「下剤を飲んで便秘になる」の巻 | ひねもすのたりのたりかな

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ブログというのは書くことがおっくうになると2ヶ月でも3ヶ月でも筆(キーボード)が遠のいてしまうものですが、一回更新し出すとまたエンジンがかかるようで、立て続けに書きたいテーマが湧いてきます。

 

ということで本日は「下剤と飲んで便秘になる」の巻、というお話しを。

 

先日「他の医療機関で便秘の治療を受けているのだけど、下剤を飲んでも飲んでも一向に便秘が良くならない」

という患者さんが来院されました。

その方のお薬手帳を見せてもらうと。ラキソベロン、アミティーザ、マグミット、プルゼニドと蒼々たるメンバーが名を連ねていました。

念のためおなかのレントゲン写真を撮ってみましたが特に便が詰まっている感じはありません。

それに数ヶ月前には大腸内視鏡検査も受けているようです。

おまけにトイレで便を出そうと頑張っているうちにおしりも痛くなってきた、とのこと。

 

大腸内視鏡を最近受けていますから、直腸癌や大腸癌の心配はなさそうです

おしりから指をいれて肛門の出口で硬い便が詰まっていないか検査してみました、直腸の中は空っぽでした。

 

なのに何故この方は「便がでない」と訴えるのでしょうか?

 

じつは原因は「下剤」そのものだったのです。

 

上に挙げた下剤のうち「刺激性下剤」といって腸管粘膜を刺激して排便を促す下剤が2種類含まれています。

ラキソベロンとプルゼニドです。

とくにプルゼニドは連日これを飲むことで患者さんによっては腹痛に近い便意が遷延してしまうことがあります。

つまりこの方は便がでないのではなく、実際には便は十分排出されているにもかかわらず「便が出そうな感じが収まらない」状態だったのです。おそらく前の医療機関では患者さんの「便が出そうで出ない」という訴えの意味を取り違えてしまい、次々と強い下剤を追加してしまっていった結果現在の状況に陥ってしまったのだと思われました。刺激性下剤の増量にしたがって強い便意が増強されますから患者さんは長い時間トイレにこもっていきみつづけることになります。でもいきんでもいきんでも腸の中は空っぽですから何も出てきません。

そのうちおしりが腫れて痛くなってきてしまったという顛末だったのです。

 

この方は桂枝加芍薬湯という腸管の過敏性をおさえる漢方薬と処方しつつ下剤を減らし、最終的には非刺激性下剤であるマグミットのみで規則正しい排便が得られるようになりました。おしりも軟膏をつかって治療することで排便が落ち着くに従って沈静化していきました。もちろん手術も不要でした。

 

「便が出そうで出ない」

 

この独特の訴えには、直腸癌による腸閉塞や糞便塞栓(肛門で硬い便が詰まってしまうこと)も含めて色んな可能性が含まれているので要注意なんですね。