宮澤賢治の 『ひのきとひなげし』より | ブドリの森

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今回は宮澤賢治の童話 「ひのきとひなげし」です。
 
岩手の初夏の風景とともにお楽しみくださいね。
 

 
ひなげしはみんな真っ赤に燃えあがり、めいめい風にぐらぐらゆれて 息もつけないようでした。
 
そのうしろの方で若いひのきが やっぱり風に髪も体も、いちめんもまれて立っていました。
 
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 いちばん小さいひなげしが、ひとりでこそこそ言いました。
 
「ああ つまらない、つまらない。もう一生コーラスだわ。
 
いちどスターにしてくれたら、明日は死んでもいいんだけど。」
 
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隣の黒ぶちの入った花が すぐに引き取って言いました。
 
 「それはもちろん あたしもそうよ。だってスターにならなくたって どうせ 明日は死ぬんだわ。」
 
 どうやら ひなげし達は 誰よりも自分が 一番キレイになりたいと思っているようです。
 
 

 
 
そこへ   「…ちょっと おたずねしますが、美容院はどちらでしょうか?」
 
小さなカエルに化けた悪魔が、新月よりも気高いバラ娘に仕立てた弟子を連れてやって来ました。
 
 
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ひなげしはあんまり立派なバラの娘を見、また美容術と聞いたので、みんな ドキッとしました。
 
 カエルは  自分の娘は  前は心配するほど おかしな容姿だったのが、
 
その美容術の先生のおかげで このように美しく変身できたのだと語ります。
 
 

 
 
関心をくすぐられた ひなげし達は、 その先生に回ってもらえるように カエルに頼みます。
 
「とにかく そう言いましょう。 おい。行こう。さようなら。」 
 
カエルは 娘の手を引いて、むこうの土手のかげまで行くと、今度は白いヒゲの医者に化けました。
 
 
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東のの峰は だんだん高く、だんだん白くなって、今は空の頂上まで届くほどです。 
 
悪魔は急いで ひなげしの所へ やって参りました。
 
 
「わしは先刻、伯爵(カエル)から 言伝になった医者ですがね。」
 
かしこいひなげしのスター、テクラがドキドキしながら言いました。
 
「ひなげしは 手前どもでございます。私どもは立派になれましょうか?」
 
 
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「なれますね。三腹でさっきの娘ぐらいというところ。 しかし、薬は高いから。」
 
「いったいどれぐらいで ございましょう?」
 
「さよう。お一人が 5ビルです。」
 
 
ひなげしは しいんとしてしまいました。 医者も しいんとして空を見上げています。
 
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とうとう お金がない ひなげしたちは  かわりにケシ坊主からとれる アヘンを渡すと約束してしまいます。
 
 

 
 
「よろしい。さっそくをあげる。 一服、二服、三服とな。 まず私が第一服の呪文をうたう。
 
すると ここらの空気に きらきら赤い波が立つ。それをみんなで 呑むんだな。」
 
 
すると 本当に そこらのもう浅黄色になった空気の中に
 
見えるか見えないような 赤い光がかすかに波になってゆれました。
 
 
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 ひなげしどもは 自分こそ一番美しくなろうと 一生懸命 その風を吸いました。
 
次の二服めには 空気へうすいのような光が ちらちら 波になりました。
 
 
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ひなげしは また 一生懸命です。
 
「では 第三服。とお医者が言おうとした時でした。
 
 
「おおい、お医者や、あんまり変な声を出してくれるなよ!!」 ひのき が高く叫びました。
 
 
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その時がザアッとやってきました。 「こおら! にせ医者、待てっ!!」
 
すると 医者はたいへんあわてて、まるでのろしのように大きく黒くなって
 
途方もない方へ 飛んで行ってしまいました。
 
 
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ひなげしは みんな あっけにとられて ぽかっと空を眺めています。
 
ひのきが そこで 言いました。
 
「もう一足で おまえたちみんな 頭をバリバリ食われるところだった。」
 
 
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「それでも いいじゃぁないの。おせっかいの ひのき。」 ひなげしどもは怒って言いました。
 
 
「そうじゃあないて。
 
おまえ達が青いケシ坊主のままで食われてしまったら、もう来年は生えてこない。
 
それに第一、スターになりたいなんてスターって 何だか知りもしないくせに。
 
スターというのは めいめい決まった場所で 決まった光りようをなさる お星さまのことなんだ。
 
 
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おまえ達が そのまま スターでな、おまけにオールスターキャストになっている。
 
(あめ)なる花を星といい、 この世の星を 花という。」
 
 
「何を言ってるの。ばかひのき、ケシ坊主なんかになって あたしら生きていたくないわ。
 
わあい、わあい、おせっかいの背高ひのき!!」  けしはやっぱり怒っています。
 
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ひのきは また黙って、夕方の空をあおぎました。
 
西の空は今は輝きを納め、東の雲の峰はだんだん崩れて、
 
そこから もう銀色の一つ星もまたたき出しました。
 

 
「ひのきとひなげし」はいかがでしたか。 
 
またもや「う~ん。。」と考え込んでしまいましたが、
 
人とうらやむのではなく、誰でもが あるべき場所があり、なすべきことがある。
 
そんな自分の置かれた状況で、精いっぱい 輝くことを ひのきは教えたのでしょうか。
 
みなさんはどのように 感じられましたか。
 
原文をご覧になりたい方はこちらをどうぞ  www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/1920_17655.html