旅フロin城めぐり②【小屋原温泉プチ湯治】 | 落人の夜話

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城跡紀行家(自称)落人の
お城めぐりとご当地めぐり

最近、心臓にちょっと面倒な病を患ってしまい、なんだか疲れやすいし息切れしやすくなってしまいました。

医者から診断名を言い渡されたときは燃え尽きた「あしたのジョー」のようにがっかりしたんですが、いろいろ説明を受けたあと最初に質問したのは、「山に登っても良いか」でした。

 

私の中で「山」といえば「山城」のことなんですが、当然そんなことは知らない医者の答えは「心臓に強い負担がかかる運動はダメ。しかしウォーキング程度の適度な運動はよい」。

ふむふむ、休み休みゆっくり登るならいいということだな…たぶん。

 

次の質問は「温泉に入っても良いか」。

医者は一瞬間を置いたあと、「熱い湯を避け、長湯しなければいいでしょう。それと今後の治療計画でs…」。

 

そうか、ぬる湯か…

私の耳は医者の指導を勝手に変換し、思いははるか診察室の壁の向こうにゆらぐ湯面を見ていました。

 

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島根県の三瓶山周辺には古くから良質の温泉が湧くことが知られていたのですが、これが湯治場として拓かれはじめたのは江戸期になってから。

三瓶温泉をはじめ点在する湯はバブル景気の頃はそれなりに繁盛したものの、その後は客足が激減。今や地元衆のほかは知る人ぞ知る温泉で、おかげで鄙びた風情が今に残っています。

 

上の写真正面、集落の向こうに鎮座するのが三瓶山。

かつてあの山は旧陸軍演習場だったらしいのですが、実体は6つの峰が爆裂火口を囲うカルデラ火山。平成15年(2003)には改めて活火山に指定されています。

 

今から向かうのはあの山の恵みとひとつ、小屋原温泉です。

 

 

おおっと、びっくりしたー

通行止めだけと、小屋原温泉までは行けるんですね(^^;

 

小屋原温泉はご覧の通り、町から離れた一軒宿でしてね。林道みたいな道を通り抜けて行きます。

宿泊の状況により日帰り入浴の営業時間は不定。

私は日帰りの予定なので前日に電話確認し、いつものごとく愛車「越山号」を駆って訪れております。

 

 

ということで到着しました。

小屋原温泉の一軒宿、熊谷旅館です。

 

小屋原温泉 - sanbesanonsenkyou ページ! (jimdofree.com)

 

「神戸から来られたんですかー」

建物の前は4〜5台置ける駐車スペースになってましてね。ナンバーを見られたんでしょう、車から出た途端、おじさんに声をかけられました。

 

「神戸からこんなとこまで。よくご存じですねえ」

おじさんは小屋原温泉の大ファンで、広島から何年も、折を見ては通い続けているんだそうです。

「ここたぶん有名ですよ。温泉ファンの間では」

全国的な知名度はさておき、それなりの温泉ファンであればここに湧く良質の炭酸泉を知っているでしょう。

なのでそう答えましたら、おじさんは嬉しそうに笑って色々教えてくれました。

 

この宿は食事もおいしいのでできれば宿泊がよい。浴室は4つあるがいま利用できるのは3つ、入浴中は貸し切りになる家族風呂で、最も源泉に近いのは真ん中の2つの浴室。だからそのどちらかに入られると良い。あ、先客があるかどうかは入り口のスリッパの有無で判断…

 

先達のアドバイスを聞きつつ入浴料600円を支払い、いざ浴室へ。

前日の電話ではやや無愛想な対応に聞こえたお姉さんは、実際会ってみると大変親切な人でありました。

 

 

 

壁に貼られたレトロな案内板などを楽しみながら、板張りの廊下をしばらく歩くと浴室です。

上の写真、廊下右手に浴室が並んでいます。

 

この日は先客がなく、どの浴室を選んでもよい状態。

私はむろん、おじさんの教えに従って源泉に最も近い、奥から2番目の浴室に入ります。

おじさんは隣の浴室へ。

 

では、いざ頼もう。

 

 

……!!

 

こ、これは…

 

 

な、なんだこの神々しさは…

褐色の析出物をまとった浴槽はまるで古代遺跡のごとく、そこに張られた澄明な湯泉は鏡のごとし。

ううむ、素晴らしい。

診察室の壁の向こうに見えた幻影をはるかに超えている…

 

鄙びた一軒宿の浴室で、あちこちなでたり唸ったりして感動するおっさんのフル◯ン姿など、他人に見せられたものではありません。

しかしこの空間は見ていただきたい。

 

 

うすくオーバーフローし続けて年輪のような析出物を織り上げる源泉。よく見ると微細な発泡がみられます。

そう、ここは天然の炭酸泉なのです。

 

古来ヨーロッパにおいて「心臓の湯」と呼ばれた炭酸泉は、心臓病や高血圧の療養に利用されてきました。

湯に含まれる炭酸ガスが皮膚から吸収され毛細血管を拡張する作用から、また炭酸ガスを含む湯は湯温が低く、心臓に負担をかけず入浴できるためです。

 

ではまず身体を流しまして、湯面にゆっくりと身体を沈めましょう。

ちなみに浴室内にシャワーはないもののカランはあり、シャンプーの類も置いてくれていますから洗髪も可能です。

 

 

なんとご覧くださいこの泡付き。

湯口からこんこんと注がれる源泉はサイダーのよう。

 

泉質はナトリウム⁻塩化物泉。泉温37~38℃というのがまた絶妙で、ただでさえ希少な炭酸泉がこのような都合のいい温度で湧き出す場所は実に貴重です。

 

 

ああ、極楽…

 

極上のぬる湯と天然炭酸の泡に包まれて、私の心臓も癒されています。

本当は何日か泊りで湯治したいところですが、今はこれが精一杯。しばし目を閉じてこの瞬間に浸りましょう。

 

 

小屋原は昔、広野原(こうやはら)と呼ばれる荒れ地でした。そこに湧く湯が発見されたのは元文年間(1736〜40)と云います。

寛政年間(1789〜1800)には湯治に利用されはじめ、石見銀山を支配する大森代官も訪れたとか。

熊谷旅館はその源泉の上に建てられた温泉宿。

他に得難い、まことに極楽のような場所でありました。

 

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今回の旅の目的はプチ湯治でしたから、以下は余談なんですけども、往路の沿道に赤穴瀬戸山城といういい城跡がありましてね。

 


麓の登山口から城跡まで約1㎞30分程度で行けると聞き、そのときは多少調子もよかったものですから、試しにゆっくりゆっくり登ってみたんですよ。

 

いやあ、バテました。

通常の倍ほども時間をかけたんですが、今までになくヘトヘトになりました。

このレベルでこれか…と、改めてわが身体の状況を確認。山城はしばらく控えなければならないようです(T_T)

 

 

 

<島根県川本町にて>

 

その夜、江の川沿いの道を走っていると、街灯の下、季節外れの吹雪のように舞うのはよく見れば大量の羽虫。

フロントガラスの視界が遮られるほどで、道行く車はみな徐行していました。この地域にこの時期大量発生するというカゲロウです。

 

立ち寄ったコンビニの出入り口付近もご覧の有り様。店員さんに「これ、すごいですね」と声を掛けたら、「毎年のことなんで」と慣れた風情でした。

これを避けるために、川沿いのエリアではわざと街灯を消していることもあるとか。この国の多様な地域性に改めて感心してしつつ、この日の宿たる道の駅へ。

 

 

【公式】道の駅サンピコごうつ 島根県江津市にある「道の駅」サンピコごうつ (sanpiko.net)

 

今夜はここで車中泊です。

この日は疲れもあってか、車内で寝る準備を整えて歯を磨いてきたら、すぐ眠くなってしまいました。

おやすみなさい(ノД`)・゜・。

 

 

翌朝の車窓より。

鳥の鳴く声で目覚めたら、昨夜はいつの間にか雨が降っていたようで、車窓に水滴がついていました。


今日は無理せず温泉津(大田市)の湯にでも浸かって…いや、温泉津の湯は熱いらしいからかぶるだけにしとこうか。

そんなことを考えながら、日本海側まわりで帰ってきました。



思えば平成25年(2013)の開設以来、当ブログのテーマは「お城めぐりとご当地めぐり」。

筆者たる私は「城跡紀行家」を自称する戦国史ファンでございます。

しかし今の私は、どうやら今まで通りの藪こぎや山城登りができなくなってしまっております。

 

当ブログもしばらくは過去に訪ねた城跡写真や街なかの城めぐり、温泉やご当地グルメなどネタにしつつ、ぼちぼちと更新させていただくことに…

て、よく見返してみたら今までとそう変わらないですね(;´∀`)


そんなわけで、なんだか近況報告みたいな形になってしまいましたが。

また皆さんの記事にもお邪魔しました際は、変わらぬお付き合いのほどをよろしくお願いしますm(_ _)m




クローバー訪れたところ

【小屋原温泉 熊谷旅館】島根県大田市三瓶町小屋原1014-1

【道の駅サンピコごうつ】島根県江津市後地町995-1