幕末期に蕨は機織りで繁栄した。塚越の髙橋新五郎(2代目)はその中心的な存在で蕨の機業の始祖のような存在。没後は機祖神となった。その子孫が双子縞を日本各地に出荷して評判となったようだ。時代の流れにより衰退したが、最近になって復活させている。8月の機祭りはここに由来する。今年は残念ながらコロナ禍で中止になった。

 

  機音のかすかに春の氷かな       勤
 

  早春の1日、塚越稲荷神社内に立ち寄った。経塚の上に稲荷神社があり、塚越の地名の由来となった。子ども頃の遊び場でもあった。境内内にある機神社の存在に当時は気がつかなかった。掲句の機音は幻想のようなものだが、私がこどものころにはまだ機音がひびいていたはずである。

8月2日 (13)
  竹夫人いまだ名もなく擁かれけり   鈴木  鷹夫

長浜  勤
 竹夫人とは夏用の抱き枕で、竹が円柱状に編まれているもの。気温の高い中国南部にルーツがある。涼を得るための道具であるのに「夫人」という名称がつくのは男性専用なのか、女性から顰蹙を買いそうだ。毎日抱いて寝るのに、名前もないのはあわれとの発想だろう。掲句は竹夫人で切れが入る。この間を大切にしてこその俳句形式である。「竹夫人が」と散文的に補うことは必要ないのだ。               句集『大津絵』所収 季語【竹夫人】

8月1日 (12)
  己が足ときどき見えて箱眼鏡  鈴木 鷹夫

                                 長浜  勤
 夏は日中の干満差が大きくなり、磯には潮だまりができやすい。涼をもとめて水辺に遊ぶと潮だまりにも入りたくなる。ここには多くの生物がいるのだが、観察に便利なものが箱眼鏡。大抵はプラスチックとゴムでできている。ほどほどの水深の場所を探して水底をのぞいてみる。色あざやかな小魚が素早く動くので、箱眼鏡を動かしながら追ううちに自分の足がみえるのが面白くなった。                句集『千年』所収 季語【箱眼鏡】