東京大学の学生は小学生時代、どんな場所で勉強をしていたのか。また、家のリビングや部屋にどんなモノが置いてあったのか。現役生249人に聞いたところ、ある興味深い結果になった。84%の家にあるアナログ製品があったのだが、いったい何か。彼らや彼らの親が、勉強をスムーズに行うためにしていた“家の工夫”と合わせて紹介しよう――。
※本稿は、『プレジデントFamily2022冬号』の記事の一部を再編集したものです。
8割超の「東大生の家」にあったモノとは何か?
頭のいい子の代表的存在である東大生は、小学生時代どんな環境で勉強をしていたのだろうか? 現役東大生にアンケートを実施(※)し、「小学生時代どこで勉強していたか」や「勉強部屋にあった知育グッズ」「集中するためにしていた勉強スペースの工夫」を聞いた。※2021年3月に現役の東京大学の学生、大学院生249人にWEB形式のアンケートを実施。学部や学年は回答当時のもの。
その結果、東大生の半数以上が、自分の個室ではなくリビングで勉強していたことがわかった。リビング学習派が54.2%で、自室派は39.4%。リビングで勉強していた人は「親がいつも目の前にいたので、集中せざるをえなかった」と“親の目”が効果的だったと振り返る。
長男は東大に、次男は京大に現役合格、長女は高校からイギリスに留学した母学アカデミー学長の河村京子さんの家もリビング学習派だった。
「リビング学習には緊張感と安心感があります。親に見られているから、ちゃんとしなきゃと思うと同時に、見守られていることで心が落ち着くのです。息子たちが中学受験したときも、ダイニングテーブルで勉強していました。その隣で、親が新聞を読んだり、自分の勉強をしたりする姿も見せられるメリットがあります」
また、アンケートの回答に「食事用のテーブルには自分のものがなく気が散らなかった」とあったが、河村さんも「オモチャなどがないので、やるべきことに集中できる」とリビング学習のメリットをつけ加える。
勉強部屋にあったものを聞くと、勉強道具以外に地図や地球儀、国語辞典、百科事典などが多い。
河村さんが注目したのは、83.5%の東大生の自宅にはアナログ時計があったこと。「小学校低学年のうちはデジタル時計ではなく、アナログ時計を置くといい」と考えている。
「デジタル表示の時刻では『時間』の感覚がつかめない。子供が時計の針を見ながら、『あと10分でこの宿題を終わらせよう』などと意識して時間の感覚を身につけることが大事です。また、時計は15分をひとかたまりと考えると、4分の1が4つ集まると1になるというように、分数の勉強にも役立ちます」
同じように東大生の86.8%が飾っていたカレンダーも必需品だと河村さんは言う。
「子供は目先のことしか見えないもの。明日のことや1週間後のことなど先のことを考える力を養うためにも、月別のカレンダーを張っておくといいですよ」
もちろん、飾るだけではなく、時計やカレンダーを見ながら時間や月日について親子で会話することも効果的だ。
雑音があるからこそ集中できる
現役東大生は小学生のとき、勉強部屋のインテリアをどう工夫していたのか? フリーアンサーをまとめたのが後述のリストだ。
最も多かった「スッキリ派」はものの配置にこだわり、「美しいと思えるように置く」「できる限り、机の上は何も置かない」などと徹底していた。
「収納工夫派」はテストやプリントをきれいにファイリング。「きちんと分類することが物事を俯瞰(ふかん)する能力にもつながるかもしれない」と自己分析している。
しかし、河村さんは自身の子育て経験から整理整頓には向き不向きがあるという。
「子供たちを見ていると整理整頓が好きなタイプとそうでないタイプがいるように思います。片付けが苦手な子に無理やりさせると、不要なストレスを与えかねません」と注意喚起する。
「環境整備派」の「机に向かったとき背後が気にならないようにする」という工夫は、河村家でも心がけていたこと。
「背後に人がいると落ち着かないですよね。ダイニングテーブルで勉強する際は必ず後ろが壁になるようにし、親が見えるようにしていました」
また、「人の目派」は、「リビングに机を置かせてもらい、人がいる中で勉強することで逆に集中できた」「いつでも(家族に)質問できるように」と自らリビング学習を希望していた。河村さんは前述のメリット以外にも、あえて人がいるところで勉強することには意味があるという。
「リビングはほかの家族の生活音がすると思いますが、雑音こそ大事なんです。入試本番の会場でも他の受験生が鉛筆を走らせる音などが響くので、普段から雑音があっても集中できるよう鍛えておいたほうがいいと思います」
リビング学習のデメリットを挙げるとするなら、子供が集中している横で大声で話したり、大きな音を立てて家事をしたりはしにくく、家族が気を使うという点。しかし、「マイナス面もありますが、小学生のうちは、リビング学習のメリットのほうが大きい」と河村さんは話す。
いずれにせよ「学習スペースづくりは、親が主導権を握れる低学年のうちに始めるといい」と河村さんは言う。高学年になったら、将来を見据えて何のために勉強するのか話し合い、子供自身が納得する形で環境をつくっていくことが重要だと河村さんは考える。
「そうでなければ“自立”の前に“自律”ができません。自分の目標を達成するため、勉強する環境も自分が心地いいようにコントロールできる子になってほしいですね」