後から振り返ってみると、昔やったことが何気なく今の自分につながっていることに気付くことがある。今日は、昔読んだ本から、それが潜在的に今の自分に影響を与えていたのではないか、と思う本2冊を紹介したい。①阿川尚之氏のアメリカン・ロイヤーの誕生―ジョージタウン・ロー・スクール留学記 と②ダグラス・K. フリーマン氏の「リーガル・エリートたちの挑戦―コロンビア・ロースクールに学んで」 がそれだ。


この2冊の本を読んだのは、まだ高校生か大学生の頃だったと思う。その当時、将来アメリカのロースクールに留学してアメリカの弁護士になりたいという明確な計画があったわけではなく、大学の法学部に行ったら、その後はどんな可能性があるのかなと漠然と興味を持って読んだ程度だった。その後、10年以上が過ぎ、日本で弁護士として経験を積んでから、英語を磨くとともにアメリカの進んだ法学やプラクティスを学ぶため、ロースクールに留学することにした。そして、NYの弁護士資格を取得して現地の法律事務所で働いていると、この2冊の本が自分の意識に影響しなかったとはいえないように思える。


ただ、少しだけ後悔もある。私がロースクールで進んだプログラムは、阿川氏やフリーマン氏が進んだJD(Juris Doctor)コース(アメリカ人向けの3年間のコース)でなく、LLM(Master of Laws)コース(主に外国人向けの1年間のコース)だった。今思うと、阿川氏やフリーマン氏のようにJDコースに進んでおけばよかったと思わないでもない。アメリカの弁護士としてやって行こうと思えば、JDの学位を持っている方が有利だからだ。これから、日本の弁護士は益々多様化と国際化の時代を迎えると思う。本気で国際舞台で活躍したいと思う若い人は、LLMコースでなく、JDコースに進むことを検討してみたらよいと思う。


少し横道にそれたが、本論に戻りたい。前に書いた「ロースクールには行くな。アジアに行け。 」で紹介したSteve Jobsの2005年のスタンフォード大学での卒業スピーチ で、ジョブズ氏が次のようなことを言っていた。"you can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future."(「将来に向かって点をつなげることはできない。できることは、後から振り返ってみて、その点をつなげてみることだけだ。だから、その点が自分の将来に何らかの形でつながるだろうということを信じなければならない。」)この言葉を聴いて、さすがジョブズ氏だと思った。つまり、後から振り返ったときに昔やったことが今につながっていたと思うだけなら、誰でもできることだ。ジョブズ氏は、今やっていることが、将来、きっと何かにつながると信じてやるべきだ、という。少しくらい後悔することがあってもいい。今の自分のキャリアが将来自分が目指すキャリアの目標に繋がるはずだと信じて、明日からまた頑張って行きたいと思った。


今日、取り上げた2冊の本について、下で簡単に紹介しておく。いずれの本も、執筆時から少し時間が経っているが、今でも多くの部分で、アメリカのロースクールやその学生の実情を垣間見ることができると思う。アメリカのロースクールがどんなものか興味のある方や、実際にアメリカのロースクールに留学することを検討している方には、一読をお薦めしたい。


①阿川尚之「アメリカン・ロイヤーの誕生―ジョージタウン・ロー・スクール留学記

1980年代、企業からジョージタウン大学ロー・スクールのJDコースに留学し、アメリカで弁護士資格を取得した筆者の留学体験記


国際弁護士の独り言


②ダグラス・K. フリーマン「リーガル・エリートたちの挑戦―コロンビア・ロースクールに学んで」

日本で弁護士になった後、1999年から名門コロンビア大学ロー・スクールのJDコースに進み、アメリカでも弁護士になった筆者の留学体験記


国際弁護士の独り言

(承前)前回紹介したWSJの記事の提唱する、弁護士資格とABAのいくつかのルールの撤廃論には違和感を覚えた。今回、その理由を述べてみたい。


まず、弁護士資格の撤廃であるが、その効果に疑問があるし、弊害が大きいと思う。そもそも、現状でも、毎年、法律事務所の弁護士のポジションの数よりも多くの学生がロースクールを卒業しており、そのため名門ロースクールの卒業生ですら就職先が見つからないという弁護士余りの現象が生じている。なので、これ以上新規参入者を増やしても、コストは下がらないのではないかと思う。また、法律事務所は、弁護士のほかに、補助的業務に従事するパラリーガルなどの補助職員を雇用して、法務コストを低減するよう努力している。さらに、本質論として、弁護士の資格規制は、事件屋などが依頼人の利益を害することを防ぐため、高い倫理を持つプロフェッショナルに法律業務をゆだねたという趣旨がある。この制度を撤廃することは、かえって事件屋などによって依頼者の利益が害されるという弊害が生じることが予想される。


次に、ABAのルールで、銀行やPEなどが法律事務所のパートナーとなることが禁止されていることについて見てみる。先の記事は、Dewey & LeBoeufの経営破綻の例を挙げて、その破綻の原因は銀行からの借入に依存しすぎて、他の方法での資金調達ができなかったからだという。しかし、同事務所は銀行借入れやNoteの発行により十分すぎるほど多額の資金を調達していたのであって、問題は、資金調達が制限されていたことでなく、調達した資金の使い道(パートナー弁護士に高額の報酬保証を与えていたこと)にあったと見るべきだろう。しかも、法律事務所に銀行やPEが投資をすれば、銀行の債務者やPEの投資先とは利益相反が生じる可能性があるため、かえって依頼者の利益を十分に代理することができなくなってしまう弊害もあるだろう。


また、先の記事は、上のABAのルールのせいで法律事務所のマネジメント技術を持った人を活用できないと言うが、法律事務所がそういった人材を雇うのにパートナーシップを組む必要はなく、従業員として雇うことで目的を達することも可能である。実際、多くの事務所がそういったマネジメント技術を持つ人材を雇っていると聞く。


さらに、現状のABAのルールでは、法律事務所が法律業務とともに金融サービスや会計サービスなどを提供してお金をもうけることができないという点も、それが法律事務所の目指す「効率性(efficiencies)」かというと違う気がした。皆さんはどう思うだろうか。


先の記事は、何度も輸送業界の規制緩和を例に上げて、弁護士業界でも規制緩和によるイノベーションが可能だという。しかし、弁護士業務は、鉄道の時代から自動車が発明され、その後飛行機が発明されて、というようにどんどん技術革新が進んだ輸送業界と同じに論じられるだろうか?


確かに、弁護士業界でも、ポイズン・ピル(買収防衛策)やMBOなどの法技術の発明によって新たな需要を掘り起こされたこともあったし、IT技術が導入され判例や法律文献はデータベースで検索できるようになった。しかし、それは極めて限られた分野での話だったり、あくまで弁護士業務の周辺的な部分にとどまる。弁護士業務の基本は、依頼者の話を聞いて法的問題点を発見し、法を探求・解釈して解決することにある。そこにどんな方法でイノベーションを起こせるか、自分の弁護士人生が続くとすればずっと追い求めていくことになる課題だと思う。

前に「法律事務所の経営の躓き」 「続・法律事務所の経営の躓き」 で書いたDewey & LeBoeuf LLPの経営破綻をきっかけに、法律事務所のビジネス・モデルの改革の必要性が議論されるようになってきた。WSJの記事"The Law Firm Business Model Is Dying" (「法律事務所のビジネスモデルは瀕死の状態」)もそんな論調だ。他の業界と同じく、弁護士業界でも、依頼者によりよいサービスを提供できるよう常にビジネスモデルを見直していく必要はあると思う。しかし、この記事の主眼はやや極端な規制撤廃論で、弁護士業務の実態に即していない部分もあるように思った。そこで、今回はこの記事を読んで思うところを書いてみたい。


上の記事をまとめると、法律事務所が直面する問題は需要不足だという。つまり、大手企業は社内弁護士を多用して外部の弁護士に支払う法務コストを削減しているし、一般市民もインターネットなどを使って簡単な法律問題は自分で解決してしまうようになったという。この問題を踏まえると、弁護士は、価格を下げたり、「イノベーティブなサービス(innovative services)」を提供して新しい顧客をひきつけなければならない、という。


しかし、現実にはそれがうまく行っていない。筆者によれば、その原因は2つの規制があるからだと言う。


ひとつは、各州で弁護士活動に法曹資格が必要とされていることで、弁護士の新規参入が阻まれて競争が制限されているし、また、弁護士は資格取得のための投資(ロースクールの学費など)に見合う高額の給料をもらっているからだという。


もうひとつは、ABA(アメリカ法曹協会)の規制で、例えば、銀行やPEなどが法律事務所のパートナーとなることが禁止されているため、法律事務所の資金調達の方法が制限されていたり、マネジメント・スキルを有する人材を活用できないという。また、法律事務所が他業種の企業と合併することが禁止されているため、法律業務とともに金融サービスや会計サービスなどを提供して「効率性(efficiencies)」を実現できていない、ともいう。


そして、上の記事は、1970年代の輸送業界の規制緩和を例に上げて、弁護士業界でも上の2つの規制を撤廃して、「効率性(efficiencies)」のあるビジネスモデルを目指すべきだと言う。


弁護士は、法律のプロフェッショナルであると同時に、サービスの提供者だ。なので、依頼者によりよいサービスを提供できるようなビジネスモデルの革新が可能であれば、それは採用すべきだと思う。しかし、上の記事の述べる規制撤廃論にはいくつかの理由で違和感を覚えた。次回、その理由を述べてみたい。(続く)