先月末のReutersの記事"In escape from Japan doomsday, capital takes flight" (日本語版は「広がる『日本脱出』、個人マネーは安全求め海外へ」 )を読んで、最近、日本では「日本脱出」を考える人が少しずつ増えていることを知った。記事によれば、富裕層だけでなく、ミドルクラスや若年層でも、日本の先行きを懸念して預金や資産を海外に移したり、ニュージーランドやマレーシアなどに不動産を購入して移り住む準備をする人が増えているそうだ。日本脱出を指南するサイトや本も人気だという。このブームの背景に何があるのか。


上の記事によると、このブームには2つの原因があるという。ひとつは、対GDP比2倍を超える1,000兆円超の日本の公的債務残高が、近い将来、日本の財政破綻を招くというシナリオへの悲観だ。特に、ギリシアの債務危機の報を受け、日本の方が対GDP比の負債残高の割合が大きいという現実も(ギリシアの場合、債務危機が表面化する直前の2009年10月の時点で、対GDP比113%の債務残高だったそうだ)、この悲観論をより深刻なものにしているのだろう。また、昨年の東日本大震災と福島第一原発の事故のトラウマがまだ癒えていないばかりか、近い将来、首都圏直下型の大震災が起こる可能性が高いという予測に起因する恐怖が拍車をかけたと言う。


しかし、このブームは本物なのだろうか。例えば、日銀の統計によると、2011年10-12月期に家計から外国証券に流出した金額はわずか5,780億円であり、総額1,200兆円とも言われる日本の家計の貯蓄にとってはほんのわずかに過ぎない(上の記事にもこのことは書かれている)。つまり、実際の数字に比して記事の内容がいささか誇張されている印象を受ける。また、昨年の福島原発の事故の直後に、アメリカの報道で誇張された報道が多くなされたことが記憶に新しいが、今回の記事も少しその傾向があるのではないかという疑いも頭をもたげる。さらに、同じく記事に書かれていることだが、出版社が、ブームに乗って本の売上数を伸ばすため、日本の国債暴落や個人資産の海外への大規模な逃避といった大げさなタイトルをつけているそうだ。はっきりとは分からないが、この「日本脱出」ブームは、震災や財政・経済の先行きへの不安を増幅させて消費を刺激しようという出版社や海外不動産ディーラーなどの思惑もないではないのではないかと思う。


ともかくブームの真偽は不明だが、問題の本質は、日本人が自分の国の将来に深く悲観していることにある。日本の景気の悪化、天文学的な金額の公的債務残高、少子高齢化による社会保障制度の負担増、増税、デフレなど、これらの悲観要因が積もり積もって、日本人の心を暗くしているのだと思う。どこか、安全な避難先を探し求めないではいられない気持ちなのだろう。本来、こうした問題に取り組むのは政治の役目だ。しかし、今の政情を見ると、政治にも期待できないのだろう。


この問題への対処として、個人のレベルで「日本脱出」を計画することはありだと思う。私自身は、ビザで許可された期間に限ってニューヨークに滞在しているので完全に脱出したわけではないが、私の周りには、個人でアメリカに移住した日本人が何人も居る。実際やってみるといろいろと大変なことはあるだろうが、まったくできないわけではなさそうだ。例えば、ビザや仕事、言葉、子供の教育、文化の違いなど、克服しなければならないことはたくさんあるので、そういった事柄について現実的な対処を考えておくことが大事だろう。また、「日本脱出」と言っても、日本を捨てる必要はない。「日本脱出」と聞くと、日本はひどく危険で、海外はとても安全な場所であるかのように錯覚しそうになるが、そんなことはない。海外も危険な場所は多いのだ。要は、日本でしか生きられないという状況を克服して、日本でも海外でも生きていけるという状況を作ることが一番の安心材料になるのだと思う。

少し前のことだが、タクシーに乗って運転手に行き先を告げて世間話をしていたら、"Are you Japanese?"(日本人か?)と聞かれた。"Yes."(そうだ。)と答えて、なぜ分かったんだと逆に質問したら、「L」と「R」の区別があいまいだったから日本人だろうと思った、と言われた。その頃は英語にも自信がついてきた頃だったので、少しショックだった。アメリカでは、日本人は「L」と「R」の発音が区別できないことはよく知られているらしい。さらに、その運転手にアメリカ人かと尋ねたら、記憶がはっきりしないが、どこか東欧の国から移住してきたという。英語がネイティブでない人に発音を指摘されたことにショックが増幅した記憶がある。どうしたらネイティブ並みの英語を話すバイリンガルになれるんだろうか。


ワシントン大学で子供の語学学習と脳の発達について研究しているPatricia Kuhl(パトリシア・クール)によれば、三十代という私の歳ではバイリンガルになるのは難しいようだ。そのことは薄々気付いていたが、彼女のTEDでのプレゼンテーション("The linguistic genius of babies" )を要約すると、年齢と言語の習得には次のような関係があるそうだ。これは興味深かった。


①言語の習得には臨界期があり、それは7才ころである。7才を過ぎると言語の習得能力が一貫して低下する。

②さらに、言語の習得における最初の臨界期は6-8ヶ月から10-12ヶ月の間にやって来る。その時期、赤ちゃんは自分の言語で使われる音声(音声分布の統計)を習得しようとする。

③バイリンガルは、二つの言語の音声分布の統計を自分の中に持っていて、どちらの言語を話しているかによって両方の統計を行き来することができる。

④赤ちゃんは、母国語だけでなく、第二言語についても音声分布の統計を習得することができる。

⑤赤ちゃんの言語習得において、テレビやオーディオなどの音声では学習効果は薄く、大人の人間が赤ちゃんに話しかけることが重要である。


大人になってからの英語学習では、ネイティブの英語のスピーカーになるのは難しいのは分かっている。でも、努力すれば少しはネイティブに近づくことは可能なはずで、前のエントリー(「英語の勉強 」)に書いたとおり、だから今でも英語を勉強している。もう一つ、パトリシアのプレゼンを聞いて、改めて音声学習の重要性を認識した。


一方で、私の子供はまだ小さいのでバイリンガルになる可能性を秘めている。子供にはテレビやオーディオなどで英語の番組や音楽を聞かせてきたが、最近、英語のネイティブ・スピーカーのナニー(ベビーシッター)にも頼んで積極的に英語で子供に話しかけてもらっている。この子がバイリンガルになれるかどうか、楽しみに見守って行きたい。


なお、TED には、色々な話題について第一線のスピーカーによる10-20分の英語のスピーチが豊富にそろっている。字幕を出すことも可能なので、英語のリスニングの練習にはとても有効だ。英語のリスニングの勉強の素材として、ぜひお薦めしたい。

先日、NumberWebで「レアルとアヤックスの共通項は何か。プラットフォームビジネスを考える。 」という記事を読んだ。スペインの銀河系軍団レアル・マドリーとオランダの名門アヤックスという2つの有名サッカー・クラブをビジネス・モデルの観点から比較するという切り口が面白かった。筆者である葛山智子氏は、グロービス経営大学院の准教授で、アメリカのオハイオ大学経営大学院でスポーツビジネスを学んだという。今回は、この記事を素材に書いてみたい。


葛山氏によれば、レアル・マドリーとアヤックスは、誰を顧客として利益を稼ぐかという利益モデルの点では異なるが、いずれも顧客を増やす仕組としてビジネスモデルを「プラットフォーム」化している点で共通しているという。「プラットフォーム」というと、グーグルやフェイスブックのビジネスを思い浮かべるが、それがサッカー・クラブにも当てはまるというのが面白い。葛山氏の説明をまとめると次のようになる。


レアル・マドリーのビジネス・モデルは、スター選手を獲得してリーガ・エスパニューラやチャンピオンズ・リーグなどの大会で優勝し、世界中のファンを魅了することにより、スタジアム収入、放映権料、スポンサー料や広告料、グッズ売上などのマーケティング収入を増やすことにある。売上を増やせば、その資金を一流選手の獲得に充て、さらに好成績を収めてファンを魅了し、スポンサーなどを増やして増収を実現できるという好循環につながる。レアル・マドリーという一流選手からなる銀河系軍団が、世界一多い(2006年の調査によると、当時、2億2,800万人のファンがいたそうだ)と言われる世界中のファンと、そのファンに向けたマーケティングに関心を持つアディダスやエミレーツ航空といったスポンサー企業を結びつけるプラットフォームを形成している。


他方、アヤックスのビジネス・モデルは、ファンやスポンサーだけでなく、ビッグクラブをも顧客として収益源にしていると言う。つまり、アヤックスは、レアル・マドリーのように大金を払ってでも一流選手が欲しいビッグクラブの需要を狙い、世界屈指と言われる育成機関であるアヤックス・アカデミーで無名の若手選手を育成している。例えば、オランダの10番を背負うウェズレイ・スナイデルは、アヤックスの下部組織で育成され、2007年にレアル・マドリーへ移籍し、その際、2,500ユーロとも言われる移籍金がアヤックスに支払われたそうだ。こうして、アヤックスは、アヤックス・アカデミーを通して、有望な若手選手とビッグクラブとを結び付けるプラットフォームとなっている。


葛山氏によれば、プラットフォームビジネスの肝は次の3点にまとめられる。

①自分とサービス利用者(レアル・マドリーなら世界中のファン、アヤックスならアカデミーの若手選手)の結びつきに価値を認めてお金を支払ってくれる顧客(レアル・マドリーならスポンサー企業、アヤックスならビッグクラブ)を特定する

②クチコミ効果で、サービス利用者とお金を支払ってくれる顧客が増える仕組を構築する

③プラットフォームの質を維持する


翻って日本のJリーグのクラブのことを考えると、どのチームもスポンサー収入を頼みにJ1での優勝を目指して戦っている。どのチームも基本はレアル・マドリー型を志向しているといえるだろうか。でも、サッカーを楽しむファンの側からすると、アヤックス型のチームが現れて若いチームが競合相手にいい戦いをするという試合も面白い。ミハイロビッチ監督時代のサンフレッチェ広島がこれに近かっただろうか(当時のチームの中心だった柏木選手や槙野選手らがビッグチームである浦和に移籍したし)。また、最近、Jリーグの有望な若手選手が低い移籍金で海外のチームに移籍することが問題となることもあるし、しっかりと移籍金を取るアヤックス型のビジネスモデルはJリーグのチームにも学ぶことが多いのではないかと思う。