戦争の傷跡、静かなる影:『サラエボの花』 | “迷い”と“願い”の街角で

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確固たる理想や深い信念があるわけではない。ひとかけらの“願い”をかなえるために、今出来ることを探して。

この『サラエボの花』は、1992年に勃発し95年に停戦を迎えたボスニア紛争、その終結から約10年を経たサラエボに暮らす母娘の物語です。


ボスニア紛争が終わって10年、平和を取り戻したかのようなサラエボ。しかし、その傷跡は、まだ癒えることなく残っていました。


12歳になる娘サラを一人で育てている母エスマ。そのエスマにも、ボスニア紛争により負った、誰にも癒えない重い過去、深い心の傷がありました。それはやがて、この母娘の関係に亀裂を走らせ、娘サラの心にも影を落とすことになります。


それぞれの心の傷に苦しみ、愛し合いながらも反目する母娘。過酷な現実により深く傷つけられた心は、簡単に癒されることはないけれど、現実を受け入れたとき、サラとエスマは新たな一歩を踏み出すのです。


紛争という嵐で容赦なく傷つけられた弱々しい花、しかし、決して枯れることなく懸命に咲く強い花、現実を乗り越え愛を育み、未来を見つめる美しい花が咲いています。


この映画の舞台は、ボスニア紛争終結の10年後、現在のサラエボであり、戦争を描いたものではなく、残虐な暴力シーンはありません。しかし、今なお残っている癒えることの無い傷跡が、静かに描かれています。


戦争や紛争の問題は、一朝一夕に解決できるものではありません。それが、民族問題や宗教問題を孕むものであれば、その複雑さは、私たちの想像を越えるものなのではないでしょうか。


戦争・紛争への見方は、望ましくないという認識がある程度共有されているとしても、今なお多様といえるでしょう。戦争・紛争の原因や影響も多面的です。人の命が奪われていくことを考えれば悠長なことは言っていられないのかもしれませんが、それでも、その多様な要素に目をつぶりながら、一面的な結論に走ることも望ましいことではないように思います。


この『サラエボの花』は、紛争の影響のほんの一面を、突きつけています。それを直視し、悩み続ける勇気も必要ではないでしょうか。


サラエボの花
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