怒鳴る人はいない。無茶な納期を口にする人も、それほど多くない。表面だけ見れば、穏やかで平和な職場だと思われるかもしれない。
だが、ここ最近、私のいるプロジェクトで4人目の休職者が出た。パワハラや暴言が飛び交うようなわかりやすい問題はない。それでも、人が静かに壊れていく。なぜか。
理由のひとつは、「難易度が適切に見積もれないまま、仕事が進む」という構造にある。納期は現場の判断で決められるが、その根拠となる工数の見積もりが非常に難しい。過去の類似案件を参考にしたいと思っても、そうした情報が十分に共有されていない。
本来であれば、上層の人たちは複数の案件にまたがる情報や統計を持っている立場だ。その知見を現場にフィードバックすることで、見積もりの精度を上げたり、無理なスケジュールを防いだりできるはずだ。だが、そうした情報提供や対話が少ないまま、現場は「このくらいでいけるだろう」と曖昧な見通しで進めざるをえない。
責任感のある人ほど、その不安を言語化せず、自分の中で処理しようとする。
やがて、静かに折れる。
この「壊れ方」は、外から見ると本当にわかりにくい。周囲の誰かが「最近、無言が増えた」と気づいたときには、もう間に合わない。
問題の本質は、暴力的な言葉や明確な過労ではない。構造の中にある無理解と、説明の不在だ。現場の声が上層に届かず、届いても「努力すれば何とかなる」で済まされる。この繰り返しが、静かに心を削っていく。
この環境で私ができることは、少ないかもしれない。それでも、少しでも状況を記録し、構造を言葉にしておくことには意味があると信じている。
「壊れる前に、伝えられる形を作る」。
この記録が、誰かの小さな防波堤になればと思う。