ランチの単語で想像する様な食事を単車で出かけてとった記憶がない私ですが、それでも美味しい思い出はある。
すっかり忘れていたのに、ここ最近の記憶の発掘作業が効いたのかふと思い出した。
授業が無かったのかサボったのか定かではないが午前中から出かけた私は昼頃に渓谷を流れる川沿いの道に居た。
毎度の事だが単車で出た時は特に食事に無頓着になる。
当時コンビニは全国に広がってては居たが今ほどは無く、おにぎりで済ますなんて事もし難い。
何処かのドライブインや定食屋さんに入らねばならんのだが、それが面倒に感じて水分補給だけで一日走る事も珍しくはない。
愛車VT250Fの力を借り山を越えてその渓谷に到達していた私は、珍しい好天と川沿いの涼しい空気に随分上機嫌だ。
何度も通った道で、その都度目にはしている筈が一度も寄った事の無いドライブインにこの日は何故か立ち寄った。
私は渓谷、小川、樹木、峠道と揃えばそれだけで少々興奮と癒しを感じる単純な人間なので、このあたりの景観は大好物で、木漏れ日の中を走る区間は本当に心地よくお気に入りだ。
しかし、失礼ながら派手に目を引く物も無く、観る為だけに人を呼ぶ程の景観でも無く、平日昼間となればよく店を開けてくれてたなと思う程に客は居ない。
静かな店内を一番奥の渓谷を眺める席へ進む。
がらんと寂しさを感じる空間と草臥れた静かな照明は、窓の外を楽しませるのには寧ろ力を発揮する。
この食事処の雰囲気に酔ったか、珍しく出先で食事を取る事に旅気分を浸ったか、一人である事が更に旅情感を煽った様で予算を気にせず名産らしい豚の肉を使ったカツ定食を頼んだ。
正直なところ、旅気分を楽しんでただけで料理に期待していた訳では無い。
この雰囲気に浸かってるだけで十分満たされた心持ちだったのだから。
少々待たされた後に出されたカツ定食の見た目は至って普通のドライブインご飯然とした佇まい。
それでも雰囲気に酔ってる私には心躍る昼食です。
野菜から食べて血糖値上昇をとか、味噌汁を味わった後にとかまったく無くさっそくカツに齧り付き、そして驚いた。
甘い!! そして旨い。
いや、加糖糖分の甘味ではなく脂身が甘い。 衣も香ばしく甘い。 肉汁までもが芳醇な甘味であるかの様にひたすら旨く甘い。
甘い物すきではあるがそっち系の甘いじゃなくて、旨いを表現する為に使われる甘味。
勿論わかってる、今の状況に泥酔状態で酔いしれてるから何食べても美味かったろうが、それにしても旨い。
その一品だけでも私には贅沢な昼食であったので追加なんぞ出来なかったが、お金持ってたら迷わず頼んでたでしょうね。
完食後も興奮冷めず鼻息荒く店を出た。
興奮しすぎたのかその後何処走りに行ったのか全く記憶に無い。
その食事処の店内風景と旨い記憶だけが残ったまさに ランチ の思い出。
その後もその道は幾度と無く走ってはいたのだが、当時の私には贅沢に過ぎる昼食であった為に二度と味わう事も無く、数年後にはその地を遠く離れてしまい思い出のカツとなった。
後年その道を走る事が出来たが建物を見つける事は出来ず、遂に幻のカツとなってしまった。