知識はあっても、会話でつまる人の脳内構造 | 日曜日のキジバト

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会話になると、なぜか言葉がうまく出てこない。
説明しようとすると、話が飛ぶ、止まる、戻る。
でも、自分の中では「ちゃんと理解している」という感覚がある。

こうした現象に、心当たりのある人は多いのではないだろうか。


「知識があるのに話せない」状態には、いくつかの要因がある。
ひとつは「記憶の構造」──つまり、情報がどのように頭の中に保存されているかだ。

たとえば、論理的なフローで知識を整理している人は、言葉にしやすい。
一方で、視覚的なイメージや感覚、断片的な印象として記憶している人は、話すときにそれを言語化し直す必要がある。

つまり、
「わかっている」ことと「説明できる」ことは、脳の使っている部位が違う。


特に、視覚優位型の人──図や画面の構造、空間的な配置で記憶する人にとって、口頭での説明は「変換作業」を含んでいる。

たとえば:

  • Excelで見た表の色や並びは覚えているが、具体的な数値が出てこない

  • ソースコードの構造は頭に浮かんでいるが、関数名がすぐ出てこない

  • ドキュメントの右上に何か書いてあったことは覚えているが、それを言語にするのに数秒かかる

この“変換コスト”が、会話でのもたつきや沈黙になる。


さらに問題をややこしくするのは、
「話すのが下手=理解していない」と誤解されやすいこと だ。

これは、職場の評価や信頼関係にまで影響を与える。

実際には、「構造的には理解しているが、出力が遅い」というだけのケースが多い。
けれど、上司や同僚は待ってくれない。「要するにどういうこと?」と畳みかけられ、焦れば焦るほど、言葉はつまる。


こうした人に必要なのは、「訓練」や「話し方のテクニック」だけではない。
まずは、自分の記憶と処理のスタイルを理解すること だ。

自分がビジュアルで把握するタイプなら、それを前提にした工夫ができる:

  • 話す前にメモで構造化する(図や矢印を使って)

  • 何度も同じ内容を話す「練習の場」をつくる

  • 説明より「見せる」ことにシフトする(図解や画面共有)


「会話でつまる」のは、能力不足ではない。
脳の構造と、社会のコミュニケーション様式のズレ なのだ。

知識はある。理解もある。
だからこそ、伝え方をあきらめないでほしい。

沈黙の裏には、きっと多くの情報が眠っている。
それを取り出す方法は、言葉だけじゃない。