緊張感、恐怖感、麻酔の痛み、、なかったことにしてくれる薬について。 | ひねもすのたりのたりかな

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「手術」と聞くと誰しも怖いものです。どんなに説明を聞いて、納得したようでも当日となればだれでも不安です。医師としてどんなに内視鏡や手術の技術に自信をもっていても、患者さんが抱く不安は別物です。会話や声かえでリラックスさせてあげるというのも玄人的なテクニックですが、全ての人に通用するものではありません。

鎮静剤と称される薬があります。平たく言えば「眠り薬」です。眠り薬なので厳密にいえば痛みをブロックする麻酔薬とは異なります。しかし眠っている間、痛みに対する反応や記憶はどうなるでしょう?例えば皆さんが眠りについている真夜中につねられたり、針で一瞬刺されたりした場合。その瞬間は身動きしたり目を開けるかも知れませんが、朝になって覚えているでしょうか?

鎮静剤はそれと似たような働きをしてくれます。手術の直前、大腸内視鏡の直前に眠らせてくれます。患者さんの体質によっては眠りにはいるほどのしっかりした効果を示してくれないこともありますが、それでもほろ酔い気分のリラックス効果を得ることはできます。体の力を解きほぐす効果があるので、内視鏡や手術をする際に、術者にとってもやりやすくなり有り難い効果です。

効果は時間的にも限定的なので、検査や手術が終わるころには目が覚めます。また鎮静作用を「打ち消す」効果をもった「拮抗薬」もあるので、帰る頃には普通に目が覚めて自分で歩けます。

不思議なことに、麻酔の針を刺す時に「痛いっ!」と反応していた方でも、手術が終わってみると「もう終わったんですか?まったく気がつきませんでした」という方が少なくありません。この効果を「逆行性健忘」といって、ごく最近の出来事についてのみ忘れてしまう作用なのです。手術や検査が終わった時点で、その最中の苦痛や恐怖感を全く感じないか、もしくは忘れてくれている、というのは医療者側にとっても非常に有り難いことです。

殆どの方がこの薬を希望されます。ただ中には内視鏡検査中に「自分の腸の中を見たかった、検査中おきていたかった」という方もいらっしゃるので、患者さんの希望をお伺いして投与するかどうかを決めています。

ちなみに僕自身は内視鏡検査を受ける時には、これら鎮静剤を注射してもらっています。自分で言うのも何ですが、基本的に弱虫で痛がりやなので(笑)。大腸内視鏡検査や手術の際にご希望の方は言って下さい。みなさんの気持ちよーく分かりますので。