「毎年いくら税金が戻るか」だけでは、不動産投資の採算は分かりません。帳簿上の赤字、返済後の現金不足、相続税評価額の低下は、それぞれ別の現象です。区別せずに購入すると、節税できても家計からの持ち出しが続くことがあります。
この記事では、所得・相続・贈与に関する仕組みを確認し、土地借入利息、長期償却、売却時課税の三つの落とし穴を具体的な数値で検証します。計算例は条件を置いた説明用で、特定の投資家の実績を示すものではありません。
不動産投資で変わる三種類の税負担
所得税・住民税:償却と通算は別々に確認
建物や設備の取得費は、原則として減価償却で各年の経費へ配分します。土地は償却できません。毎年の償却時に同額の支払いはありませんが、購入代金そのものが不要になるわけではありません。
例えば建物取得価額4,500万円、簡便法を使える中古木造で償却期間4年、通年使用なら、定額法の年間償却費は1,125万円です。償却前の不動産所得が725万円なら、償却後は400万円の赤字になります。全部を損益通算でき、所得控除等が変わらなければ、本業などの課税所得1,000万円が600万円になる計算です。
ただし、土地等の取得借入金利子に対応する赤字部分などには通算制限があります。「減価償却できる」「赤字になる」「給与等と通算できる」の三段階を分けて確認してください。国税庁・赤字の通算
相続税:9,000万円の資産をどう評価するか
土地は路線価方式や倍率方式、家屋は固定資産税評価額を基礎に評価します。賃貸中なら貸家・貸家建付地の調整があります。土地を購入額の80%、建物を65%にすれば必ず正しいというルールではありません。国税庁・土地家屋の評価
2026年の一般的な一棟賃貸物件の例として、時価9,000万円(建物3,600万円・土地5,400万円)、建物の固定資産税評価額2,340万円、土地の自用地評価額4,320万円と仮定します。借地権割合70%、借家権割合30%、賃貸割合100%なら、次の計算です。
建物は「2,340×(1-30%)=1,638万円」。土地は「4,320×(1-70%×30%)=3,412.8万円」。合計5,050.8万円で、現金9,000万円との差は3,949.2万円です。国税庁・貸家建付地
この差は評価額の差であり、同額の相続税が減るという意味ではありません。相続人、他の財産、債務、基礎控除等で税額が変わります。空室の扱いや区分マンションの評価補正も別途確認します。
さらに2026年度税制改正大綱には、2027年1月以後の相続等について、課税時期前5年以内に対価を伴い取得・新築した一定の貸付用不動産を通常の取引価額相当で評価する見直し方針があります。今買えば従来の評価差を将来も使えるとはせず、対象・経過措置・適用通達を確認する必要があります。財務省・資産課税の見直し方針
贈与税:評価差と移転費用を合わせて見る
暦年課税では、受贈者が1年間に受けた財産を合計し、基礎控除110万円を引いて税率表を適用します。贈与者一人ごとに110万円を引けるわけではありません。税率は10~55%で、一般税率と、贈与年の1月1日に18歳以上の子・孫等が直系尊属から受ける場合の特例税率があります。
他の贈与がない仮定で、現金2,000万円なら控除後1,890万円。時価2,000万円でも贈与税評価額が1,400万円の不動産なら控除後1,290万円です。一般税率ではそれぞれ695万円と405.5万円、特例税率なら585.5万円と326万円になります。国税庁・贈与税の税率と計算
ただし、負担付贈与の土地建物は通常の取引価額で評価する扱いがあり、単純に同じ計算はできません。登録免許税・不動産取得税、借入条件も確認します。相続時精算課税という別の制度もあり、2024年以後の年110万円控除が設けられていますが、一度選ぶと同じ贈与者について暦年課税へ戻れません。移転時の税額だけでなく将来の相続まで比較しましょう。国税庁・相続時精算課税
課税所得900万円は購入の合格ラインではない
給与の額面年収と課税所得は異なります。所得税は5~45%の累進税率で、900万円以上の区分は33%ですが、所得全体に一律の税率を掛ける仕組みではありません。
損益通算できる赤字150万円がある場合を、所得税本税だけで比べます。課税所得1,000万円なら「1,000×33%-153.6=176.4万円」、850万円なら「850×23%-63.6=131.9万円」で、減税額は44.5万円です。
課税所得1,900万円なら「1,900×40%-279.6=480.4万円」、1,750万円なら「1,750×33%-153.6=423.9万円」で、減税額は56.5万円です。同じ150万円でも税率帯をまたぐため、150万円全額に当初の33%や40%を掛けた額にはなりません。国税庁・所得税率
復興特別所得税、住民税、税額控除等は別です。900万円未満なら投資に向かないという境界ではなく、900万円以上でも税引後収支が赤字なら問題は残ります。退職や働き方の変更で、将来の通算効果が小さくなる可能性も考慮します。
築古木造と新築区分で償却額が違う理由
住宅用木造は22年、RC造は47年が法定耐用年数です。中古木造で22年を全部経過し、使用可能期間の見積もりが難しく簡便法を使えるなら、「22×20%=4.4」から4年になります。建物取得価額2,000万円なら通年500万円です。国税庁・中古資産の耐用年数
同じ建物2,000万円でも、新築RC住宅の定額法は償却率0.022で通年44万円です。区分か一棟かだけでなく、建物への配分額、構造、築年数、使用開始月が年額を左右します。都市部は土地比率が高い場合もあり、総購入額に償却率を掛けてはいけません。
短期償却ができても修繕や借入期間まで短くなるわけではありません。使用開始時の資本的支出が取得価額の50%を超える場合などは簡便法を使えず、最終年は残高調整も必要です。新築区分は不利、築古木造は有利と決めず、償却終了後まで比較します。
三つの失敗を数値で確かめる
1.90万円の赤字を全額通算できると考える
年間家賃636万円、利息・償却以外の現金経費250万円、支払利息123.5万円、別途適正に算定した償却費352.5万円と仮定します。不動産所得は「636-250-123.5-352.5=-90万円」です。この償却費は築20年だから自動的に決まる額ではありません。
支払利息のうち土地取得分が94.5万円なら、赤字90万円全額が通算対象から除外され、給与等へ通算できる額はゼロです。土地利息を最初から必要経費にできないという意味ではなく、赤字のうち通算できる範囲を調整する規定です。
元利合計の年間返済を516.2万円と置くと、現金収支も「636-250-516.2=-130.2万円」です。支払利息は返済額に含めているので二重に引きません。還付を期待する前に、借入の使途と、税金前でも現金不足になる構造を確認します。
2.新築RCなら赤字を節税で埋められると考える
購入額2億円、うち住宅用RC建物1億4,000万円、土地6,000万円、年間家賃1,000万円とします。現金経費420万円、元利返済750万円なら、税金前の現金収支は年170万円の赤字です。
建物を通年償却する現行定額法の額は「1億4,000万円×0.022=308万円」。返済に含まれる土地建物合計の利息を245万円と仮定すると、不動産所得は「1,000-420-245-308=27万円」の黒字です。青色申告控除等を入れる前の比較ですが、少なくとも大きな赤字を通算して持ち出しを埋める計画にはなっていません。
建物価格を47で割った概算ではなく、適用する償却率を使います。また、土地利息を抜いた所得と、全利息込みの返済を比べないよう、計算の範囲をそろえることが重要です。
3.購入額で売れれば売却益はゼロと思う
購入額6,200万円、うち木造建物2,600万円を4年償却できるとします。年間償却650万円、家賃508.4万円、現金経費170万円、土地以外の支払利息36.5万円なら、土地利息の通算制限を調整した後の通算対象は348.1万円という例を考えられます。
ここで本業等の課税所得を毎年1,000万円と仮定すると、通算後は651.9万円。所得税本税は176.4万円から87.63万円となり、差は88.77万円です。復興特別所得税2.1%と住民税所得割10%の差も加えた概算軽減額は年約125.4万円で、348.1万円に一律43%を掛けた額ではありません。
税率・控除などの条件を一定と置けば、4年分の軽減は約501.8万円です。一方、償却終了後に取得額と同額で売っても、建物取得費はほぼ償却済みです。残存1円や取得・売却費用、消費税等を省略し、建物相当額2,600万円が課税益となる仮定なら、短期39.63%では約1,030.4万円、長期20.315%では約528.2万円になります。
売却年の1月1日に所有5年超かで長短を判定するため、4年程度での売却は通常短期です。国税庁・長期、短期
ただし、軽減累計と売却税の差だけを「投資損失」とは呼べません。保有中の家賃、土地利息、元金返済、工事、土地の売却損益まで加えて判断します。教訓は、保有中の還付だけでは投資全体を評価できないという点です。
購入後に見落としやすい三つの注意
初年度の数字を毎年使わない
取得時の登録免許税・不動産取得税等を経費にできる場合がありますが、一度だけの費用です。取得税の通知が翌年に届くこともあり、支払いや計上の時期を確認します。購入仲介料は通常取得費に含め、保証料や長期保険料などは期間に応じた処理を検討します。
初年度は使用月数が短く償却額も小さい場合があるため、必ず初年度の節税が最大とも限りません。二年目、償却終了年、その翌年、売却年の試算を作ります。
青色申告は規模・帳簿・申告方法を確認
事業的規模の目安は、独立家屋がおおむね5棟、貸室がおおむね10室です。「アパートを5棟買わないと事業にならない」という意味ではありません。2026年分は、正規の簿記等の条件で最高55万円、さらにe-Tax等の条件で最高65万円となり、それ以外でも最高10万円の枠があります。国税庁・事業的規模
2027年分からは、複式簿記等と期限内e-Taxが65万円の条件となり、優良電子帳簿またはデジタルシームレス保存等を満たせば75万円です。所定の届出も確認します。簡易記帳の10万円控除には一定の前々年収入1,000万円超の制限が入りますが、事業として行われていない不動産所得はこの制限の対象から除かれます。国税庁・2027年分からの改正
控除額は所得額等が上限で、赤字をさらに増やすための枠ではありません。
私的支出を経費へ混ぜない
家族との外食、私生活の買物、私用サービスを、名目だけ交際費や消耗品費にしても経費にはできません。兼用なら業務に必要な部分を合理的に区分し、請求書・明細・記録で目的、相手、金額を説明できるようにします。国税庁・必要経費
修繕でも価値を高める工事は資本的支出となる場合があります。節税のために不要な支出を増やすのではなく、必要な工事を適切な区分で処理することが基本です。
まとめ
不動産投資の節税は、資産の評価、償却、通算、税率の条件を満たした結果です。評価額が下がること、帳簿が赤字になること、手元資金が増えることを同じ意味で扱わないでください。
三つの失敗例を参考に、土地利息を含む正しい所得計算、返済後の現金、償却終了と売却時課税をそろえましょう。税軽減が小さくなっても続けられる収支と、引き継ぐ家族まで見通せる計画が重要です。
不動産投資マスターK
代表 金田大介
運営 オスカーキャピタル(株)
公式サイト:https://oscar-c.jp




















