りんごと檸檬のはなし | 朧の徒然雑記

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きっかけなんて、そんなもの。

駅前の書店は彼女の行きつけだ。
少なくとも3日に1度は何とはなしに訪れてしまう。買いたい本があるわけではなくて、行ってほしい本があれば買う。雑誌や気になる本をチェックしている方が圧倒的に多い。迷惑な客かどうか微妙なところだろうと彼女は考えている。
そんな感覚で訪れた本屋だが、軽く模様替えをしたようだ。入店して首をかしげた。
イベントに合わせた飾りつけをかえたようで、夏らしかったディスプレイは秋色へとかわっていたのだ。児童書や絵本のコーナーでは季節ごとにディスプレイを変えている。今回は落ち葉色の台に紅葉した葉っぱ、そして様々な果物や栗がディスプレイされている。当然模造品だが。
さて、彼女はいつものように変わったディスプレイを軽く見て通りすぎようとした。絵本は嫌いではないが、購入することはまずない。たまに懐かしいものを見つけては手に取るぐらいだ。
それなのに、彼女は思い立って絵本を手に取った。赤い果実の描かれた絵本。気を引いたのは題名だ。りんごかもしれない。
中身を見て、なるほどその通りの題名だとおもう。少年がりんごを見て、創造力をたくましくしていく。りんごに見えるけれど、これはりんごではないかもしれない、と。なかなかシュールでユニーク、子供らしい創造力だと笑った。ほほえましい、と思う類いの笑いだ。
それから一つの話を思い出した。
それもまた果実の名前。檸檬、だ。
梶井基次郎が作者のそれは、女性が檸檬を違うものに見立てる、というラストだった。
それを思い出して、彼女は絵本を本棚に戻す。ほほえましい笑顔もストンと抜ける。
にているかといわれると、そんなことはない。絵本の内容はやはり可愛らしいものだ。だけど檸檬は違う。違ったはずだ。
檸檬を爆弾にみたてて、わくわくとする女性。

そのわくわくした場面を、彼女は一番覚えていた。