書、漏水等の記録を取り寄せます。外壁塗装済みでも、下地補修や配管まで工事したとは限りません。記録が乏しければ、建物状況調査や必要な追加調査を検討します。

ただし、一般的な調査で壁内・地中の配管や全ての隠れた不具合まで分かるわけではありません。調査できた部位、立入りできなかった範囲、追加調査の要否を読み、見積もりと予備費に反映します。「診断済み」という一言で安全性や修繕額を確定しないでください。

土地評価だけでなく、返済と工事費を合わせる

土地評価が融資を支える場合はありますが、それだけで承認が決まるわけではありません。借り手の所得・資産、収益性、既存債務、融資方針も確認されます。路線価や売却査定を、融資可能額として置き換えないようにします。

価格3,000万円、満室家賃年360万円なら表面利回りは12%です。取得費用240万円、直後の工事360万円を加える仮定では、投下総額は3,600万円。実収入324万円、運営支出90万円なら、差引234万円を総額で割った割合は6.5%となります。借入返済、所得税等、今後の大規模工事費は別です。

このように、必要工事を含めてなお成り立つかを判断します。工事の見積もりが概算のまま、融資が通ったという理由だけで購入へ進まないことが重要です。

築古アパートの売買代金から取得直後工事までの総予算

築古でも試せる四つの空室対策

入居時の負担と、毎月の家賃を別々に調整する

周辺の成約条件を確認したうえで、家賃、礼金、敷金、更新料を見直します。ただし、これらは大家の収入への影響が同じではありません。返還する敷金は原則として預り金で、礼金のような収入と区別します。

例えば、礼金7万円をなくす案と、家賃を月5,000円下げる案なら、値下げによる減収は14か月で7万円に達します。2年間続けば12万円です。入居時期や継続期間が同じという単純比較なので、空室が早く埋まる効果や募集費も加えて判断します。

更新料をなくす影響は、更新のたびに生じます。敷金を減らす場合も、未払いや原状回復費に充てる預り金が減る点を考えます。「家賃以外の負担軽減なら一度だけの小さな影響」とは限りません。

募集情報と写真を整える

募集サイトに掲載されているか、空室の設備・条件が正しいかを確認します。写真が暗い、間取りが読みにくい、収納や水回りが載っていないなど、内見前に判断材料が不足していないかを見ます。

駅、買物施設、交通手段などの強みは、距離や利用条件とともに具体的に伝えます。写真の撮り直しや広告枠には費用がかかることもあるため、無条件に無料・無リスクとは考えません。修繕未了の部分を写真加工で隠すのではなく、状態と予定を正確に案内します。

ペット飼育を認める条件を設計する

地域にペット可の需要があるなら、選択肢になります。ただし、認めるだけで長期入居や満室が保証されるものではありません。動物の種類・頭数、共用部の利用、騒音・臭い、退去時の扱いを契約に具体化します。

既存入居者への説明と契約関係の確認も必要です。傷や臭いによる追加費用を想定しても、退去時に全て新品へ交換する費用を当然に請求できるわけではありません。損傷の原因・範囲、経過年数、有効な特約を確認します。国土交通省「原状回復ガイドライン」

高齢者・外国人を受け入れるための支援を整える

入居対象を広げる際は、年齢や国籍だけで長期入居やトラブルの多さを決めつけず、支払い能力、連絡方法、必要な支援を個別に確認します。家賃保証、緊急連絡先、生活ルールの説明を組み合わせ、保証契約の対象外も把握します。

高齢者等の支援には、居住支援法人などと連携する方法があります。2025年10月開始の居住サポート住宅制度は、安否確認、見守り、福祉サービスへのつなぎを行う住宅を認定する仕組みです。通常の物件が自動的に対象になるのではなく、認定条件や実施体制を確認します。国土交通省「居住サポート住宅」

外国人の入居には、契約、家賃支払、退去通知、ごみ出し等を理解できる言語で説明します。国土交通省は14言語の契約書見本やチェックシートを提供しています。「外国人だから連絡が取れなくなる」と括るのでなく、誰に対しても連絡経路と説明内容を明確にします。国土交通省「外国人の民間賃貸住宅への円滑な入居」

空室対策の方法と費用・運営上の確認点

出口は、売却・更地・建替えを並べて考える

入居中のアパートとして売る場合は、実績家賃、契約関係、修繕履歴が判断材料です。収益性を維持できている時期に検討する意味はありますが、売れば予定価格で利益を確保できるとは限りません。既知の不具合や修繕予定も整理して伝えます。

更地売却では、解体、退去調整、境界確認、売却費用を引いた残額を比較します。利用できる用途は法令や接道等に制約され、更地なら何にでも使えるわけではありません。住宅用地特例が外れる可能性と、売却までの税・管理費も見込みます。

建替えは、古い建物の問題を解消して再投資する案です。新しい減価償却が始まっても、建築費や追加借入、工事中の家賃停止を上回る利益が自動的に生まれるわけではありません。新築後の賃料・工事費・返済を再計算し、現状維持や売却と比べて選びましょう。

まとめ

築古アパート投資では、価格・短期償却・土地の利点を、修繕・償却後の資金・売却制約と対にして考えます。購入前に安全性と必要費用を確認し、空室対策は初期費用、募集、ペット、受入れ支援の四方向から具体化してください。

安い物件を探すだけでなく、改善可能な課題と費用を説明できる物件を選ぶことが大切です。購入、運営、出口の数字がつながっているかを確かめてから、投資判断へ進みましょう。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト https://oscar-c.jp

一棟アパートの一室に住めば、別の住まいへ払う家賃を減らせます。ただし、自分が使う部屋からの家賃収入もなくなります。「家賃でローンを返せる」だけでは、住居費が無料になるとも、全室を貸すより得だとも判断できません。

検討するのは、全室を賃貸にして別に住む案と、一部を自宅にする案です。まず融資上可能な使い方を確かめ、賃貸事業の収支と家計の住宅費を分けて比較しましょう。現地管理の便利さと、入居者・家族双方の暮らしやすさも判断に含めます。

所有するアパートに住む二つの方法

投資用アパートの一室を自宅にする

既存アパートの空室を使う方法なら、大きく設計を変えずに住める場合があります。ただし、自己所有だから融資契約を確認せずに用途を変えてよい、ということではありません。

投資用ローンは、賃貸収入などを返済原資として審査されます。購入時から住む予定なら、自用する部屋と失う家賃を金融機関に示します。購入後に住み始める場合も、契約上の制限や承諾手続を先に確認してください。一室に住んだからといって、借入全体が自動的に住宅ローンへ変わるわけではありません。

既に入居者がいる部屋なら、所有者の居住希望だけで直ちに空けてもらえるものでもありません。空室の利用、既存契約、入居可能時期を分けて確認します。

自宅と貸室を設けた賃貸併用住宅に住む

賃貸併用住宅は、同じ建物内に自宅部分と賃貸部分を設ける方法です。自宅の間取りや生活動線を計画しやすい一方、自宅を広く取るほど貸せる面積は減ります。

住宅ローンを申し込める場合もありますが、条件は商品ごとに異なります。例えば三井住友銀行は、賃貸住宅等との併用物件について、自宅部分が建物全体の床面積の50%以上であることを申込条件として案内しています。この条件で延べ120㎡なら、自宅は少なくとも60㎡です。面積を満たしても、融資承認や借入額まで確定するわけではありません。三井住友銀行「併用物件の住宅ローン申込」

フラット35も、投資用物件の取得資金には使えません。一室の自己居住を理由に、一棟全体を当然に融資対象と考えず、図面・使用区分・資金内訳を取扱金融機関へ示してください。住宅金融支援機構「フラット35の利用条件」

一棟アパートの全戸賃貸と自宅併用で変わる条件

金利は、使える商品と適用条件をそろえて比べる

住宅ローンと投資用ローンでは、資金使途、審査、担保、返済期間が異なります。金利が低い商品の存在と、その商品を今回の一棟購入に利用できることは別です。

公表金利にも、優遇後の適用金利と優遇前の店頭表示金利があります。例えば三菱UFJ銀行の新規住宅ローンは、2026年8月31日に確認した9月借入向けの案内で、変動の適用金利が年1.195%、店頭表示は年3.375%でした。固定10年の適用金利は年3.63%です。いずれもコースの利用条件と審査があります。三菱UFJ銀行「住宅ローン金利」

一方、オリックス銀行の不動産投資ローン等の金利一覧には、2026年9月1日付の変動・店頭表示金利として年4.425%が掲載されています。上の住宅ローンの優遇後金利とは表示区分が異なるため、その差を自分に適用される金利差とみなしてはいけません。オリックス銀行「金利一覧」

比較表には、借入対象、自用の可否、実際の提示金利、期間、手数料、借入額、将来の用途変更手続を記入します。過去の金利一覧をそのまま使わず、決済予定日に適用される条件で試算を更新しましょう。

自宅併用の二つの利点

家賃収入を返済や維持費に回せる

6戸のうち1戸に住み、残り5戸を月8万円で貸すなら、満室時の月額家賃は40万円です。給与だけで住居関連費を負担する場合に比べ、賃料収入を支払いに使える点は利点になります。

ただし、40万円全額を自由に使えるわけではありません。税金、保険、管理、修繕、空室、借入返済を引いた後の資金で家計との関係を判断します。住んでいる部屋を含む屋根や外壁も、維持する必要があります。

不具合を早く発見しやすい

現地に住んでいれば、照明切れ、ごみ置場の状態、漏水の兆候などを日常的に確認できます。設備不良の確認や業者への説明をしやすく、遠方から移動する時間も減らせます。

その利点を生かすには、発見、連絡、応急対応、専門工事の役割を分けることが必要です。夜間の設備故障や入居者間の争いを、家族も含めて全て引き受ける運営にしないようにします。危険な修理や難しい仲裁まで自ら行う必要はありません。

自分が住むことで生じる三つの負担

貸せる戸数と家賃が減る

ここからは別の比較例として、価格6,000万円、同じ条件の6戸、家賃各月7万円を仮定します。空室や経費を除く表面利回りは、全戸賃貸と1戸自用で次のように変わります。

  • 全6戸を貸す:年間家賃504万円、表面利回り8.4%。
  • 1戸に住み5戸を貸す:年間家賃420万円、表面利回り7.0%。

自宅にする一室分、年間84万円の入金がなくなります。物件全体の購入価格が同じでも、賃貸事業としての収入は減るため、満室想定の広告利回りをそのまま収支計画に使わないでください。

自宅分の費用は不動産所得の経費にできない

自宅部分の減価償却費や生活費は、賃貸事業の必要経費ではありません。固定資産税、保険、借入利息、共用部の費用などは、業務と私生活を区分できる根拠を残します。国税庁「必要経費の知識」

例えば、同面積・同条件の6戸で、全戸賃貸なら年間償却費120万円となる建物を仮定します。通年で1戸を自宅とし、合理的に6分の5を貸付分とできるなら、不動産所得に計上する償却費は100万円です。自宅分20万円を必要経費へ足すことはできません。

ただし、全支出を一律6分の5にするのでもありません。自宅専用の改装と、貸室専用の募集費は直接区分し、共通費用だけを面積や使用実態に応じて按分します。年度途中で転用した場合には、使用期間も考慮します。

住宅ローン控除は、経費計上とは別制度です。併用住宅では原則として床面積の2分の1以上が自己居住用であることなどが必要で、条件を満たす場合も賃貸部分まで一律に対象とする制度ではありません。一棟を一つの家屋として扱い、同面積6戸の1戸だけに住むなら、居住割合は6分の1です。

2026年改正では、新築・既存住宅の床面積要件が40㎡以上へ緩和されましたが、合計所得金額1,000万円超の人や子育て世帯等の上乗せ措置利用者は50㎡以上です。面積だけでなく、所得、返済期間、入居年、住宅性能等の要件を確認します。国土交通省「住宅ローン減税」

なお、一棟の家屋と区分所有部分では床面積の判定単位も違います。区分登記等を無視し、戸数だけで控除可否を断定しないことが必要です。国税庁「床面積の判定」

入居者と家族の距離が近くなる

大家が近くにいることを安心と感じる人も、私生活に干渉されそうだと感じる人もいます。出典不明の口コミから「若い単身者は敬遠する」と一般化せず、物件の動線や実際の募集反応を見ます。

出入口、階段、駐輪場を分けられるかを確認し、通常の連絡は管理会社経由、緊急時は専用窓口などのルールを決めます。訪問時間や声かけにも節度を設け、入居者が日々大家へ気を使う環境にも、家族が常時対応を求められる環境にもしないことが大切です。

6戸の収支を、運営費まで入れて比べる

先ほどの6,000万円・各戸月7万円に、購入諸費用600万円を加え、取得総額を6,600万円とします。満室・通年の仮定で、年間の運営支出を次のように置きます。

年間の支出項目 全6戸を賃貸 1戸自宅・5戸賃貸
固定資産税・都市計画税 30万円 30万円
火災・地震保険 10万円 10万円
管理委託費・家賃の5% 25.2万円 21万円
修繕支出・家賃の10%を仮置き 50.4万円 42万円
共用部の水道光熱費 5万円 5万円
合計 120.6万円 108万円

家賃からこの支出を引くと、全戸賃貸は383.4万円、自宅併用は312万円です。それぞれ取得総額6,600万円で割った、物件全体への投資に対する運営支出控除後の利回りは約5.81%と約4.73%。借入返済、所得税等、大規模工事の追加費用はまだ引いていません。

全戸賃貸と1戸自宅利用の家賃・利回り比較

この表は税務申告の必要経費表ではなく、物件全体の資金支出の比較です。また、自宅にしただけで修繕費が家賃に比例して減るわけではありません。自宅併用でも修繕支出を50.4万円のままと置けば、支出合計116.4万円、差引303.6万円、同じ利回りは4.60%です。工事履歴と見積もりで予算を置き換えましょう。積み立てるだけの資金は、実際の工事支出とも税務経費とも分けます。

最後は、家計の住居費と将来の使い方で判断する

現在の自宅家賃が月10万円なら、転居で減る支払いは年間120万円です。一室を貸さないことによる減収84万円との差は36万円。ただし、これは家賃同士だけの比較で、運営費や税額の差を含みません。

上の支出表まで用いる場合には、事業側の差は383.4万円−312万円=71.4万円なので、住宅費120万円の削減と合わせた差は48.6万円です。修繕支出を50.4万円でそろえる案なら40.2万円となります。借入条件は両案で同じ、税・転居費等は除くという前提です。「家賃差36万円」にこの48.6万円をさらに加えてはいけません。

空室にも備えます。5戸賃貸で1戸が半年空けば、家賃は42万円減ります。ただし、全戸賃貸案にも空室は起こり得るため、片方だけ満室にして比較せず、両案に同じ考え方の稼働率を置きます。

購入時には、住み続ける、転居して全戸を貸す、売却する、相続・贈与で引き継ぐ場合を考えます。大規模修繕前、需要低下時、相場上昇時などには、愛着とは別に収支を再点検します。元自宅の募集家賃、貸せる間取り、改装費、融資の承諾、売却時の転居費も見ておきましょう。

まとめ

一棟アパートの自宅併用は、家賃で返済を補い、現地管理もしやすくなる方法です。一方で、貸せる面積、必要経費にできる範囲、入居者との距離に制約が生まれます。

全戸賃貸と自宅併用を、融資・空室・修繕の条件をそろえて比較してください。家計で減る住宅費は別に加え、税務とローンの適合性を確認したうえで、家族が無理なく住み続けられるかまで含めて決めましょう。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト https://oscar-c.jp

築古アパートの融資は、築年数だけでは決まりません。収益性や土地の評価が支えになる一方、返済期間が短くなり、満室でも資金が残らないことがあります。融資承認と、購入してよい条件であることは別です。

検討の順番は、物件と借り手の評価材料をそろえ、相談先の対象条件を確認し、提示された期間・費用で収支を組み直すことです。銀行、公庫、ノンバンクを比べる際も、「どこなら借りやすいか」より「この資金使途に対応し、修繕を含めて返済できるか」を軸にします。

金融機関が確認する四つの材料

表面利回りではなく、返済に回せる収入

価格が安く、満室想定の利回りが高い物件でも、金融機関がその家賃を全額評価するとは限りません。入居中の賃料、滞納、空室期間、募集条件を確認し、管理費、税金、保険、日常修繕などを差し引いた収入を示します。

周辺相場より高い既存家賃があるなら、退去後の募集家賃に置き換えた収支も必要です。家賃一覧と入金明細が一致しない理由を説明できるようにし、「満室なら払える」という一点に依存しない資料を作りましょう。

土地の評価と、換金できる条件

建物の評価が小さくても、土地が担保評価を支える場合があります。ただし、駅から近い、面積が広いというだけで十分ではありません。接道、形状、用途地域、再建築の可否、権利関係によって使い道や売りやすさは変わります。

周辺の取引価格と金融機関の担保評価は同じではありません。土地の査定額が購入価格を上回る説明を受けても、解体費、退去調整、売却費用を引いた回収額と、銀行が採用する評価額を分けて確認します。

借り手の所得・資産・既存債務

年収だけでなく、勤務・事業の継続性、保有資産、他の借入と返済額、賃貸経営の実績も判断材料になります。所得資料、預金等の確認資料、借入一覧をそろえ、購入後に残る資金まで説明します。

預金が多くても、頭金と諸費用で使い切る計画なら修繕に対応できません。家計用の備え、今回の物件用の運転資金、他物件の修繕資金を重複して数えないことも大切です。

金融機関ごとの融資方針

営業地域、対象となる構造・築年数、個人と法人の扱い、担保や保証条件は金融機関ごとに異なります。同じ地方銀行同士でも判断は一致しません。一行の否決をもって全て不可能とはいえませんが、別の銀行なら必ず通るともいえないため、条件を記録して比較します。

耐用年数と返済期間を区別する

住宅用建物の法定耐用年数は、木造22年、鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造47年です。金属造は骨格材の肉厚により、3mm以下19年、3mm超4mm以下27年、4mm超34年となります。「軽量鉄骨」という名称だけで年数を選ばず、構造資料で確認してください。国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」

これらは税務上の年数であり、建物が使えなくなる期限でも、全国共通の融資上限でもありません。金融機関独自の評価方法や物件の状況によって、借入可能な期間は変わります。

同じ5,000万円でも、15年と35年では返済負担が違う

借入5,000万円、年利2%、毎月の元利均等返済、ボーナス返済なし、全期間金利一定と仮定すると、返済額は次のとおりです。金利2%は計算用であり、現在の金融機関の商品条件を示していません。

  • 15年返済:月約32.2万円、年約386.1万円。
  • 35年返済:月約16.6万円、年約198.8万円。

家賃から通常の運営費を引いた年間収入が400万円なら、返済後は15年で約13.9万円、35年で約201.2万円です。さらに将来修繕用に年60万円を確保する仮定では、約46.1万円の不足と約141.2万円の余りに分かれます。所得税等は別に必要です。

長期融資には反対側の負担もあります。総利息は15年で約791.6万円、35年で約1,956.5万円、10年後の残債はそれぞれ約1,835.7万円と約3,907.7万円です。手数料を除く試算ですが、月額が小さいほど有利とは限らないことが分かります。保有中の資金繰りと売却時の返済額を同時に比べましょう。

築古アパート融資の返済期間別月額と10年後残高

銀行・公庫・ノンバンクの違いを具体的に確認する

銀行は、対象地域と物件条件を先に照合する

銀行の不動産投資ローンでは、金利の相談に進む前に、物件所在地、借り手の住所、構造、築年数、必要借入額が対象かを聞きます。土地評価が高い場合や修繕実施を条件とする場合の扱いも確認してください。

例えば、オリックス銀行の不動産投資ローンには最長35年の設定がありますが、構造・築年数等による制限があります。「最長35年」と「今回の築古物件で35年借りられる」は別の話です。オリックス銀行「不動産投資ローン」

条件提示を受けたら、借入額、金利、期間、諸費用、追加担保、繰上返済条件を同じ表にします。融資紹介、事前相談、正式承認も区別し、紹介を受けた段階で資金調達が確定したと扱わないようにします。

日本政策金融公庫は、事業区分を混同しない

公庫を一括りに「築古に柔軟な融資先」と紹介するのは正確ではありません。中小企業事業のFAQでは、アパート・マンション経営資金は対象外とされています。国民生活事業とは窓口・制度を分けて確認する必要があります。日本政策金融公庫「中小企業事業のよくあるご質問」

国民生活事業の一般貸付では、通常の設備資金について限度額4,800万円、返済期間10年以内が公表されています。ただし、業種や経営内容による対象外、別制度、個別審査があり、全ての築古アパート購入に使えるという意味ではありません。取得か改修かなどの資金使途を伝えて相談します。日本政策金融公庫「一般貸付」

仮に低い金利を提示されても、短い返済期間では年間支払額が大きくなることがあります。銀行借入と組み合わせる場合も、両方の返済と担保条件を合算して検討してください。

ノンバンクは、金利以外の負担まで比べる

不動産担保融資を扱うノンバンクも選択肢になります。ただし、担保があれば無条件に借りられるわけではなく、返済能力や物件の審査があります。契約金利だけでなく、事務手数料、実質年率、早期返済時の費用を確認します。

一例としてアサックスの個人向け融資条件には、2026年7月21日現在、取扱手数料0~3.3%、早期解約料は返済元金の0~3.0%と記載されています。借入5,000万円に手数料3.3%が適用される仮定なら、手数料だけで165万円です。これは同社の公表範囲であり、他社共通の相場ではありません。アサックス「個人のお客様向け融資条件」

銀行・公庫の事業区分・ノンバンクの確認点

築古を選ぶ三つの利点を過大評価しない

第一は、取得価格が抑えられ、表面利回りが高くなる可能性です。健美家の2025年登録物件統計では、一棟アパートの全国平均は築10年未満6.22%、築20年~9.41%でした。木造だけの数字でも成約利回りでもなく、高い数字には老朽化や立地などの条件差が含まれます。健美家「2025年年間レポート」

第二は、購入価格に占める土地の比率が高ければ、建物の償却が進んでも資産価値を検討しやすい点です。ただし、土地は物理的に古びないから価格も下がらない、という意味ではありません。地域需要や法的制約が変われば、土地の価値も変動します。

第三は、中古建物の償却期間が短くなる場合があることです。住宅用木造で法定22年を全部経過し、簡便法の条件を満たすなら、22年×20%の端数を切り捨てて4年です。一方、使用開始のための資本的支出が取得価額の50%を超える場合などは、同じ計算を使えません。国税庁「中古資産の耐用年数」

大きい償却費は返済原資そのものではなく、償却後には必要経費が減ります。融資が長期でも、節税効果が同じ期間続くと考えないことが重要です。

修繕・耐震・売却の三つの弱点を融資前に調べる

修繕では、屋根や外壁だけでなく、給排水、基礎、共用階段などの履歴と見積もりを確認します。一般的な建物調査で隠れた配管や全ての不具合が分かるわけではないため、調査対象と追加確認が必要な部分を明確にします。

耐震性は、築年数の印象でなく確認申請等の資料と建物の状態で判断します。1981年の新耐震基準に加え、木造では2000年の接合部等の基準明確化も重要です。

2016年熊本地震の益城町中心部の悉皆調査では、木造1,955棟のうち、建築時期別の倒壊・崩壊率は次のように報告されています。

  • 1981年5月まで:759棟中214棟、28.2%。
  • 1981年6月~2000年5月:877棟中76棟、8.7%。
  • 2000年6月以降:319棟中7棟、2.2%。

国の報告書概要に載る2016年9月8日時点の暫定値で、全国のアパートの将来倒壊確率ではありません。8.7%を新耐震全体の数字とせず、地盤、接合部、劣化も含めて個別に確認します。国土交通省「熊本地震を踏まえた建築物の構造基準のあり方に関する報告書の概要」

売却では、次の買主も築年数や融資期間の制約を受けます。購入時に借りられた条件を将来の買主も使えるとは限りません。保有年数を加えた築年数での融資可能性と、想定売価から費用・残債を引いた額を確認しましょう。

まとめ

築古アパートの資金調達では、四つの審査材料をそろえ、銀行・公庫の事業区分・ノンバンクごとの対象条件を確かめます。そのうえで、毎月の返済、手数料、将来残債を比較し、修繕・耐震・売却の費用も組み込みます。

例えば、頭金と購入費用を払った後の預金250万円に対し、直後の工事見積もりが200万円なら、予備資金は50万円です。融資額が希望どおりでも余裕があるとはいえません。契約前に融資承認期限や不成立時の扱いを確認し、購入後の支払いまで成立する条件かで判断してください。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト https://oscar-c.jp

築古アパートで毎年現金が残っていても、売却時の回収額が小さければ、投資全体では損失になることがあります。反対に、建物が古いという理由だけで解体すると、家賃を生む資産を失い、追加費用まで負担するかもしれません。

出口戦略で決めたいのは、「誰に、どの状態で、いつ引き渡すか」です。オーナーチェンジ、建て替え、更地売却の三つについて、価格だけでなく必要資金と実行条件を比べます。

保有中の黒字を出口で失う仕組み

投資家の現金で考えるなら、最初に投入した自己資金、保有中に追加した資金、家賃から返済・経費・税金・工事費を引いた累計収支、売却時の最終手取りをつなぎます。借入で購入した物件なのに、購入代金全額と自己資金を両方差し引くと二重計上になります。

例えば、当初の自己資金1,000万円、追加投資なし、保有中の税・返済・工事後の累計収支500万円、売却後の最終手取り300万円なら、500+300−1,000=マイナス200万円です。売却手取りが600万円ならプラス100万円になります。時間価値を省いた説明例ですが、家賃の黒字だけで成否を判断できない理由が分かります。

最終手取りは、売値から残債、売却費用、譲渡に伴う税金、敷金等の精算を反映した額です。建物の取得費は減価償却等で減っているため、購入価格以下の売却でも税金が発生する場合があります。税務上の譲渡所得と手元現金は別に計算します。国税庁・取得費の考え方

売却まで時間がかかる案では、販売中の収支も入れます。保有継続や承継を選ぶこと自体が誤りではありませんが、売却を出口にするなら、残債を減らせば必ず利益が増えるという見方ではなく、売却までの収支全体で確認する必要があります。

築古物件が売りにくくなる三つの理由

買主が必要な融資を組めない

買いたい人がいても、必要額を借りられなければ契約は進みません。建物の状態、土地の評価、築年数、借主の返済能力によって、自己資金を多く求められたり、返済期間が短くなったりします。法定耐用年数を超えたら全金融機関で融資不可、という一律の決まりではありません。

借入3,000万円、年3%、毎月元利均等で金利一定とする仮例では、25年返済の年額は約170.7万円、15年なら約248.6万円です。買主から見れば、同じ借入額でも年間約77.9万円多く返す必要があります。売主の現在の融資条件で収支が合っていても、次の買主の条件では成立しないことがあるのです。

仲介会社には、想定する買主層、使える金融機関、必要自己資金、融資審査に必要な資料を聞きます。査定価格と、その価格を実際に支払える買主の見通しをセットで確認しましょう。

修繕費の大きさと不確実性が残る

築古物件では、給排水管の漏水、給湯器・空調の故障、屋根・外壁・防水、退去時の内装更新などが検討課題になります。すべてが直ちに交換時期とは限りませんが、「何も記録がない」ことが買主の予算を膨らませます。

工事履歴は、年月、対象範囲、施工会社、金額、保証内容まで用意します。外壁塗装済みでも防水は未実施、給湯器は一部の部屋だけ更新、という違いが分かる資料が必要です。次の工事が分かれば、買主は取得後の資金計画を組みやすくなります。

入居者に選ばれる条件が弱くなる

古い間取り、使いにくい設備、清掃不足などが周辺物件との差になると、空室が長引き、賃料の値下げが必要になることがあります。買主は現在の家賃だけでなく、次の退去後も同じ条件で入居者を募集できるかを見ています。

同じ年間家賃400万円でも、最近の成約家賃で埋まった物件と、長期入居者の高い旧家賃に支えられた物件では見通しが異なります。募集履歴と入金実績を照合し、一時的な満室と継続可能な収益を分けて示すことが大切です。

三つの出口は、売る相手と必要資金が違う

オーナーチェンジ:賃貸経営を引き継いでもらう

入居者がいるままの売却は、家賃収入を得たい投資家が主な買主になります。建物を解体せず、通常は賃貸を続けながら販売できるため、退去調整や建築に必要な追加投資を避けられるのが特徴です。

売るものは建物だけではなく、契約と運営実績を含んだ賃貸経営です。各室の家賃、入居日、更新条件、滞納、敷金、特約、修繕依頼を整理します。管理会社や保証会社の契約は、所有権と同じ手続で自動的に引き継げると決めず、個別に確認します。

周辺から離れた高い家賃を想定したり、値引きやフリーレントを伏せたりして満室を演出すると、購入後の収支との隔たりが生まれます。適正な家賃で入居が継続し、実績を資料で説明できる状態を目指しましょう。

建て替え:新たな投資として採算を測る

新築へ更新すれば、間取りや設備を地域の需要に合わせられます。家賃水準や募集力の改善が期待でき、建築費は資産区分に応じて減価償却します。ただし、償却による税負担の変化が、建築費を回収してくれるわけではありません。

解体、新築、設計、融資費用に加え、入居者との協議、引越し等の負担、工事中の無収入期間を見込みます。現在の借入をどう扱うか、新規融資をいつ実行できるか、先払いの工事代を何で賄うかも確認します。

接道、建ぺい率・容積率、条例によっては、既存と同じ戸数や面積を再建できない場合があります。設計上可能な規模と、近隣で実際に決まる家賃を基に計算してください。土地を売る案とも比較し、需要が弱い場所で「新築なら埋まる」と見込まないことが重要です。

更地売却:土地需要が費用を上回るか確かめる

建物の収益力が弱くても、住宅用地など土地としての需要が強ければ、更地売却が有力になる場合があります。用途地域、道路、間口、面積、境界、再建築条件によって買主の利用方法が変わるため、土地としての査定を取ります。

ただし、売値の上昇分と費用を比較する必要があります。次は税・残債返済・販売中収支を差し引く前に条件をそろえた仮例です。

現況売却は3,200万円から売却関連費150万円を引き、3,050万円。更地売却は3,900万円から売却関連費180万円、解体等500万円、退去調整等250万円を引いて、2,970万円です。

現況売却と更地売却の価格・費用控除後額の比較

更地の売値は700万円高いのに、差引額は80万円少なくなります。地中埋設物などの追加費用がさらに200万円かかれば2,770万円です。退去調整250万円は相場や合意成立の保証ではなく、比較用の数字です。

各案で税額、売るまでの家賃・固定費、残債、解体後の土地課税も変わります。解体すると家賃収入は止まり、住宅用地の税負担軽減が外れる場合もあります。「建物付きではいくら、更地ならいくら」の査定と見積りをそろえてから着手します。

築古アパートの現況売却・更地売却・建替えの比較

入居者対応を決めずに更地引渡しを約束しない

入居者がいる建て替え・更地売却では、工事より先に賃貸借契約と明渡しの見通しを確認します。普通借家の貸主からの解約申入れには正当事由等が必要で、所有者が売りたい、建て替えたいという事情だけで直ちに退去を強制できません。国交省・賃貸住宅の入居と退去

協議期間も負担金も一律には決まりません。弁護士や管理会社と契約内容を確かめ、合意が必要な事項と日程の不確実性を整理します。解体会社の工程表だけで更地引渡日を確約すると、売買契約を履行できないリスクを抱えます。

売却時期を考える三つの節目

第一は減価償却費が減る時期です。一般に、元金返済額が減価償却費を上回る関係をデッドクロスと呼びますが、それだけで赤字や強制売却を意味しません。償却終了も自動的な売り時ではなく、税負担と元金返済を反映した現金収支が続けられるかを確認します。

第二は大規模修繕の前です。工事費をかけても同額が売値に上乗せされるとは限りません。一方、雨漏り等を放置したり、把握した不具合を隠したりしてよいわけでもありません。安全確保・必要な修繕と、販売力を上げる追加工事を分け、修繕前後の査定と費用を比べます。

第三は税務上の所有期間です。個人の一般税率は、売却年1月1日で所有5年以下なら所得税等30.63%・住民税9%、5年超なら15.315%・5%です。合計39.63%と20.315%で19.315ポイントの差がありますが、課税対象は売値全体ではなく譲渡所得です。国税庁・短期譲渡所得長期譲渡所得

税率が下がるまで待つ間に工事費や空室損が増え、価格も下がれば、税負担の減少を上回ることがあります。償却、返済、修繕、所有期間の予定を重ね、今売る案と保有する案を同じ期間で比較します。

買主の評価を支える三つの改善策

リフォームは、周辺の競合と入居者の要望を調べてから選びます。設備更新や内装刷新で募集条件を改善できるか、工事をしても家賃が変わらないかで、使える予算は違います。売却前の全面改修を既定路線にせず、反響を妨げる箇所へ絞って検討します。

入居率の改善では、大工事の前に清掃と日常メンテナンスを点検します。トイレ・浴室・キッチンの水回り、共用階段、ゴミ置場などの状態を整え、写真と内見時の印象を一致させます。反響件数、内見、申込み、成約までを記録すると、家賃の問題か室内の問題かを見分けやすくなります。

インスペクションは、買主が判断する材料を増やす方法です。基本となる既存住宅状況調査では主に構造耐力と雨水浸入に関わる部分を扱い、隠れた配管や全設備を保証する検査ではありません。調査した箇所・できなかった箇所、判明した劣化、追加調査の必要性を報告書で共有します。国交省掲載・既存住宅の調査制度比較

調査済みなら必ず高く早く売れる、契約不適合責任がなくなる、というものではありません。不具合が明らかになれば価格調整が必要な場合もあります。告知事項、修繕の負担、契約条件へ確認結果を適切に反映することが重要です。

まとめ

築古アパートの出口は、融資、修繕、賃貸競争力という買主側の懸念を整理し、現況売却・建て替え・更地売却の三案を比べます。建て替えは新しい投資であり、更地価格の高さも手取りの多さとは限りません。

契約一覧、入金実績、工事履歴、残債、税務資料をそろえ、必要資金と日程まで確認してください。価格だけを追うのではなく、実行できる条件で保有中の収支を守れるかという視点が、出口の判断を具体的にします。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト https://oscar-c.jp

アパートを売却するときは、「売値」「税金を計算する利益」「最後に使える現金」を分けて考えます。借入残高は手取りを減らしますが、残債を返した金額がそのまま税金の計算上の経費になるわけではありません。

売却代金を次の投資へ回す前に、四つの税目、取得費と譲渡費用、使える特例を確認しましょう。本記事は国内で個人が所有する賃貸アパートを中心に、7,000万円・9,000万円の売却例で説明します。法人の税額計算は別です。

売却時に確認する四つの税金

印紙税:7,000万円の紙契約なら3万円

紙の不動産売買契約書には、記載金額に応じて印紙税がかかります。2027年3月31日までに作成する対象契約書の軽減後の額は、次のとおりです。

  • 1,000万円超~5,000万円以下:1万円
  • 5,000万円超~1億円以下:3万円
  • 1億円超~5億円以下:6万円
  • 5億円超~10億円以下:16万円
  • 10億円超~50億円以下:32万円
  • 50億円超:48万円

例えば、2026年に記載金額7,000万円の契約書を作れば、1通の印紙税は3万円です。売主・買主が各1通保有する場合の負担を契約で確認します。5,000万円ちょうどは1万円の区分なので、「超」と「以下」も見落とせません。国税庁・印紙税の軽減

印紙を貼らず納付しなかった場合、原則として本来の税額の3倍相当の過怠税が徴収されます。調査による決定を予知していない等の条件を満たす自主申出では1.1倍相当です。貼った印紙を適切に消さない場合にも過怠税があるため、貼付と消印を確認します。国税庁・印紙未納の過怠税

電子データだけで契約する場合は、紙の課税文書とは扱いが異なります。電子契約なのに印紙代を自動計上したり、別途作成する紙の文書まで一律不要としたりせず、実際の作成物を確認してください。

登録免許税:売主の抹消と買主の移転を区別

抵当権抹消の登録免許税は、通常、不動産1個につき1,000円です。土地2筆と建物1棟なら3,000円。完済していても登記が残っている場合があるため、残高だけでなく登記簿を確認します。司法書士報酬や住所変更等の追加手続費用は別です。

所有権移転の登録免許税は、買主負担が一般的ですが契約で確認します。土地売買の税率は本則2%に対し、2029年3月31日までの登記は1.5%。賃貸用建物の売買は通常2%で、自ら住む住宅向けの軽減をそのまま使うことはできません。国税庁・登録免許税

売買代金7,000万円の物件で、固定資産税評価額が土地2,450万円・建物2,100万円だったと仮定すると、土地36万7,500円、建物42万円、合計78万7,500円です。これは売主の抹消税3,000円とは別の、通常は買主側の費用です。

評価額は売買代金から一定割合で必ず求められる数字ではありません。課税明細や評価証明などの実額で確認し、売主の手取り計算へ買主の税金を重ねて引かないようにしましょう。

譲渡にかかる所得税等:売値全体には課税しない

基本の計算は、売却収入から取得費、譲渡費用、適用できる特別控除を差し引き、その課税譲渡所得へ税率を掛けます。所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた一般税率は、短期39.63%、長期20.315%です。

判定日は売った日ではなく、売却年の1月1日です。その時点で所有期間が5年以下なら短期、5年を超えれば長期となります。例えば2021年6月に取得した物件は、2026年6月を過ぎて売っても短期で、2027年の売却から長期となります。国税庁・短期譲渡所得長期譲渡所得

消費税:住宅家賃と建物売却を混同しない

住宅の貸付けが原則非課税でも、事業に使っていた建物の売却は消費税の課税対象となる取引です。一方、土地の譲渡は非課税です。「住居だから売却も非課税」ではありません。ただし、免税事業者なら通常は納税義務が免除されるため、取引の区分と売主の納税義務を分けて確認します。

個人の場合、基本となる基準期間は売却年の前々年で、課税売上高1,000万円超が一つの判定基準です。前年1~6月の特定期間、課税事業者選択、インボイス登録なども関係します。国内事業者の特定期間判定は課税売上高に代えて給与等支払額を用いることもでき、単純に売上だけで判定しません。国税庁・納税義務の免除

建物の売上に係る消費税額と、仕入税額控除等を反映した実際の納付額も別です。土地建物の合理的な代金配分、税込・税抜表示、申告方法を、売買契約の前に税理士へ確認してください。

税額計算の土台になる二つの費用

取得費は、土地建物の購入・建築代金、購入時の仲介手数料、設備費や改良費などです。建物は保有中の減価償却等を引き、土地は償却しません。購入時より安く売っても、償却で取得費が減っていれば税務上の利益が出ることがあります。

例えば、土地を取得するための測量費や、購入時に借主へ支払った立退料は、取得目的との関係で判断します。最初から土地利用が目的で、購入した建物をおおむね1年以内に壊す場合の建物代・解体費も、条件によって土地の取得費になります。単に「解体費」という名称だけで分類できません。国税庁・取得費となるもの

譲渡費用は、売るために直接必要だった費用です。売却仲介料、売主負担の印紙税、売るための立退料、土地を売るための解体費、借地権譲渡の名義書換料などが該当します。維持管理の修繕費、保有中の固定資産税、ローン元金返済を一括して入れることはできません。国税庁・譲渡費用となるもの

購入・運営・売却のどの段階の支出かを請求書で確かめ、不動産所得で経費処理した金額を取得費や譲渡費用へ重複計上しないことが基本です。自分の口座へ修繕資金を移しただけの積立も、その時点で自動的に必要経費になるわけではありません。

9,000万円で売る場合の短期・長期比較

木造アパートを土地4,000万円・建物4,000万円で取得し、9,000万円で売却、譲渡費用450万円、特別控除なしとします。取得額には取得費へ算入できる購入費用を含め、消費税の別途納付はない仮定です。

短期の例は、所有4年、建物の償却累計740万円とします。建物取得費は4,000−740=3,260万円、土地を加えた取得費は7,260万円。課税譲渡所得は9,000−7,260−450=1,290万円で、1,290万円×39.63%=511万2,270円です。

長期の例は、所有6年、建物の償却累計1,100万円とします。建物取得費は2,900万円、土地建物合計6,900万円。課税譲渡所得は9,000−6,900−450=1,650万円で、1,650万円×20.315%=335万1,975円です。

売却代金9000万円の短期と長期の譲渡所得・税額比較

いずれも合算税率による端数調整前の説明値で、実際の申告・納付額は各税の計算と端数処理等で確定します。償却累計740万円・1,100万円は帳簿で確認できたとする仮定であり、木造・所有年数だけから一律に求まる額ではありません。

この条件では長期の課税所得が360万円多い一方、税額は約176万円少なくなります。ただし「2年待てば必ず176万円得」という意味ではありません。将来の売値、保有中の家賃・工事・税、残債が変われば結果も変わります。

さらに長期の例で、残債5,000万円、現金の売却支出も450万円と仮定すると、納税分を残した現金は9,000−5,000−450−335.1975=約3,214.8万円です。課税所得1,650万円とは一致しません。敷金等の精算は別に加減します。

申告で間違えやすい二つの区別

一つ目は、建物の取得価額と売却時の取得費です。過去の申告書、固定資産台帳、改良工事の記録を照合し、売却年に対応する償却も確認します。前年末の未償却残高を、そのまま無条件に転記してよいとは限りません。帳簿に誤りがあれば確認・修正が必要です。

二つ目は、家賃の不動産所得と売却の譲渡所得です。個人の家賃は原則総合課税、土地建物の売却は分離課税です。賃貸アパートの売却損を、給与所得から当然に差し引けるわけではありません。

同じ年に給与所得500万円、アパートの譲渡損300万円、別の土地の譲渡益400万円がある例なら、土地建物の中では400−300=100万円にできますが、給与500万円とは別に計算します。自宅の譲渡損に関する例外を、投資物件へそのまま使わないことが大切です。国税庁・譲渡損失

アパート売却の譲渡所得・税額・手取りの違い

税金対策は対象と期限を確かめる

1,000万円控除は取得年と取得方法が限定される

2009年に取得した国内の土地等を2015年以降、2010年取得分を2016年以降に売る場合には、最大1,000万円の特別控除があります。建物全体を対象にする制度ではありません。

親子・夫婦など特別な関係者からの取得、相続・贈与・交換等による取得は対象外で、同じ土地について他の譲渡特例との併用制限もあります。適用を受けるには申告と書類が必要です。国税庁・2009年、2010年取得土地の控除

自宅売却の3,000万円控除や相続空き家の特例は、賃貸専用アパートなら通常そのまま使えません。ただし、元自宅や自宅併用など利用実態が異なる場合は個別判定です。「アパートでは使える特例が絶対に一種類だけ」とも決めつけないでください。

買換特例は免税ではなく課税の先送り

一定の事業用資産の買換えでは、譲渡益の一部への課税を繰り延べられます。原則80%繰延べの組合せで、買換額が売却額以上なら、収入だけでなく取得費・譲渡費用にも20%を掛けて課税所得を計算します。所在地等で割合は変わります。

代表的な国内資産の買換えには、売却年1月1日で所有10年超、買換土地の用途・300㎡以上、土地面積は原則売った土地の5倍以内、取得後1年以内の事業使用などの条件があります。2026年改正で対象の見直しと2029年3月31日までの期限延長が行われています。国交省・2026年度税制改正結果

同年中の買換えは、売却・取得の早い日を含む四半期末から原則2か月以内の事前届出が必要です。確定申告時に考え始めては間に合わない場合があります。買換先の取得費・将来の償却や売却税にも影響するため、納税の先送りだけで買う物件を決めないようにします。国税庁・事業用資産の買換え

税金以外の費用と支払時期もそろえる

税抜売買代金7,000万円の通常の仲介では、上限は7,000万円×3%+6万円=216万円。消費税21万6,000円を加え237万6,000円です。これは法定上限の計算で、実際の報酬は媒介契約で確認します。800万円以下の低廉物件には別の特例があります。国交省・仲介報酬の案内

このほか、司法書士報酬、ローンの繰上返済手数料、立退料、解体費、測量費、リフォーム費が必要になる場合があります。全物件で全項目が発生するわけではなく、立退きや解体をすれば必ず手取りが増えるわけでもありません。

測量等の先払い、契約時の支出、決済時の残債返済と敷金・家賃精算、売却後の納税を一枚にまとめます。売却費用450万円などの仮置きを実際の見積りへ更新し、決済で入ったお金のうち納税分は使わず確保しておきましょう。

まとめ

アパート売却の税金は、四税目の対象を分け、減価償却後の取得費と売却に直接かかった費用から計算します。短期・長期は売却年1月1日で判定し、特例は契約前から対象・届出・期限を確認します。

税額が求まったら、残債や精算金まで反映して現金の手取りを出してください。売却価格が高いかだけでなく、納税後に必要な資金が残るかを確認することが、売却条件を決める基準になります。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト:https://oscar-c.jp

「利回り8%なら買ってよい」と決める前に、その8%が何を割った数字なのか確認してください。満室の家賃を使うのか、現在の収入を使うのか。運営費や購入諸費用を引くのか。条件が一つ違うだけで、同じ物件から計算される利回りは変わります。

一棟アパートでは、物件の収益力に加え、借入後の現金と売却時の回収まで見る必要があります。ここでは6,000万円の物件を軸に、三つの利回り、地域別の目安、FCR・CCRを使い分ける方法を整理します。

同じ物件を三つの利回りで見る

表面利回りは、費用を引く前の入口

物件価格6,000万円、満室時の年間家賃500万円なら、500÷6,000×100=約8.33%です。この満室想定の表面利回りには、空室や滞納、管理費、固定資産税などは反映されていません。

「表面」とだけ書かれた資料では、現況家賃を使っている場合もあります。「満室想定」「現況」の別を確認し、家賃以外の共益費、駐車場代、更新料の内訳も分けましょう。定期的な収入と、契約更新などの際だけ入る収入を同じ確実性で扱わないためです。

現行利回りは、今の収入による比較

収入が満室想定の90%に当たる450万円なら、450÷6,000×100=7.50%になります。これが現在の収入を使った現行利回りです。表面の8.33%より現状を反映しますが、費用を引く前である点は変わりません。

ここでの90%は家賃の金額ベースです。家賃が異なる部屋を含む建物では、入居戸数が90%でも収入が90%とは限りません。また、契約中でも未払いがあれば、契約家賃と実際の入金には差が出ます。

実質利回りは、費用と取得総額を反映

購入諸費用を150万円、年間運営費を120万円と仮定します。満室想定なら、(500−120)÷(6,000+150)×100=約6.18%です。同じ費用のまま現況収入450万円で計算すると、(450−120)÷6,150×100=約5.37%に下がります。

つまり、8.33%、7.50%、6.18%、5.37%は別々の物件の評価ではありません。同じ物件の異なる前提を示す数字です。「実質」と書いてあっても、満室前提なら空室の影響を織り込んだことにはなりません。

150万円は計算を比較するための仮定で、取得費用の相場ではありません。実際には仲介報酬、税金、登記、融資手数料などを積み上げて置き換えます。安い諸費用を仮置きしたままでは、取得総額を過小評価します。

本記事の運営費は、管理委託、共用部の清掃・電気、保険、固定資産税等、通常修繕や募集費用を想定します。借入の元利返済、所得税等、大規模な資本工事は別枠です。資料ごとに控除項目が違うため、比較する物件では費用の範囲をそろえてください。

同じ一棟アパートを表面・現行・実質利回りで比較

利回りの目安は地域と築年数をそろえる

全国平均だけでは、検討物件の位置づけを判断できません。健美家の2025年年間レポートでは、一棟アパートの登録物件について、次の平均利回りが示されています。いずれも単位は%です。

地域 築10年未満 築10年~ 築20年~
全国 6.22 7.15 9.41
東京23区 5.38 5.58 6.34
東京市部 5.93 6.58 7.36
横浜市 6.76 7.29 7.69
川崎市 6.87 7.22 7.44
埼玉主要都市 5.87 6.23 7.60
千葉主要都市 6.34 6.94 8.10
京都市 5.56 5.56 8.35
大阪市 5.92 6.05 9.93
神戸市 6.22 6.77 11.57

埼玉主要都市は、さいたま・川口・戸田・蕨の4市。千葉主要都市は、千葉・浦安・鎌ヶ谷・市川・習志野・松戸・船橋・柏の8市です。市のデータを県全体の値として使わないようにします。健美家・2025年年間レポート

この表は売出し登録物件の表面利回りであり、成約物件の実質収益や投資家の手残りではありません。構造や面積などの構成も異なります。築年区分による差を、一棟の建物が古くなれば必ず同じように変化するという予測へ転用することもできません。

例えば、築20年以上の神戸市で表面10%という物件を見つけても、この表だけで「高利回りだから割安」とは言えません。東京23区の築浅物件と比べるより、同じ地域・築年・構造・規模の競合を調べ、価格と家賃の根拠を確認する材料として使います。

高利回りの理由を三方向から確かめる

高い家賃か、安い価格かを分ける

利回りが上がる理由は、分子の家賃が大きいか、分母の価格が小さいかです。家賃が高いなら、空室の想定賃料が周辺募集条件から離れていないか、既存契約が次の募集でも維持できるかを確認します。募集家賃だけでなく、実際に決まった条件やフリーレントも参考になります。

価格が低いなら、賃貸需要だけでなく、再建築の可否、建築上の問題、接道、複雑な権利関係などを調べます。融資や次の売却が難しい事情が価格に含まれている可能性があるためです。「地方だから危険」「都心だから安心」と地域名だけで結論づけることはできません。

空室率は、その物件の履歴から組み立てる

最低でも直近12か月の入退去、募集期間、入金履歴を、レントロールと照合します。レントロールは各室の契約条件を示す一覧であり、現在の一枚だけでは過去の空室期間や滞納を把握しきれません。

一つの部屋が24か月入居し、退去後4か月空くサイクルを繰り返す仮定なら、空室期間の割合は4÷(24+4)×100=約14.3%です。4÷24ではありません。ただし、これは一室の仮定で、一棟全体の年間実績を表す数字ではない点に注意します。

退去が学生の卒業期に集中する物件、単一の工場や学校への依存が強い物件では、空室が同時に発生する可能性も考えます。地域全体の空き家率をそのまま当てはめず、部屋の広さ、家賃帯、駐車場の有無まで近い競合と比べましょう。

修繕費は「いつ払うか」まで確認する

修繕履歴では工事年月、範囲、金額、保証内容を確認します。「外壁工事済み」でも、塗装のみなのか、防水や下地まで直したのかで、次の支出が違います。屋根、外壁、防水、給排水、共用設備の見積りを取得し、買った直後の工事と将来工事に分けます。

建物状況調査も活用できますが、基本的に非破壊・目視等で行う調査から、隠れた配管の状態まで必ず分かるわけではありません。調査範囲と未確認部分を把握し、必要に応じて追加調査を手配します。国交省・既存住宅状況調査の案内

FCRで物件、CCRで自己資金の効率を見る

FCRは、運営純収益を取得総額で割った収益率として用いられます。ここでは運営純収益をNOIと呼び、家賃等の実効収入から運営費を引いた、借入返済・減価償却・所得税等を反映する前の金額とします。

先ほどの現況ならNOIは450−120=330万円、FCRは330÷6,150×100=約5.37%です。本記事の現況実質利回りと計算範囲が同じなので、同じ値になります。名称を増やしても、独立した二つの安全確認をしたことにはなりません。

一方、CCRは税引前の年間キャッシュフローを投下自己資金で割る指標です。自己資金1,200万円に対して年間200万円なら、200÷1,200×100=約16.67%。これは計算方法を示す別例で、6,000万円の物件例とは条件が異なります。

CCRの分子に税や工事を含めるか、追加投資後の自己資金をどう扱うかでも値が変わります。単年のCCRには将来の売却結果が入らないため、その数値が保有期間全体の年利として保証されるわけではありません。PropertyMetrics・CCRの定義と限界

CCRが高くても、現金の余裕は小さくなる

取得総額6,150万円、NOI330万円の物件で、借入4,500万円と5,500万円を比較します。いずれも年3%、30年、毎月元利均等、金利一定の仮定です。金融機関の提示条件ではなく、融資による違いを示す試算です。

借入4,500万円なら自己資金1,650万円、年間返済は約227.7万円。返済後の税引前現金は約102.3万円となり、CCRは約6.20%です。借入5,500万円なら自己資金650万円、年間返済は約278.3万円。税引前現金は約51.7万円、CCRは約7.96%になります。

借入を増やすとCCRが上がっても残る現金は減る比較

借入を増やした案は、投入する自己資金が減るためCCRが高くなります。しかし、毎年残る現金は約半分です。さらに年60万円を将来修繕用に確保すると、所得税等の支払い前で約42.3万円と約マイナス8.3万円に分かれます。後者のCCRだけを見て、経営上の余裕が大きいとは言えません。

NOIを年間元利返済額で割るDSCRも、この例では約1.45倍と約1.19倍です。1倍を超えるのは当該計算で返済を賄えるという意味であり、大規模工事や納税まで安全という判定ではありません。自己資金の効率、毎年の現金額、手元に残す予備資金を並べて判断します。

最後に、売却までの収支をつなぐ

出口では、家賃需要の低下、土地などの資産価値の変化、金利・融資条件の変化を想定します。保有中に家賃が下がれば収益評価も変わり、買主が借りにくくなれば、売却価格や売れるまでの期間に影響し得ます。

単純な収益還元の例では、NOI330万円を6%で還元すると5,500万円、7%なら約4,714万円です。ここで使うのはNOIに対応する還元率であり、先ほどの登録物件の表面利回りをそのまま代入するものではありません。将来価格の予測ではなく、要求収益率が変わる影響を示しています。

売却時は、売値から残債、売却費用、税金、必要な精算金を差し引き、保有中の税・返済・工事後の収支と合算します。単年の利回りが高くても、出口の回収額が小さければ投資全体の結果は変わります。

まとめ

一棟アパートの利回りに、どの物件にも通用する合格点はありません。満室と現況、費用控除前後、取得総額の範囲をそろえ、地域・築年の近い登録物件と比較することが出発点です。

そのうえで、高利回りの理由、空室履歴、修繕時期を確認し、FCRで物件の稼ぐ力、CCRと現金額で融資後の収支を見ます。数字の高さだけでなく、工事と納税を続けながら保有し、売却時にも回収できる条件かどうかを確かめてください。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト:https://oscar-c.jp

築22年を過ぎた木造アパートは、もう減価償却できないのでしょうか。新たに中古物件として取得した人は、条件を満たせば減価償却できます。一方、以前から所有していた人の償却が終了すれば、家賃が変わらなくても税負担が増える場合があります。

「建物が築何年か」「自分の償却がいつ終わるか」「いつまで貸せるか」は、別々の問いです。建物4,000万円の計算例を使い、耐用年数を過ぎた物件の収益維持と、売却・建替え・更地活用の判断を整理します。

木造22年は税務上の年数

建物は構造と用途で区分される

法定耐用年数は、建物等の取得価額を費用に配分するための基準です。住宅用では、木造・合成樹脂造22年、木骨モルタル造20年、RC造・SRC造47年、れんが・石・ブロック造38年となります。

金属造は骨格材の肉厚によって、3mm以下19年、3mm超4mm以下27年、4mm超34年です。用途でも違い、事務所用なら同じ順に木造24年、木骨モルタル22年、RC等50年、れんが等41年、金属造22年・30年・38年になります。国税庁・主な減価償却資産の耐用年数表

広告の「軽量鉄骨」だけでは、税務上の年数まで特定できません。設計図書、確認関係の書類、登記などを照合し、構造・肉厚・用途の根拠をそろえます。店舗や事務所が混ざる物件は、住宅の年数を全体に当てはめないことも大切です。

設備の償却年数と交換時期は一致しない

器具備品に該当する冷暖房用機器やインターホーンは6年、建物附属設備の蓄電池電源設備も6年が代表的な区分です。給排水・衛生・ガス設備、蓄電池以外の電気設備は15年。空調でも建物附属設備に該当すれば13年・15年の区分があり、名称だけでは決められません。

これらは税務上の期間であって、6年で必ず交換、15年までは故障しないという意味ではありません。設置年月、使用状況、点検結果、修理部品の入手可能性を管理台帳に残し、償却と設備更新を別の予定として扱います。

土地は減価償却の対象外です。一括購入代金を建物や設備へ区分するときも、節税したい金額から逆算するのではなく、契約や評価資料、設備明細に基づく合理的な配分が必要です。

取得総額9,000万円でも償却するのは建物部分

新築木造は建物4,000万円×0.046=184万円

取得総額9,000万円の内訳を、建物4,000万円・土地5,000万円とします。建物には住宅用木造22年の定額法償却率0.046を使い、1年間使用した場合の減価償却費は184万円です。

土地を含む9,000万円全額を22年で割る計算ではありません。費用となるのは税務上の建物取得価額に対応する部分です。ここでは設備の別区分と取得諸費用を省略して比較しています。国税庁・償却率等表

築10年なら簡便法の年数は14年

中古資産では、取得後の使用可能期間を見積もり、見積りが困難な場合に簡便法を検討します。法定耐用年数を一部経過している場合は、残りの年数に経過年数の20%を加えます。

経過年数がちょうど10年の住宅用木造なら、(22-10)+10×20%=14年。対応する定額法償却率は0.072なので、建物4,000万円の通年償却費は288万円です。

単に4,000万円を14で割る値とは異なります。また、取得時点の年数は資料で確認し、使用を始めた年に適用する年数を整理します。後年に都合よく簡便法へ変更することはできません。

築22年以上で法定耐用年数を全部経過した場合

簡便法では22×20%=4.4年となり、1年未満を切り捨てて4年です。建物4,000万円×償却率0.250=年1,000万円。一般に計算結果が2年未満なら2年とする下限もあります。国税庁・中古資産の耐用年数

建物4000万円の新築・築10年・法定耐用年数経過後の償却比較

いずれも通年使用の比較です。例えば7月から6か月使用するなら、新築92万円、築10年144万円、全部経過した中古500万円となります。短期償却でも最終年は未償却残高1円を残す調整があり、年途中に取得すれば償却の記載が五つの年分にまたがる場合もあります。

ただし、使用開始のための資本的支出が中古資産の取得価額の50%を超えると簡便法は使えません。同等新品の再取得価額の50%を超える場合の扱いとも区別します。「築古なら必ず4年償却」と決めず、購入と改修を一つの計画として確認してください。

法定・物理的・経済的な期間を分ける

法定耐用年数が22年でも、適切な点検・補修により、その後も貸せる木造物件はあります。反対に、築浅でも雨漏りや腐朽、施工不良があれば、大きな補修が必要になることがあります。

実際の使用可能期間は、設計、施工、気候、水分、維持管理などの影響を受けます。「木造50~60年」「鉄骨55~75年」「RC100年以上」という年数だけで、個別物件の残り寿命を保証することはできません。専門家に現状と未確認部分を調べてもらい、必要な補修を見積もります。

国土交通省の長寿命木造住宅の指針も、雨水・結露・地面からの湿気への対策、腐朽・蟻害の軽減、更新しやすい設備構成、点検履歴の保存を重視しています。国土交通省・長寿命木造住宅整備指針

経済的な期間は、さらに別です。物理的に使えても、家賃に対して修繕・管理の負担が重くなり、投資として継続しにくくなる場合があります。「住めるから保有」「償却が終わるから売却」と一段で判断せず、次の工事と収支を組み合わせて考えます。

木造アパートの法定耐用年数・物理的寿命・経済的期間の違い

耐用年数を超えた物件で注意する三つの問題

1.償却終了と返済・工事の支出が重なる

短期償却中は大きな経費を計上できても、期間が終わればその建物の償却費はなくなります。給与所得等との通算を使っていた場合にも影響します。ただし、建物が築22年になる日と、各所有者の償却が終わる日は同じとは限りません。

前述の建物4,000万円の例で、家賃から現金の運営費と利息を引いた額を年900万円と仮定します。償却費1,000万円の年は所得計算上100万円の赤字ですが、償却終了後は900万円の黒字です。一方、元金返済が年600万円なら、税引前現金はどちらも300万円です。償却終了で現金が1,000万円増えるわけではありません。

この赤字100万円も、そのまま還付額にはなりません。土地取得の借入利息など損益通算の制限があるうえ、税額は他の所得や控除でも変わります。元金返済は必要経費と別で、さらに税金と将来工事を払う資金が必要です。国税庁・不動産所得が赤字のとき

2.融資期間が短くなると年間返済が増える

同じ借入金額・金利でも、30年返済を15年返済にすれば年間負担は増えます。築年数を審査に反映する金融機関では、希望する返済期間を確保できず、満室でも手残りが薄くなる場合があります。

ただし「法定耐用年数を超えたら融資不可」という一律の制度ではありません。金融機関は構造・築年数、収益性、担保、借り手の年収・資産などを確認します。最長期間の広告だけで判断せず、自分とその物件に対する条件を確かめます。オリックス銀行・不動産投資ローンの商品条件

融資が通ることと、修繕や納税にも耐えられることは別です。想定より期間が短い場合、金利が上がる場合、必要な自己資金が増える場合を、それぞれ収支へ反映させましょう。

3.部位ごとの更新が重なる

屋根や外壁だけでなく、配管、給湯器、共用部の設備なども確認します。外壁塗装を実施済みでも、給排水は未更新かもしれません。工事が重なる年を把握しないまま、通常年の収支を毎年繰り返す計画にすると、資金不足を招きます。

例えば5年以内の工事に400万円を見込み、既存の準備金が100万円なら、追加の300万円を60か月で用意するには月5万円が必要です。工事価格が上がる場合や予定を早める場合もあり、見積りは定期的に更新します。

収益を維持する三つの打ち手

リフォームは入居者の不便を減らす

水回りの更新、シャワーヘッドや水栓の交換、収納追加、クロス・床の改善、独立洗面台・温水洗浄便座、インターネット設備などが検討対象です。一律に全部導入するのではなく、内見時の反応や退去理由から、不便の大きい箇所を選びます。

無料インターネットにも大家側の利用料や保守費があります。設備費だけでなく、毎月の費用と休室期間を計算してください。仮に改修60万円で月3,000円の家賃増だけを狙うなら、単純回収は約16.7年。空室期間短縮の効果も検討しますが、根拠のない満室化を前提にしないことが重要です。

ターゲットは物件の条件に合わせて見直す

学生・単身者に合う家賃、ペット飼育、外国籍の入居者への対応など、地域の需要と管理体制を見直します。安さだけで新築と競争するのではなく、立地・広さ・利用条件を組み合わせます。

ペット可なら頭数・種類や共用部のルール、清掃・補修の負担を整理します。外国籍の入居者には契約内容やごみ出し・緊急連絡を理解できる案内を用意し、国籍だけで支払能力やマナーを決めつけず、個別の条件を確認します。

予防保全で大きな不具合を早く見つける

屋根・外壁・床下・構造部を点検し、漏水やシロアリ被害を見逃さないようにします。保証期間内でも点検不要とはいえません。

2013年公表のシロアリ被害調査は、木造戸建て等5,322棟を対象とし、防蟻処理の保証切れ後に再施工せず経過したA区分と、保証期間内のB区分を比較しています。B区分では全体として被害割合が低かった一方、被害ゼロではありません。日本長期住宅メンテナンス・シロアリ被害実態調査

これは全国のアパートの現在の被害確率でも、薬剤の効果を条件統一して測った実験でもありません。自分の物件では、過去の被害、施工範囲、保証条件、再点検の予定を確認する材料として活用します。

売却・建替え・更地活用を比べる

オーナーチェンジで売却する

入居中のまま次の所有者へ売る方法です。家賃を得ながら売却活動を進められますが、高稼働だけで高値が保証されるわけではありません。修繕予定、家賃の実績、敷金や賃貸条件を買主が引き継ぐ前提で、資料を整えます。

償却終了前後は見直しの機会ですが、自動的な売り時ではありません。売却代金から費用・税・借入返済を差し引いた額と、保有継続の税引後収支・将来売却額を同じ期間で比較します。売却時の建物取得費には減価償却等が反映されるため、購入額より安く売っても課税益が出ることがあります。国税庁・譲渡所得の計算

建て替えて賃貸経営を続ける

新しい間取りや設備で需要に合わせ直し、新たな建物の減価償却を計上する方法です。ただし、解体・設計・建築費だけでなく、入居者対応、工事中の無収入、新しい融資と返済も必要です。

普通借家では、所有者が建て替えたいという事情だけで退去を強制できません。契約と正当事由などの検討を含め、専門家へ早めに相談します。接道や現在の建築規制によって、同じ規模を建て直せない場合もあります。国土交通省・賃貸住宅標準契約書

更地で売る、または別用途に活用する

住宅・店舗用地や駐車場などへ用途を広げられる可能性がありますが、更地にすれば需要や手取りが必ず増えるわけではありません。解体費、石綿等の調査・処理、入居者対応、許認可、売れるまでの維持費を差し引いて比較します。

住宅を取り壊すと、原則として土地の固定資産税等の住宅用地特例を受けられなくなります。建替え中の土地には自治体の要件を満たす取扱いもあるため、解体日だけで決めず、1月1日の状態と計画を税務窓口へ確認してください。東京都主税局・住宅用地の扱い

まとめ

木造アパートの22年は税務の基準であり、建物の寿命や売却期限ではありません。中古取得時の償却計算と、その所有者の償却終了後の収支を分けて把握することが出発点です。

収益維持では、入居者に合う改修、募集条件の見直し、予防保全を組み合わせます。そのうえで保有、売却、建替え、更地活用を比較し、次の税負担と工事費を払った後に何が残るかで判断しましょう。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト:https://oscar-c.jp

外壁の塗装や設備交換に数百万円を払ったとき、全額をその年の経費にできるとは限りません。維持・原状回復のための修繕費なのか、価値や使用可能期間を増やす資本的支出なのかで、費用にする時期が変わります。

判断に必要なのは請求書の工事名だけでなく、工事前後の状態、交換する資産の単位、仕様変更の範囲です。個人のアパート経営を中心に、金額基準、具体的な工事例、減価償却の計算、発注前の準備を整理します。

修繕費・資本的支出・取得はどう違う?

修繕費は通常の維持管理や原状回復

劣化した壁の補修や、建物を通常の状態に保つための塗り替えなどは、修繕費に当たる場合があります。原則は「以前できていたことを、引き続きできる状態に戻す」支出です。数百万円でも、金額が大きいという理由だけで資本的支出にはなりません。

反対に、請求書に「原状回復一式」と書けば修繕費になるわけでもありません。同じ発注の中に、既存の傷みを直す部分と、新しい機能を追加する部分が混ざることがあるためです。国税庁・修繕費とならないものの判定

資本的支出は価値や使用可能期間を増やす部分

避難階段を取り付ける、用途変更のために改装する、通常の交換を超えて性能を高めるといった支出は、資本的支出の検討対象です。原則として資産に計上し、減価償却によって複数年の経費へ配分します。

ただし、新しい製品の性能が以前より良いというだけで、交換費全額が自動的に資本的支出になるわけではありません。設備全体に対する影響や通常の交換との違いを確認し、修繕部分と改善部分を分けられるかを検討します。

取得は新しい資産を増やす支出

増築で部屋を増やすことや、独立した設備を新しく購入することは、既存資産への修理とは区別します。国税庁の通達でも、建物の増築は建物等の取得として扱われます。国税庁・資本的支出と修繕費等

少額資産には別の費用化ルールがあります。例えば10万円未満の資産の扱いや、10万円以上20万円未満を3年間で費用化する一括償却などです。貸付用資産の除外と、主要な業務として行う貸付けの例外も確認します。

一定の青色申告の中小事業者等には、2026年4月以後の取得等について40万円未満・年合計300万円までの特例もあります。取得日、対象者、貸付けの実態、申告要件によって適用は異なり、「10万円以上はすべて通常償却」とも「40万円未満なら全員一括経費」ともいえません。国税庁・少額資産の取扱い中小企業庁・少額減価償却資産の特例

法人の既存資産への資本的支出は、原則としてこの特例の対象となる取得とは扱われません。独立した機能の付加など実質的な新取得に当たる例外と区別し、40万円未満という金額だけで全額経費にしないようにします。国税庁・資本的支出と少額資産特例

判定は五段階で進める

工事の取得・修繕・改良を段階別に確認する手順

1.まず取得か、既存資産の修理・改良かを分ける

新しい資産の取得を、修理費の金額基準だけで処理しないことが出発点です。そのうえで、一つの計画に基づく同じ資産への工事を、目的・範囲・金額が分かる単位で整理します。請求書を分けただけで、実態が一つの工事を別々にできるわけではありません。

2.20万円未満、またはおおむね3年周期かを確認する

既存資産への一つの修理・改良等が20万円未満、または過去の実績などからおおむね3年以内の周期で行うことが明らかな場合、修繕費として所得計算・申告する取扱いがあります。

20万円ちょうどは「20万円未満」に含みません。また、今後3年ごとに行うつもりだと説明するだけで、周期の条件が当然に満たされるわけではありません。工事履歴や保守契約などで実態を確認します。

3.内容が明確な部分を修繕と改善に分ける

通常の維持・原状回復に当たる部分と、価値や耐久性を増す部分を、見積明細から区分します。ここで分かるものを先に整理し、金額が小さいという理由だけで、明らかな改善部分まで次の60万円基準へ回さないようにします。

4.判別しにくい金額に60万円・10%の基準を使う

修繕か資本的支出か明らかでない金額が60万円未満、または対象資産の前年末の取得価額のおおむね10%以下なら、修繕費として処理する基準があります。10%の分母は減価償却後の帳簿残高でも、不動産の時価でもありません。

例えば、該当資産の前年末取得価額が800万円なら10%は80万円です。区分不明の70万円は、60万円未満ではありませんが、10%の基準を検討できます。取得価額に含める過去の資本的支出等も資産台帳で確認します。国税庁・判定基準

5.なお不明な場合は区分の特例を確認する

上の基準などで処理できない区分不明額には、その30%と前年末取得価額の10%のうち少ない額を修繕費、残額を資本的支出とする、継続適用を前提にした特例があります。

例えば区分不明額120万円、前年末取得価額800万円なら、36万円と80万円を比べ、修繕費36万円・資本的支出84万円となります。明細で区分できる工事を、都合よく30%に配分する制度ではありません。災害の場合など別の規定との関係も含め、適用前に確認してください。国税庁・所得税基本通達37-14

よくある五つの工事で考える

原状回復:クロス・床・鍵

退去後の傷んだクロスの張替え、床の補修、既存の鍵の通常の交換は、修繕費を検討する例です。一方、同時に用途変更や設備追加をするなら、従来の居住機能を回復する部分と分けます。入居者との費用負担の話と、大家の税務上の区分も別問題です。

エアコン:部品修理と本体取得を区別

故障部品を直す支出と、独立したエアコン一台を新しく取得する支出は同じではありません。後者は同等品への入替えでも、まず新たな資産の取得として、少額資産のルールや減価償却を検討します。

未設置の部屋への導入、台数の増加、電源容量や配線の改修が重なる場合は、本体と建物附属設備への工事を切り分けます。「同等品なら必ず修繕費」という一覧表では、この違いを扱えません。

給湯器:既存設備との関係を確認

同等の機能への交換でも、既存の給湯設備の一部分を取り替えるのか、独立した資産を買い替えるのかで検討が変わります。給湯能力、設置方式、配管の改修範囲を確認してください。以前の資産台帳と新しい仕様書を並べると、判断の前提を説明しやすくなります。

外壁塗装・屋上防水:維持か、性能向上か

劣化した塗膜や防水層を通常の機能へ戻す工事は、修繕費になり得ます。従来と異なる仕様によって建物の耐久性を高める部分があれば、資本的支出を検討します。「防水工事は全部資産」「塗装なら全部経費」とは決められません。

施工業者には、従来と同程度の補修案と、改善案の仕様・費用の違いを出してもらいます。性能向上を説明する資料と、単なる営業上の「長寿命」という表現を区別しましょう。

共用部LED:ランプと設備全体を混同しない

国税庁の法人税の照会事例では、照明設備そのものに工事をせず、蛍光灯100本をLEDランプへ交換する総額110万円を修繕費としています。部品の性能が高まっても、設備全体の価値等が増したとまではいえないという判断です。国税庁・LEDランプ取替費用の照会事例

これは照明器具一式の新設や、配線・配置を大きく変える工事まで無条件に認めるものではありません。個人の賃貸経営でも、事例と自分の工事のどこが一致し、どこが違うかを確認する材料として使います。

資本的支出にした場合の減価償却

建物と設備の耐用年数を分ける

資本的支出は、原則として、改良した資産と種類・耐用年数を同じくする資産を新たに取得したものとして償却します。取得時期などによる特例もあるため、既存の資産台帳を確認します。国税庁・資本的支出を行った場合の減価償却

建物の代表的な法定耐用年数は次のとおりです。中古取得時の償却年数が常にこの表と同じになるわけではありません。

構造 住宅用 事務所用
木造・合成樹脂造 22年 24年
木骨モルタル造 20年 22年
RC造・SRC造 47年 50年
れんが・石・ブロック造 38年 41年
金属造・骨格材3mm以下 19年 22年
金属造・3mm超4mm以下 27年 30年
金属造・4mm超 34年 38年

設備では、器具備品に当たる冷暖房用機器やインターホーンは6年、建物附属設備の蓄電池電源設備は6年、その他の電気設備と給排水・衛生・ガス設備は15年が代表例です。空調でも建物附属設備なら13年・15年の区分があるため、「エアコンだからすべて6年」とせず、実際の構成を確認します。国税庁・主な減価償却資産の耐用年数表

400万円の防水工事なら年18.4万円となる例

木造住宅の防水性能を高める工事400万円が全額資本的支出となり、耐用年数22年・定額法を適用する例を考えます。1年間使用した場合の償却費は400万円×0.046=18.4万円です。7月に使用開始して6か月分なら9.2万円となります。最終年は未償却残高1円を残す調整をします。国税庁・定額法の計算

400万円の工事代と当年の経費を区別した条件付き比較

全額が通常の修繕費に該当し当年計上する別の工事なら、当年の必要経費は400万円です。どちらも現金で400万円を払う前提は同じで、経費額の差がそのまま現金収入になるわけではありません。上の防水工事を、希望だけで修繕費へ変更できるという比較ではない点に注意してください。

修繕と改善が混ざるなら明細で配分する

例えば総額300万円を、資料に基づいて原状回復180万円、木造住宅本体への資本的支出120万円に分けられたとします。後者に22年・定額法を適用し通年使用するなら、当年経費は180+120×0.046=185.52万円です。資産として残る114.48万円も含め、現金支払いは300万円あります。

これは標準的な配分割合ではありません。足場代や現場管理費などの共通費も、対応する工事や合理的な配分基準で整理します。見積書が「一式」だけなら、部位・数量・単価・仕様の明細を取り寄せましょう。

発注前から申告に備える

税理士へは結論だけを聞くのではなく、工事前の不具合、従来と新しい仕様、施工範囲、過去の工事、利用開始予定日を伝えます。資本的支出になる場合は、建物・附属設備・器具備品のどれか、耐用年数、償却開始時期まで確認します。

見積書、契約書、工事前後の写真、仕様書、完了報告、請求書、支払記録を一組にします。追加工事や仕様変更があれば、完成時点の明細へ更新してください。年末に前払いしただけの未完成工事を、その年の経費にできるとは限りません。

修繕費は早く費用化でき、資本的支出は費用化が分散するという違いがあります。しかし「資産計上にしておけば安全」「節税できる方を選ぶ」という考え方ではなく、実態と適用可能な規定に合わせることが基本です。

工事の必要性も税務区分とは別に判断します。仮に不要な工事100万円で税金が30万円軽くなっても、現金は差引70万円減ります。安全確保や漏水の拡大防止を優先し、募集改善工事は家賃・空室期間への効果を含めて検討しましょう。

まとめ

修繕費か資本的支出かは、工事名ではなく内容と適用条件で確認します。取得との区別を済ませ、20万円・3年周期、明確な修繕と改善、区分不明額の60万円・10%という順に整理すると、判断の根拠を残しやすくなります。

400万円を払っても、その年の経費が400万円とは限りません。工事前後の資料と資産台帳をそろえ、当年の税金、翌年以降の償却、実際の支払資金を別々に見積もることが大切です。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト:https://oscar-c.jp

木造アパート投資の魅力は、購入額に対して家賃を確保しやすい物件があることと、建物の減価償却を比較的短期間で計上できることです。ただし、家賃から返済や修繕費を払えなければ、利回りの高さも節税も経営の支えにはなりません。

検討の順序は、構造の特徴を知り、融資と劣化のリスクを把握し、候補物件の収支・間取り・修繕履歴を確かめることです。木造が一律に有利なのではなく、「安く取得できる理由」を説明できる物件かどうかが出発点になります。

木造アパートが注目される二つの理由

取得費を抑えられれば利回りを確保しやすい

木造はRC造より建築費を抑えやすい選択肢ですが、地盤工事、防火仕様、設備、施工地域などで費用は変わります。土地込みの取得総額が小さく、同じ地域で競争力のある家賃を得られれば、投じた資金に対する収益率は高くなります。

健美家の2025年年間レポートでは、全国の登録物件の平均利回りは、一棟アパート8.08%、一棟マンション7.55%、区分マンション6.66%でした。2024年の8.19%・7.74%・6.76%から、三種類とも低下しています。健美家・2025年年間レポート

ただし、この「一棟アパート」は木造だけの集計ではありません。築年数や地域の構成も異なり、掲載段階の利回りは実際の成約価格や運営利益を示しません。平均値の差だけで、木造のほうが必ず儲かると結論づけることはできないのです。

比較する物件は、駅距離だけでなく、築年数、専有面積、設備、入居状況をそろえます。家賃が同程度でも、大きな修繕を購入直後に必要とするなら、その工事代を含めた取得額で比較し直します。

減価償却を短期間に計上できる場合がある

住宅用建物の法定耐用年数は木造22年、RC造47年です。土地は減価償却しません。中古建物は取得後の使用可能期間を見積もり、見積りが困難な場合には所定の簡便法を検討します。国税庁・耐用年数表

経過年数がちょうど20年の住宅なら、簡便法の計算は次のとおりです。

  • 木造:(22-20)+20×20%=6年
  • RC造:(47-20)+20×20%=31年

建物取得価額をそれぞれ2,000万円と仮定すると、通年の定額法による償却費は木造が2,000×0.167=334万円、RC造が2,000×0.033=66万円です。単純に取得価額を年数で割るのではなく、償却率を使い、初年度の月割りや最終年の調整も行います。

これは現金が334万円戻るという意味ではありません。課税所得を計算する際の費用が増える仕組みです。また、使用開始のための資本的支出が中古資産の取得価額の50%を超える場合には簡便法を使えないなどの制限があります。6年・31年は税務上の計算結果であって、建物の残り寿命や融資期間ではありません。国税庁・中古資産の耐用年数

始める前に押さえたい三つのリスク

1.融資期間が短いと返済が収支を圧迫する

借入5,000万円、年利2%、元利均等・毎月返済で、金利が変わらない仮定を置きます。手数料や繰上返済を除くと、15年返済では月約32.2万円、35年返済では月約16.6万円。年額では約386.1万円と約198.8万円です。

物件の家賃が同じでも、返済期間が短いだけで年間約187.3万円の現金差が生まれます。高い表面利回りの物件でも、借りられる期間が短ければ資金不足になり得ます。

一方で、35年返済の総利息は約1,956.5万円で、15年返済の約791.6万円より大きくなります。10年返済後の残債も、それぞれ約3,907.7万円と約1,835.7万円です。月々の負担を軽くした分、元金の減少が遅くなる点まで比較する必要があります。

借入5000万円・年2%の15年返済と35年返済を比較

木造だから必ず15年、RC造だから必ず35年と決まるわけではありません。オリックス銀行には新築木造への35年融資の事例があります。ただし、年齢、物件の構造・築年数、担保評価などで制限されます。上の2%は比較用の仮定であり、同銀行の提示金利ではありません。オリックス銀行・不動産投資ローン

2.売却では次の買主の融資条件も影響する

一棟アパートの買主は主に投資家です。自宅として買う層にも販売できる区分マンションとは、検討者の広がりが異なります。ただし、立地や価格次第であり、すべての一棟物件が売りにくいわけではありません。

買主が融資を受けにくい築年数になれば、必要な自己資金が増え、提示価格が伸びないことがあります。売却予定年の築年数、修繕予定、残債を並べ、「売却額から費用と税金を引いて返済できるか」を購入前に確認します。

入居率と修繕履歴は、次の買主が将来収支を見積もる材料です。過去の家賃入金、退去理由、募集期間、工事内容を残しておくことは、売却時の説明にもつながります。

3.シロアリや腐朽は表面だけでは判断できない

木造では、柱・土台・床下などの木部が、シロアリや腐朽によって傷むおそれがあります。雨漏りや床下の湿気が続けば、見える内装を張り替えても原因は解消しません。木材の防腐・防蟻と水分対策は、長期使用の重要な条件です。国土交通省・長寿命木造住宅整備指針

確認したいのは、防蟻処理の実施日だけではなく、被害箇所、処置内容、漏水の原因、その後の点検結果です。点検口がなく床下を見られない場合には、「未確認」として扱います。見積もりも薬剤処理だけなのか、傷んだ部材の交換や漏水補修まで含むのかを分けて読みましょう。

木造アパートの家賃低下が修繕積立後の現金へ与える影響

物件選びでリスクを減らす三つの確認

1.広告利回りを返済後の収支に直す

表面利回りは「満室想定の年間家賃÷物件価格」です。実質利回りは費用の含め方が資料ごとに異なるため、本記事では「年間家賃から運営費を引いた額÷取得諸費用を含む投資額」と定義し、借入返済・所得税等・大規模工事は別計算にします。

例えば物件6,000万円、取得諸費用400万円、満室家賃600万円、年間運営費150万円なら、表面利回りは10%、満室想定の実質利回りは450÷6,400=約7.03%です。

稼働率90%では家賃が540万円となり、運営純収益は390万円、取得総額に対する割合は約6.09%に下がります。さらに前述の5,000万円を借りると、返済後は15年案で年約3.9万円、35年案で年約191.2万円。将来工事用に年60万円を確保すれば、それぞれ約56.1万円の不足、約131.2万円の残額になります。いずれも所得税等を引く前です。

運営費には管理、清掃、共用部電気、固定資産税・都市計画税、保険、通常修繕などを入れます。取得諸費用の仲介料・登記・融資手数料と混ぜず、元利合計の返済からさらに利息を二重に引かないようにします。工事用の資金確保も、それだけで税務上の経費になるわけではありません。

賃料単価が10%下がり、稼働率80%なら家賃は600×90%×80%=432万円。同じ運営費・返済・工事用資金では、35年案でも残額は年約23.2万円に縮みます。費用を固定した単純な悪化試算ですが、満室時だけでは見えない余裕の薄さを確認できます。

2.間取りとターゲットが合っているか

1K・1LDKが向く単身需要と、2LDKなどを求める家族需要は同じではありません。大学に近いから必ず単身向けが成功するとも限らず、学生数、通学経路、競合供給、学校の移転予定などで判断が変わります。

単身向けは通信環境、室内洗濯機置場、収納、通勤経路を、家族向けは部屋の使い分け、駐車場、買物・通学環境などを確認します。木造で気になる音の伝わり方も、構造名だけで決めず、床・壁の仕様や現地の状況を見ます。

管理会社には、類似間取りの成約賃料と募集期間を確認してください。現在入居している人の家賃が、退去後もそのまま再現できるとは限りません。間取り変更が必要なら、工事費と休室期間を収支に織り込みます。

3.修繕履歴と建物調査を突き合わせる

外壁塗装、屋根・防水、給排水、給湯器などについて、工事日・施工範囲・請求書・保証内容を確認します。「修繕済み」という記載だけでは、一棟全体なのか一部補修なのか分かりません。

建物状況調査は、主に構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防ぐ部分を、目視や計測などで調べるものです。壁を壊さずに行う調査で、すべての隠れた欠陥を発見したり、給排水管の内部まで必ず確認したりする制度ではありません。国土交通省掲載・既存住宅の検査と調査の比較

確認できなかった場所を報告書で読み、配管調査や耐震性の評価が必要なら別途依頼します。その結果を基に、購入前に直す工事、購入直後の工事、数年後の工事を分け、売買条件と資金計画へ反映させます。

節税効果は保有中と売却時を通して考える

減価償却を含む必要経費が家賃等を上回り、不動産所得が赤字になれば、給与所得などとの損益通算を検討できます。ただし、赤字のうち土地取得の借入利息に相当する部分などは対象外です。「減価償却費の全額×税率」がそのまま節税額になるわけではありません。国税庁・不動産所得の損益通算

通算可能な赤字が100万円あり、所得控除など他の条件が変わらない例では、課税所得1,000万円から900万円への減少で所得税本税は33万円軽くなります。1,900万円から1,800万円なら40万円です。復興特別所得税・住民税は別計算で、ここでいう所得は額面年収ではありません。国税庁・所得税の税率

900万円は「投資をすべき人」の境界ではありません。減少額が税率の異なる部分にまたがれば、全額に一つの税率を掛ける計算はできません。所得が低下した年や、償却期間が終わった後も含めて試算します。

売却時には、建物の取得費から保有中の減価償却費等を差し引いて譲渡益を計算します。個人の一般的な税率は、売却年の1月1日で所有5年以下なら39.63%、5年超なら20.315%です。保有中に減った税額の一部が、売却時の課税増として現れることがあります。国税庁・長期譲渡所得

税率差だけで利益は決まりません。保有中の家賃、運営費、修繕、借入返済、売却価格と残債を合算し、その上で納税額を比較することが必要です。

まとめ

木造アパートの検討では、取得費と償却期間の利点を、融資・売却・劣化の三つのリスクとセットで見ます。広告利回りを実際の収支に直し、間取りの需要と修繕履歴を確かめることで、候補物件の弱点が具体的になります。

とりわけ返済期間は、同じ家賃でも手残りを大きく変える条件です。短期返済の資金不足と、長期返済の利息・残債を並べ、税金や将来工事を払った後も経営を続けられる物件を選びましょう。


不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト:https://oscar-c.jp