数十年前のまだ学生の頃、仲の良い友人と二人で単車に乗って遊びに出た。

 

ホンダ好きな私はVT250F、ヤマハ党の友人はRZ250RR。

動力性能はRZに敵わぬが乗り易さの利は我に有りと、互いにH・Y戦争、4スト2スト対決とばかりに仲良く戦い時間も気にせず楽しく一日走り回っていたのだが、急に降り出した雨に我に返ると時刻は遅く予定外に遠い場所に居る事に気付く。

 

最初は緊張感もなかったが雨量は増すばかり、山二つは越えねばならん場所で視界も悪くなる一方となれば流石にこりゃ不味いと帰りは高速道路を利用した。

 

当時は少々の雨なんて濡れるだけ、それより手ぶらが一番と雨具の用意は無くこの日も同様。 しかしこの時の雨は少々ではなかった。

 

 

ところで。

この頃の高速道路でも一般道より遥かに快適で安全な有難い存在ではあったが、今と比べると条件は悪い。 田舎の高速道路となれば尚更です。

 

今や大雨でも単車で走るのに不安無い水捌けで、路面が水でキラキラ光る様を目にする事は殆ど無くなり、前車が巻き上げる水飛沫も車間あければ気に成ら無い夢の様な高性能路面ですが、当時は雨が降ればギラギラと水面が光り至る所に道路を跨ぐ川が生まれ、見るからに恐怖煽る状況であったし、実際に2輪4輪共にハイドロプレーニングは何度と無く経験している。

更には道路灯が暗く少なく路面表示も削れ落ち、路肩の反射版も汚れて見えず、どこが道路で何処から路肩か判別し難い事が多かった。

大型貨物車両は我が物顔が浪漫とばかりに自由気ままに幅を利かせていた時代でもあり、雨降る夜の高速道路、特に大雨の夜は中々緊張あふれる世界でした。

 

 

そんな中を休む事無く走り続けたがガソリン補給は必要です、友人と給油ジェスチャーを交わしてSAに入ったが真っ先に売店建物へ向かう。

私のVT250Fは排気管消音器を友人から譲り受けたモリワキに変えただけのほぼノーマルで扱い易さや環境変化への柔軟性も保たれていたが、友人のRZはそこそこ手が入っていたので大雨の中では目に見えて調子をくずし友人の疲労は私とは比べ物にならなかった。

給油即再出発は厳しい雰囲気が滲む。

元々彼は短距離全力と休憩を繰り返す人間、私の様に低速で淡々と走るタイプでは無い。休憩が必要だ。

 

しかし深夜営業の食事処など無く既に閉店済み、薄暗い照明の建物が佇む様は肌寒さを際立たせる。

そもそも金も無いので食べ物どころか自販機で飲み物を買うのも躊躇われる。

なにせ貧乏学生、現金の余裕など無く予定外の高速道路代も重くのし掛かる。

 

ATMは期待出来ずクレジットカードは所有してる筈も無く、電子マネーなんてものも無く、頼りは手持ちの現金のみ。 学生二人の寂しい現金を合計し、コレで何が出来るか、何処まで行けるかを考えねばならん状況では贅沢は出来ない。

 

高速代幾らやっけ?

ガス満で何処まで行ける?

省エネ走行で帰り着ける分だけ入れて。。。いや、この時間にガス欠くらったら其れこそアウト。

ガス満は絶対、高速代足りなきゃ正直に事情説明して何か手を考えよう。

 

会話が進む程に悲壮感が増す。

全身ずぶ濡れでヘルメット脱ぐのも躊躇われる程に身体の芯まで冷え、ガタガタと震えててはそりゃそうなるわな。

しかしここで大きな気づきが訪れる。

 

『自販機の近く暖かいぞ』

『抱き付け!自販機にくっ付くと温かい!』

 

人気も無い夜の自販機コーナー、誰に遠慮する事があろうか。

二人して自販機に縋り付く。

 

コレが本当に温かいのだ。

通常なら生暖かく成りつつある濡れた衣類など気持ち悪くて仕方ないものだが、この時ばかりは其れさえまるで温泉につかるが如き幸福感を味わえた。

 

この体験の日付は思い出せ無いが、暑がりの私が厚手の長袖を着て居たのだから冬か其れに近い頃だった筈、寒さに強い私でさえ下着も濡れる状況で高速道路を走れば身体が芯まで冷え震え出していたのだから、寒がりの友人は本当に辛かったろう。

 

 

どれ程経ったか、ぬるい温泉から出れないのに似て自販機の温もりから離れる踏ん切り付かぬ我々の前に突如その時は訪れる。

ソレは若いカップルと共に扉を開けてやって来た。

 

たじろぐカップル。

女性は腰がひけ、男性は警戒心を隠さぬ。

慌てて自販機前から離れつつ事情を説明する我ら。

自分達より幾分若いガキどもの見窄らしいくも情け無い話に緊張の薄れたカップルは、自販機で買い物を済ませる頃には笑顔を見せ、別れ際には気を付けてねの言葉とホット飲料を贈ってくれた。

 

身体の中に温かい物が入った事と、カップルさんの人情に気力を得て漸く建物を出る。

 

 

ガソリンスタンドまで移動し給油をすると、ここでも優しさに触れる。

 

スタンドの店主からしたら我々はまだまだ子供に見えたのだろうし、危なかしいアホガキどもに感じたんだろう。 その姿は何事かと尋ねられ、先程と同じ説明を繰り返す。

 

給油が終わると少し待てと新聞や雑誌を用意し、大きめのゴミ袋とハサミを渡される。

意図する事は我々も直ぐに察した。

コレを切って頭と両手が通せる穴を作れ、雨を少しでも防ぎ腹に雑誌を入れれば気休め程度には防寒になる、こんなもんしかないがとおっちゃんは言うのだが、その心遣いで気力も増すってもんです。

 

腹がたぽたほとトイレを借りた記憶も有るので、もしかしたら温かい飲み物も飲ませてくれたのかもしれない。

 

その後は人情のありがたみも気力の燃料に再び雨降る夜の高速道路を走りきり、幸い高速代も足りて無事に帰り着いた。

 

 

この経験から、似た様な事が有れば手助けと缶の一本でもと誓ってはいるのだが、幸いな事に未だ実現していない。

自販機の前で困ってる馬鹿なんてそうそう居ないらしく、良い事だ。

 

 

 

あの時の自販機の温もりは忘れられぬ経験であるのに、その後もいいおっさんになって尚幾度かやらかしてるのだから経験から学ばぶ賢さに欠けるらしい。