プラスチック加工会社「Jpキュービック」(愛知県豊川市)が、アクリルを切削して制作した透明の昆虫を紹介する「超リアル昆虫図鑑」をウェブ上で公開している。技術者2人が「もっと難しいものを作ろう」と極細の爪先や触角まで世界最高レベルの微細加工技術で忠実に再現し、「すごみ」すら感じさせる美しい作品群となっている。
糸の太さが直径0・125ミリ(毛髪は平均0・08ミリ)の巣で餌を待ち構える透明なクモ、模様も再現された直径0・1ミリ未満の触角を持つカマキリ、薄さ0・03ミリの羽を広げたチョウ――。実物大だが透き通った体を持つ約10種類の昆虫たちは、今にも動き出しそうだ。
同社は伊藤雅彦社長(50)が2005年5月に設立した。従業員は18人。プラスチックの高精度な切削加工に特化し、研究所や医療分野の試作品などの部品製造を手がける。「最先端の技術も1、2年で価格が下がる。常に自分たちの価値、稼ぐ力を高めることが大切。やらされることは作業でしかない。自ら技術を高めることこそ仕事」という理念のもと、社員らは業務の合間に技術を追求している。
透明な昆虫たちは、36歳と42歳の技術者2人が微細な加工技術を極めるため5年ほど前から制作してきた。アクリルは加工時に割れやすく表面が曇りやすいため扱いが難しいが、あえて選択。本物の昆虫を3Dスキャンして、加工機や加工する環境などを細かく設定し、試行錯誤を重ねて作り上げた。
作品は「一般の人が気にしないような細部にこだわり、徹底的に掘り下げられる特別な感性を持つ人だけが挑戦できる領域」(伊藤社長)にまで達し、見本市などで展示すると、これまで取引のなかった業界からも仕事の相談が入るようになった。
工作機械が発達し、資金があればどの国でもある程度の精密加工はできる。伊藤社長は「日本の製造業が生き残る道は、新興国がまねできない微細分野での高精度技術。我々は繰り返し挑戦し続けて技術を操ることをストイックに追い求める『モノづくりアスリート集団』です」と胸を張る。【荒川基従】