トロントという街は美しい。
ダウンタウンに点在する、楓の木のトンネルは、2階建てのレンガ造りをも覆うほどに枝を伸ばし、得も言われぬ幸せな風景を作り出す。
そして、これらは街路樹的な役割を兼ねながらも、あくまで庭木の範疇を出ない。
道路を両側から覆う巨木たちは、個人の敷地に根を下ろし、自由な姿でそこに居るのである。
これは日本の庭木の概念とは一線を画す、圧倒的な緑の力の話である。
どうやったらこのような美しい街並みが存在し得るのだろうか?
州の条例で定められたルールがあるのだ。
このルールを分かりやすく④つにまとめてみた。
① 適応となる樹木
胸の高さ(地上より約1.4m)で幹の直径約30cmを越えた樹木は切り倒すことが出来ない。個人の敷地においても、これは適用となる。
② 伐採伐根の手続き
・樹木が死んでしまったり、病気になった、また何らかの理由で危険と判断される場合、樹木医の検査報告書を州に申請し許可を取る。
・それ以外の理由で伐採する場合、以下の書類提出、規定遵守が必要
樹木医の詳しい報告書の提出
その土地のランドスケープ・植え替え予定図の提出
TPZ(tree protection zone)保護樹木の周りに柵を設けること
Site Plans工事をする場合どこになんの樹木があるか正確に記録された用紙の提出
申請費
③ 許可なく樹木を切り倒した場合の罰金、
$500-$1000000(約¥45000-¥9020000)
特別な場合には、さらに$1000000を追加することもある
(最大¥18040000)
④ 近隣住民の意見を聞く
切る予定の樹木に「この木を切りますよ」というサインを2週間貼り付け、近隣住民から意見を聞く。
厳密にはもう少し細かいが、大筋はこのような感じだ。
実際に働いていると、大変なことも多い。
作業に入る前に、書類許可、TPZ作り etc…
効率的ではないことも事実多い。
しかし、本当に大切なことを大切にする、当たり前のことを当たり前にする、そんな街の姿勢が素晴らしい。
自分で植えた木であっても、ある日からは街の、皆の、木となり、勝手に切ってしまったら罰金なのである。
然るべき手続きを行っても、近隣住民からの猛反対があればその木は切れないのである。
その木々の落ち葉もきちんと掃除して、4季を通して庭を楽しみきるカナダ人の人生は豊かなはずだ。
※一つの側面として、カナダはイギリスの文化をルーツに持つ。
イギリスはある時代に帆船を作る為に、真っ直ぐな大木が不足した時期があり、その時、木は国の所有物だ!!というルールが出来たと本で読んだ。
※←不確かなので、参考までに。
専門の方いましたら、コメントにて訂正お願いします。
もしかしたら、上記のイギリスにおけるルールも、トロントのこの素晴らしいルールの一つの大きな要因となっているかもしれない。
ただ、個人的には、そのルールを支えるものは心だと思っている。
心なくしてこのルールは生まれないし、存続もしない。
この心に学ぶところは多いと思う。
最後に、言わずもがな日本ではこんなルールはない。
東京では、街路樹のクレームが年間3000件にものぼり、1日にすると平均10件になるそうだ。
それがどうも僕がトロントでランドスケーパーとして働いていた時の記憶と結びつかない。
秋に落ち葉で埋め尽くされたダウンタウンの美しさ。
それを当たり前として受け入れ、せっせと掃除するおばさん。
落ち葉の絨毯で、はしゃぐ子供と、それを微笑ましく見守るお母さん。
バス待ちの一瞬ですら楽しめた。
目先の便利さの為に、僕らはとんでもない代償を払おうとしていないだろうか?
これが正解とは言っていない。
ただ、海の向こうにそんな街がありました。
そういうお話なのです。
個人として、ランドスケーパーとして、日々考え、自分にとっての正義を貫いていきたいな。