櫻井さんのオススメのお店はとても居心地のいい小さな小料理屋だった
「ここはなんでも美味しいから好きな物食べてください、嫌いなものとか無いですか?」
「はいっ、好き嫌いは無いです、えー何にしようかなあ?」
「ふふっ相変わらず迷っちゃうんだなぁ」
「えっ?!俺、遅くてごめんなさい」
「あっごめん、違うよ、なんでもない、ちょっと昔の友人のことを思い出して、つい口に出ちゃった、こちらそこごめん」
「あ〜そうなんですね、仲がいい友達なんですね」
「まぁ友達というか、まあ仲は良かったよ」
櫻井さんはそう言った後少し寂しい顔を見せた
今だったら聞けるかもしれない
「櫻井さん、聞いてもいいですか?」
「んっ?なんでも聞いてください、答えられることだったら答えますよ、改めて言われると緊張するなぁ何かな?」
「時々寂しそうな、悲しそうな顔をするのはどうしてですか?何か辛いことでもあったんですか?」
「えっ?!・・・・・」
櫻井さんはずっと下を向いてしまい何も言わない
このことに触れてはいけないんだと思ったけどもう遅い、ふたりで食事に来たのに嫌な思いをさせてしまった
「ごめ「好きな」」
「重なってしまったね」
「好きな子が居てね、その子を傷つけてそのまま別れたんだよ、、、それからそれっきり会ってない
ずっと後悔している、謝りたいのにもう一度やり直したいのに俺が傷つけたのにさ、都合がいいよね、ふと思い出すから、きっとその時そんな顔してるのかなぁはははっ気をつけなくっちゃね」
最後は笑ってたけど寂しそうだった
「俺で良かったら何時でも相談して下さい」
「ふふっありがとう、さすが先生の助手さん頼りにしてます」
「そんなこと、何も出来ない助手ですから」
「そんなことないよ、先生は貴方をとても信頼している、無くてはならない存在になっている」
「そうでしょうか?」
あっまただ、その顔、でもそれは口に出さず今を楽しもうと思った、それが櫻井さんにも必要だと思ったから
会社でのエピソードや友達の話櫻井さんの話は面白くって出された料理はどれも美味しくて、ちょっと日本酒も飲んでほろ酔い気分な頃
「こんな時間、そろそろ帰ろう、送っていくよ」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ここから松本さんのお家の方が近い、通り道だから気にしないで」
「ではお言葉に甘えて」
ふたりでタクシーに乗り込んで自分の住所を告げた
タクシーに乗るとお互い外を眺め言葉を発しなかった
楽しかったからこれで別れちゃうのはちょっと寂しいなぁと思ったけど、櫻井さんには彼女さんが待ってるだろうし
今度は俺が食事に誘ってみようと思った
タクシーがマンションの前に止まりドアが開いた
「櫻井さん今夜はごちそうさまでした、次は私がお誘いしますね」
そう言って車から降り掛けたところをグッと腕を引っ張られバランスを崩し、また車内に倒れるように座ったそして櫻井さんに抱きしめられた
「!!っ」
「酔っ払っちゃっててごめん、人肌恋しくなっただけ少しだけ」
そう耳元で囁いて時間にしたら数秒なのにとても長く感じた
そして身体を離し「ありがとう、充電完了」
なんて、笑顔で言うけど顔は泣いていた、櫻井さんはもしかして同性の方とお付き合いされていたんだとその時思った
タクシーの運転手さんに「降りますか?」と聞かれ急いでタクシー降りた
再度挨拶をしてタクシーは何も無かったかのように走り去った
一瞬の出来事で夢を見ていたんじゃないかと思う
櫻井さんの相手が気にかなるが公私混同してはいけないと先生によく言われていたので、このことは仕事だと思うようにした
でも、抱きしめられた時懐かしい匂いしたのは何故なんだろう