8月5日 (16)
  蜜豆やときどき妻が生意気で    鈴木 鷹夫

                             長浜  勤
 蜜豆は明治時代に考案された大人の甘味。寒天や赤えんどう豆等を食材としている。久しぶりの夫婦のデートで銀座にでも来ているような設定だろうか。お互いに敬語で話していた頃もあったが、結婚生活も長くなると妻の生きる力が大きくなるようだ。そうした時の流れを受け止めた措辞が「生意気」ではなかろうか。ご夫婦を存じあげていると微笑ましい。
               句集『カチカチ山』所収 季語【蜜豆】
 

8月4日 (15)
  真桑瓜眠くなつたら寝る暮し  鈴木 鷹夫
                              長浜  勤

食用になる果物は水菓子とよばれた。甘い物がすくなかった時代には貴重で、落語や講談にも登場する。徳川家光はとくに真桑瓜が好きだったらしい。今では伝統野菜扱いであるが、食べ方はメロンと同じだ。しかし、メロンほど甘くはない。ゆっくりと起床して、おやつに真桑瓜を食べる。喉の渇きがなくなるとまた眠くなる。そのような生活もいいだろうがすぐ飽きる。これは自嘲なのだ。              句集『春の門』所収 季語【真桑瓜】

8月3日 (14)
   今生は手足を我慢かたつむり  鈴木 鷹夫

                               長浜  勤
 かたつむり(蝸牛)にはでんでん虫等多くの呼称がある。古くから親しまれてはいるが畑では害虫だ。食用や民間薬になる種類もあるが、最近は寄生虫の危険性が指摘されている。かたつむりは陸貝の総称で、二本の足はないが体全体が足のような役割を果たしている。たしかに手足がないように見える。しかし、上五中七は決してかたつむりの説明ではない。そこには自己が投影され、切れがある。               句集『千年』所収 季語【蝸牛】