たたくのは木魚だけではない。ドラムも得意でラジオのパーソナリティーまで務める多才な僧侶がいる。神戸市中央区の広厳寺(楠寺)30代目住職、千葉悠晃さん(55)。最近はドラマの撮影も始めた。聞けば、若い頃に駆け回った映画製作の経験を生かし、「いまの神戸を残したい」と思い立ったのだとか。ありがたいお話をうかがいにいった。(中西千尋)
「一定のルールの中で、何でもやってみたくなるんです」
人懐っこい笑顔を見せた場所は、「ラピスホール」と呼ばれる寺の本堂だ。本尊の薬師如来をまつる本堂を一般的に「瑠璃殿」と呼ぶことから、瑠璃を意味するラピスラズリにちなんで命名したという。
ホールは2015年5月に開館した。「法要を営む厳粛な空間と同時に、大勢の人々に集まってほしい」。そんな思いから、大胆にもホールにした。
普段、音楽ライブにも貸し出すステージの奥には、幕で覆われた本尊を安置する。一角に設けたスタジオではラジオ番組の収録も行う。これが自身が考える「開かれた寺」の姿だ。
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1329年創建という古寺の長男として生まれた。だが自我が芽生えると、寺を継ぐ運命に抵抗を感じ始めた。「俺がどの面下げて説法をするんや」
葛藤を抱えたまま、仏教系の大学に進学した。悩み多き若者は卒業後、好きだった映画の世界に飛び込む。「俺は俺や」。助手として現場を駆け回った。
転機は5年ほどたった頃。父が病に倒れた。実家に帰ると、祖母に「あんたは誰に育ててもらったんや」と叱責(しっせき)を受けた。家族や先人らへの感謝に気づいた。覚悟を決め、35歳で30代目住職を継いだ。
阪神大震災で全壊した本堂の再建は寺の悲願だった。プレハブの仮設本堂で長い時間を過ごしながら、2005年には関西ではまだ珍しかった都市型の納骨堂を新設するなどして収益を上げ、ホールの落成にこぎ着けた。
「映画製作で色んな方向から物事をみる『複眼』を教えていただいたおかげ」
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地元イベントにも出演したロックバンドではドラムを担当した。知人に「木魚をたたけるなら、ドラムもいけるんちゃう?」と促されて始めたといい、独学で練習を重ねた。
今はドラマ製作に取り組む。映画の経験からか、数年前に思い立ち、実在の人物を登場させ、フィクションや笑いを織り交ぜながら、もがきながらも懸命に生きる人々を執筆。知人に出演してもらい、1話15分のドラマに仕立て、今夏にも動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開する予定だ。
ラジオに音楽、映画。幼い頃に見た父の説法とは異なるが、今はそれでいいと思える。「本質を追究する上で『こうあるべきだ』と考えることは大切。でもそれに至る方法は色々あっていいんです」。地に足の着いた言葉の数々に、少し救われた気がした。
〇ワタシ想います。
ワタシが総代をさせてもらっているお寺も、本堂で囲碁教室を開いたりしてPRをしています。
お寺やお墓離れが進む中、いろいろ出来ることに励んでおられます。住職等の感性が問われる時代だと・・・。