
サプリメント1
サプリメントの効能の根拠=「ナイーブな作り話」
巷に溢れるサプリメントのほとんどは「プラセボ効果」を当てにした
ものであるので、まずは「プラセボ効果」とは何かを見てきた。
それとともにサプリメントは「科学的根拠」があるかのように装って
いる。次にその科学的根拠が「ナイーブな作り話」でしかないことを
見ていきたい。
CF
* 作り話
私はよく覚えているが昔々、味の素(グルタミン酸ソーダ)を食べると
頭がよくなる、とかいううわさ話が広まった(広めた奴がいる)ことが
ある。味の素の売り出しの頃だ。
これはもちろんウソである。脳の中で、神経と神経がコミュニケーション
をとる際、信号物質をやり取りする。この物質のひとつにグルタミン酸が
ある。
だからグルタミン酸をたくさん補給すれば神経回路の伝達効率がよくなる
はずだ、というナイーブ過ぎる作り話なのである。
タンパク質を構成しているアミノ酸で一番頻度が高く使われるのがグルタ
ミン酸であり、タンパク質のあるところにグルタミン酸があり、その逆も
言える。
私たち生物の多くが、グルタミン酸を”うまみ”として感じるのは、その味
をタンパク質を探る手がかりとして使ってきたからだとも考えうる。
グルタミン酸は食べて吸収されても脳の中には直接入っていかない。
脳の中を通る血管の壁には特殊なバリアーが張ってあり、血液中の物質、
特にグルタミン酸のようなありふれたものが簡単に脳内に入り込まない
ようになっている。
それゆえ、いくらグルタミン酸ソーダを食べたとしても、脳内のグルタ
ミン酸濃度を上げることは出来ないのである。脳内で必要なグルタミン酸
は脳内で簡単に合成される。
もし仮に実験的に脳内に直接、グルタミン酸を注入して、人為的にその
濃度を高めてやったとすれば、神経回路網の伝達効率が上がり頭がよく
なるかといえば、むしろ重大な障害が発生し、場合によっては脳細胞は
死滅するだろう。
* 希少アミノ酸(トリプトファン、チロシン)
こうした「ナイーブ過ぎる作り話」は、しかしながらたいていのサプリ
メントの効能を謳う場合の根拠とされている。
グルタミン酸と逆でタンパク質を構成しているアミノ酸で一番頻度が低
く使われるものがトリプトファンである。
トリプトファンは私たちの覚醒-睡眠サイクルと共に変動しているメラ
トニンの原料であり、うつ状態と関連していると考えられるセロトニンの
原料でもある重要物質であり、食べ物から摂取しなければならない九つの
必須アミノ酸の一つである。
このトリプトファンはサプリメントの一種として大量に流通しているとか。
これはトリプトファンがセロトニンとメラトニンの原料であるということ
だけをよりどころに、非論理的に誘導された似非科学である。
その効能は薬事法の規制に抵触しないよう、明記されてはいないのだが
睡眠導入、安眠効果、時差ぼけ予防、抗うつ効果などいろいろな作用が
「示唆」されている。
しかし極端な偏食や低栄養状態でない限りトリプトファンの不足や欠乏
が起こる危険性はなく、またトリプトファンの摂取不足からセロトニンや
メラトニンの不足がおきて、それが睡眠障害やうつ状態を作り出すことも
考え得ないのだ。
逆に睡眠障害やうつ症状があったとしても、トリプトファンの摂取不足
に由来するものではなく、当然のことながらトリプトファンをいくらサプ
リメントで補給しても改善効果は見込めないのである。
* チロシン
全く同じことは、トリプトファンと極めて近い関係にあるもう一つの希少
なアミノ酸、チロシンについてもいえる。
チロシンは脳内ではドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンなど
重要な神経伝達物質の原料となるものである。
それゆえ、チロシンは、目覚まし効果、集中力を高める、抗うつ作用が
ある、等々の触れ込みでサプリメント化されている。しかしトリプトファン
と全く同様、サプリメントとしてチロシンを摂取してもこのような直接
効果はない。
摂取量に関わらず脳内の代謝はいつもほぼ一定に保たれているからである。
* 過ぎたるは・・
摂取されたトリプトファンのうちセロトニンやメラトニンに変換される
割合は数%以下で、むしろ主流の経路として、何段階かのステップを辿り
変化して、トリプトファンはキノリン酸になる。
キノリン酸は非常に強力な神経細胞毒です。
神経と神経のコミュニケーションは信号物質のやりとりで成り立つ。
その信号物質のひとつがグルタミン酸である。しかしこのやり取りは局所
的、特別な場合で、グルタミン酸は余計にあってはいけないので直ぐに
消去される。
キノリン酸はこのグルタミン酸と良く似た官能基を持っている。だから
グルタミン酸がそこになくとも、キノリン酸がグルタミン酸の囮物質とし
て働き、神経細胞を過剰に興奮させ、細胞にダメージを与える可能性が
あるのだ。
むろん脳は危険な細胞毒を好き好んで作り出しているわけではなく、
最終的にナイアシンというビタミンの一種を合成するその経路の途中に
発生する不可避的な中間産物としてキノリン酸は作られる。
だから脳には危険なキノリン酸を出来るだけすばやく無害な次の物質
に変換してこの代謝経路を進めるために、特別な酵素が用意されている。
トリプトファンは神経細胞が自ら作り出すことが出来ない必須アミノ酸
だから外部から取り入れる以外にない。
しかしトリプトファンがサプリメントなどの形で不用意に大量摂取され
たとすれば、それは順次代謝されキノリン酸となるだろう。
これがキノリン酸を無毒化する酵素自体の供給とのバランスを崩すほど
になれば、脳内のキノリン酸濃度が増し、脳細胞がダメージを受ける可能
性がある。
今はまだこのキノリン酸を無毒化する酵素の働きについてはよく分かって
いないらしい。(酵素の名前は私たちは覚える必要はないだろう。)
とにかく希少な必須アミノ酸だから、不足すると大変なのかもしれない
という強迫観念から、不必要なものを大量摂取するのは「過ぎたるは及ば
ざるが如し」を地でいくようなことである。むしろ恐ろしい結果をもたら
すかもしれないということを知っておくべきなのだ。
これは今流行のサプリメントについても全く同じだ。
それぞれが体内で重要な働きをしていることは事実であるとしても、
それをサプリメントとして採るべきかどうかはまったく別の話なのある。
ヒアルロン酸の経口摂取についても、それが安全であるかどうかは保証
されてはいない。
(cf 『世界は分けてもわからない』 福岡伸一 より)
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ビタミンAやCやEなどのビタミン類、鉄分、β‐カロテン、カルシウム、
その他ありとあらゆるサプリメントが出回っている。特定の栄養素や
特殊成分を補うつもりで摂取するのだろうが、これらも不足を上回り過剰
に摂取する恐れが常にある。そうなるといろいろな過剰症が現れるかも
しれない。
さらに野菜などを食わないで(つまり消化器官を使わないで)、ビタミン
Cをサプリで補うなどということをやっていると、消化という人間の機能
を退化させることになりかねない。また野菜はビタミンCだけの話ではない。
サプリに頼らず食生活を見直すことが何より必要なのだ。