論理の糸が切れる瞬間──認知的負荷と会話 | 日曜日のキジバト

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話している最中、ふと何を言おうとしていたか分からなくなる。
論理の順番を頭の中で整理していたのに、ひとつ抜けると、全部が崩れてしまう。
そのとき、脳内では何が起きているのか。


この現象には「認知的負荷」という概念が深く関係している。
簡単にいえば、人が一度に処理できる情報量には限りがあるということだ。

会話中の脳は、次のような複数のタスクを同時に処理している:

  • 自分が話すべき内容の記憶を引き出す

  • 話の流れを整理して言語化する

  • 相手の反応を読み取り、内容を調整する

  • 音声・表情・タイミングを制御する

このうちどれかに過度な負荷がかかると、論理の糸がふっと切れる
思考の整理が中断され、沈黙、焦り、言い直し──そういった現象が起きる。


たとえば、自分が話している最中に、相手が不意にメモを取り始める。
あるいは、周囲の視線が集中してくる。
たったそれだけでも、脳は「今、何が起きているか」を処理しようとし、主のタスク=話の論理展開に使える容量が減ってしまう。

そして、その瞬間、頭の中で組み上げていた論理のパズルが崩れる。


この「認知的負荷による混乱」は、話し手の資質だけでなく、環境とタイミングにも大きく左右される

  • 疲れているとき

  • 自分の責任範囲を超えた話題がふられたとき

  • 相手のペースに合わせようと無理しているとき

そうした状況下では、論理の保持はさらに難しくなる。


大切なのは、「うまく話せない=能力がない」と捉えないことだ。

むしろ、話せないときほど、情報処理の限界が近いというサインである。

そのサインを自分で察知し、意識的に「負荷を減らす」工夫が必要になる。


たとえば:

  • 話す内容をメモで箇条書きしておく

  • 論点を1つずつ区切って話す

  • 頭が混乱しはじめたら、いったん話を止めて「整理してから答えます」と宣言する

  • 「今はうまく言葉にできませんが」と前置きして、時間を稼ぐ

こうした対応は、話の質を保つためだけでなく、自分の心を守るためにも重要だ。


会話の中で、論理の糸が切れる瞬間は、誰にでもある。
とくに、まじめで丁寧に考える人ほど、負荷を抱え込んで黙り込んでしまうことがある。

だが、それは弱さではなく、処理の複雑さに対する誠実さかもしれない。

「いまは少し時間をください」と言える勇気。
それは、認知的負荷に潰されないための、最初の一歩だ。