梅花皮・鰄・カイラゲ・かいらぎについて | Yoshimasa Iiyamaのブログ

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日本刀の拵ー刀装・刀装具(鐔・目貫・小柄・笄・縁頭など)・風俗・習慣について ー 日本刀装研究所 ー

「梅花皮」は、「うめはなかわ」と呼ぶのではなく、「かいらぎ」或は「カイラゲ」と言います。【注1】「花鰄(はなかいらぎ)」とも言い黒漆塗にして研出した鞘は、たいそう美しく江戸で流行しました。歴史は古く、南北朝~室町前期には既にありました。奈良の春日大社にある重要文化財の「梅花皮鮫腰刀」がそれで『建武式目』応安の追加項目にある「中間以下軽輩の使用禁止」に見るように室町時代には、上級武士にのみ許された高級品であったことが窺われます。それもそのはずで、真鮫【注2】と呼ぶ高級柄鮫同様、わが国では獲れない輸入品でした。

 

図1】『鮫皮精義』より

 

図2】黒塗し研ぎ出した鞘

 

図3】 梅花皮(花鰄)原皮

梅花の中心は、鋭く尖っています。

 

鱗が梅の花の形をしていることからの命名で、鮫(shark)では無く、東南アジア・ニュージランド・オーストラリア現産の鱏(ray)の仲間です。

図4】インドネシア産「梅花皮」原皮全形

インドネシアでは、「Pari Raja(パリ ラジャ)」〔エイの王様〕と呼ぶそうです。

 

図5「牡丹造梅花皮鮫腰刀拵」 東京国立博物館発行・特別展図録「日本のかたな」より

 

京都国立博物館所蔵の「牡丹造梅花皮鮫腰刀拵」【図5】と前記の「梅花皮鮫腰刀拵」が、共に重要文化財となっており、代表的名作です。

 

-追加―

近年では、沖縄でも捕獲されています。

 

琉球朝日放送 2006年8月3日 12時00分〕

「美ら海水族館 イバラエイを一般公開」

「長年、国内での生息が確認されず絶滅危惧種にもなっている魚、『イバラエイ』が石垣島で捕獲され、現在本部町の美ら海水族館で公開されています。

イバラエイはサンゴ礁のある砂地などに生息し長年インド・太平洋海域と大西洋の東側でしか見ることが出来ず日本では3年前に西表島で初めて捕獲されました。IUCN国際自然保護連合のリストに絶滅危惧種として記載されている貴重な魚です。

今回は先月1日、石垣島の漁師の小型の定置網にかかっていたところを捕獲され美ら海水族館に持ち込まれました。国内で見つかったイバラエイの4匹目になります。幅は60センチ、重さはおよそ10キロと存在感ある体ですが、表面はトゲトゲのうろこに覆われ砂地でじっとしていてなかなか泳ぐ姿を見ることは出来ません。ただ、そのユニークな形に水族館を訪れた人たちもじっと見入っていました。」 

 

 【図6】 沖縄美ら海水族館の「イバラエイ」 【注3】

 

注1

 室町時代の辞書『節用集』に、「(かい)()()刀鞘」「同」と、あります。同じく室町の『下学集』亀田本には、「(カイラギ)刀ノ鞘」とあり、『節用集』永禄二年(1559)本には、「(カイラギ)刀具。(かい)()()刀具」とあり、天正十八年(1590)本には「(かい)()()又作」となっています。

 江戸時代の『節用集』元和本では、「(カイラギ)刀ノ鞘ニ用ユレ之ヲ。日本ノ俗所作也。又云フニ梅花皮ト也」と記してあります。

宝暦十年(1760)に浅尾遠視が『鮫皮精鍳録』を著し、「花鰄(はなかいらげ)之事」「地粒あらく(それ)に大粒又交たるか花のやうなる粒大いなるが有也 是も色白くうつきりとしたるがよきもの也 又背鰄(せかいらげ)(のたけ)は三尺より六尺ばかりのもの也」と、「鰄」の字を用い「かいらげ」と記しています。そして、天明五年(1785)稲葉通龍の『鮫皮精義』では、「鰄」の字を用いず「カイラゲ」のみを使っています。

 「海乱鬼」は、変体仮名や当て字のように書かれた漢字で、江戸時代には使われなくなっています。

梅花皮」は、『節用集』元和本に現れたのが最初のようです。

」は、浅尾遠視が「背鰄(せかいらげ)」「花鰄(はなかいらげ)」「豆鰄(まめかいらげ)」と、その種類にも使っていますが、稲葉通龍は使いませんでした。

では、現在はといいますと、小学館の『国語大辞典』では「かいらぎ【梅花皮・鰄】(1)東南アジア原産の鮫の皮。あらい地粒の中に花形の大粒が混じっている。刀剣の鞘(さや)や柄(つか)を巻いたり装飾に用いた。さめかわ。*太平記-四〇「鰄(かいらぎ)の金作の太刀。(2)①で飾った太刀。(3)茶道で、井戸茶碗の特徴の一つ。釉(うわぐすり)の焼成が不充分のために、溶(と)けきらないで、表面が鮫皮に似た状態のもの。」とあり、岩波の『広辞苑』第五版では「かいらぎ【梅花皮・鰄】①鮫皮の一種。梅花形の硬い粒状凸起のある、アカエイに似た魚の背面中央部の皮。この魚は南シナ海・インド洋などの産で古くから輸入。俗に蝶鮫の皮と伝えられたのは誤り。刀の柄(つか)や鞘を包むのに用いる。また、その刀をもいう。太平記-四〇『―の金作の太刀を帯く』②茶道で、井戸茶碗の見所の一。焼成不十分なため釉(うわぐすり)のちぢれた様が-に似る。」となっており、共に「かいらぎ」と表記されております。

 

江戸時代の流布本のみが、「カイラゲ」「かいらげ」を表記しているという状況です。歴史的にも現代的にも、「カイラギ」「かいらぎ」の方が正しいということになるのかも知れません。

 

『節用集』 永禄二年本 → 天正十八年本 → 元和本

 

   『鮫皮精義』より「鞘沙皮類

  『鮫皮精鍳録』より「鞘鮫之名之事」                          」

 

 

【注2】

(性の良い鮫、実はエイ皮)

産地の名で呼ばれ、最上品から順に

①  占城(チャンパ)・・・今のベトナム南部(最上級品で江戸後期でも百両したという)

②  束堵塞(カスタ)・・・カンボジア

③  聖多点(サントメ)・・インド‐コロマンデル

④  太泥(夕―二ィ)・・・マレー半島中部

⑤  遍羅(シャムロ)・・・タイ

⑥  交趾(コウチ)・・・・ベトナム北部

⑦  唐口(トウグチ)・・・中国

―以上七種類―

 

【注3】

 

学名

Urogymnus asperrimus

英名

Porcupine ray

和名

イバラエイ(茨鱏)

生息地

広範囲に分布する。インド洋では南アフリカからマダガスカルアラビア半島セイシェル

スリランカ東南アジア・西オーストラリア沖のニンガルー・リーフなどで見られる。

スエズ運河を渡り東部地中海にも侵入している。太平洋では、インドネシアニューギニア

北はフィリピン、東はギルバート諸島フィジー、南は東部オーストラリアのヘロン島沖まで分布する。

東部大西洋セネガルギニアコートジボワール沖でも見られる。岸近くの深度1–30mの砂底・

サンゴ礫底・アマモ場の近くを好み、汽水域にも入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《参考資料》

『鮫皮精鍳録』・・・ 宝暦十年・浅尾遠視

『鮫皮精義』・・・・天明五年・・稲葉通龍

『ことばの溜め池』・・・ 駒澤大学‐情報言語学研究室

『節用集』 『下学集』 ・・・ 国立国会図書館デジタルコレクション

『日本国語大辞典』第二版・・・小学館

『国語大辞典』・・・・・・・・小学館

『広辞苑』第五版・・・・・・岩波書店