ファミリーカーにも変形ハンドル
トヨタが2021年4月に発表したEV(電気自動車)「bZ4X」、その車内で目につくのが、まるでゲームセンターのゲーム機にあるようなハンドルです。中心から「コ」の字型の持ち手が左右へ伸びる形状は、直感的に“回しにくい”と思かもしれません。
ここまで極端な例は多くありませんが、こうした「円」でないハンドルが、近年のクルマで増えています。代表的なものが、ハンドル下部が水平になった「D型」と呼ばれるもの。日産やスズキは、コンパクトやミニバンといったファミリーカーにも採用しています。
D型のハンドルはもともと、コックピットが狭いレーシングカーで見られるもの。たとえばスズキは「スイフト」で採用しているD型ハンドルを「スポーティさの表現」と説明しています。ひざ上からハンドルまでのスペースが広がるという物理的メリットのほか、スポーティな運転を楽しむうえで、ハンドルをどれだけ切ったか、視覚的に認識できるとのこと。
とはいえホンダなどでは、D型ハンドルの採用は一部のスポーツモデルにとどまっており、スズキや日産も車種のコンセプトなどによるとしています。
しかしながら、フランスのプジョーなどは「i-Cockpit」と呼ばれるコンセプトのもと、D型の上部もフラットにしたような四角に近い形で、かつ小さなハンドルの採用を推し進めています。プジョー・シトロエン・ジャポンは以前の取材時、このような「小径ステアリング」のメリットを次のように説明しました。
・ハンドルを小さく、取り付け位置を下げることにより、ハンドル越しではなくハンドルの上からメーターを見ることになり、視線移動を抑えられる。
・ひじの位置が下がり、リラックスした姿勢で運転できる。
・小径なのでハンドルを回す際、腕の動きも小さくなる。
では実際、円でなくても運転に支障はないのでしょうか。
もうクルクル回す必要もないし…
「少なくとも教習するうえで、変形ハンドルが支障になることはありません」。こう話すのはペーパードライバー講習などを行うフジドライビングスクール(東京都世田谷区)の田中さんです。というのも、ハンドルをクルクル回すような機会は減っているとのこと。
「昔はハンドルを2回転くらいして曲がっていましたが、パワーステアリングの性能も向上し、1回転と少しで済むものもあります。そもそも昔のハンドルが丸く、大きかったのはステアリング操作をしやすくするためでしたが、タイヤの切れがよくなったことで、その必要もなくなっているのでしょう」(田中さん)
ハンドル操作はむしろ、どれくらい切ったらどれくらい曲がるかを体で覚えるべきで、「操作を意識したらダメ」だといいます。その味で、ハンドルはどのような形でも問題ないということです。
そもそも、現在はハンドル操作も電気制御というクルマが増えています。ハンドルとタイヤが機械的に直結しているのではなく、あいだにコンピューターが入り、電気信号により操舵量に応じてタイヤが動くという仕組みです。
前出のトヨタ「bZ4X」もこれを採用。トヨタはこの機構を推し進めていくことを表明しており、ハンドルの形はもっと変化していくかもしれません。
ちなみに、トヨタの「e-パレット」をはじめ各地で実証実験が進む自動運転バスは、ハンドルの代わりにジョイスティックがついているものも。保安要員が手動操作をする際に使われます。