参考資料:民法(債権関係)部会資料 38
https://www.moj.go.jp/content/000097163.pdf
↓
上記資料より
4 その他の債務引受に関連する論点 (2) 履行引受(14頁~)を抜粋
(2) 履行引受
履行引受に関する規定の要否については,債務者と第三者との間で履行引受の合意をすることができる旨の規定を設けるという考え方があり得るが, どのように考えるか。
○ 中間的な論点整理第15,4(2)「履行引受に関する規定の要否」[56頁(1 31頁)] 履行引受に関する明文の規定を設けるべきであるという考え方の当否について, その実務的な利用状況にも留意しつつ,更に検討してはどうか。 【部会資料9-2第1,5(1)(関連論点)[56頁]】
(補足説明) 債務引受と隣接するが異なる概念として,履行引受の合意が可能であることは既 に認められている。履行引受が債務引受と異なる点としては,①債務者と引受人との合意のみによって成立し,債権者の関与が不要である点や,②債権者が引受人に対して,直接,債務の履行を請求することができないという点が挙げられている。
そこで,債務引受とは別に履行引受についての規定を設けることの当否が検討課題となる。
この点についての規定を設ける場合には,その具体的な内容が問題となるが,引受人が債務者に代わって債務者の債務を履行することについて,債務者と第三者との間で合意することができるということを規定するにとどまると思われる。
すなわち,
このような規定が設けられることにより,この合意の効力が債権者に対して及ばず,債権者が引受人に対して履行を請求できないことも当然に導かれる。本文は,このような規定を設けることを提案するものである。
もっとも,
本文で提案する規定は,弁済をしようとする第三者と債務者との間で 単に第三者弁済の契約をすることができるという当然のことを規定しているだけである。
また,この合意によって債務者の意思に反して第三者弁済する地位(民法第 474条第2項参照)を取得するわけではないことにも留意する必要がある。以上を考慮すると,この規定を置くことが必ずしも有用とは言えないという批判もあり得る。第13回会議では,履行引受が実務で用いられていることは認めつつも,このような規定まで設ける必要はないという意見があった。
ここまで
・・そして実際には「履行引受」に関する条文は新設されませんでした。でも実務上では行われてきたことであって、判例も出ており
大判大正8年11月25日:履行引受と債務引受の違いについて→前者は引受者ヲシテ既存ノ債務関係外ニ立ツ第三者ノ地位ニオイテ債務者ノ債務ヲ弁済スルノ義務ヲ負ハシムルニ反シ後者は引受者ヲシテ既存ノ債務関係ニ入ラシメソノ債務者トシテ弁済義務ヲ負ハシムレハナリ
過去問にも出題されています。
平成3年第14問(合格ゾーンだと39-2民法下P93)
ただ・・民法改正後は、履行引受を出題するよりも、それまで条文には無かった「債務引受」(複雑にするなら +「契約上の地位の移転」の組み合わせもあるし)が出題される可能性が高いだろうなと思います。
条文が出来たことによって実務上も、履行引受ではなくて、併存的債務引受や免責的債務引受の契約が多くなることが予想されるので(たぶん現場の法律家もそちらをおススメするのではないのかな・・)
履行引受 のみ が問題として出題される可能性は低いはず。
そして
当事者三者のうち債務者と引受人は免責的債務引受もしくは併存的債務引受の契約をしたつもりが、債権者の承諾を得られなかったケースで、後に紛争となって裁判になった場合に裁判官が「うむ。しかしこれは履行引受なのである」みたいな解釈をする余地を残すため、履行引受はこの宇宙に存在し続けるのでしょうね・・
でも、理解しているかどうかをテストするために債務引受の問題の中に、その要件などが出てくる可能性はあるので
念のためメモ
●債務と履行の概念の違いを把握しておくこと
↓
履行(そのもの)は準法律行為(通説)
●履行引受は「債務ではなく『履行だけ』を引き受けるもの」
↓
「債務の履行を引き受けた」とは「債務引受ではなく履行引受なのだ」とちゃんと読み取ることが肝心。万一にも出題されたら勘違いしないように。
↓
債務を引き受けたわけではないので、履行引受人が債務不履行の責任を負うことはない(債務者が負う)
※ここでちょっと脱線※
検索していて出てきたページなのですが、国税庁が「債務引受」や「履行引受」をする場合の契約書に貼付する印紙について説明しています。
↑「債務者と引受人との間の契約については各種のものがありますので、その内容により印紙税の取扱いを説明しますと次のようになります。」というのですが、
民法を勉強している人にとっては、この説明のどれが「債務引受」でどれが「履行引受」が区別する問題になりそうな文章です
「履行引受」って世間にふつうにあって、わかってないと、法律を扱う実務家としてはたぶん、恥をかいてしまうのでしょうね。
覚えておこう。
●履行引受は債務者と履行引受人の内部関係にとどまる契約となる
↓だから
債権者は履行引受人に対して、履行の請求はできない
●履行引受人は「第三者」として弁済をする(判例、そして474条による)
↓なので
474条第4項→当事者が「債務者のみを弁済者とする」など、履行引受人などの第三者の弁済を禁止する「特約」をしている場合には引受人が履行することはできない
↓
条文を確認
(第三者の弁済)
第474条 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。
●引受人は委託による保証人の求償権(459条)に準じて、債務者に対する求償権を取得する
追記:履行引受が委任による事務処理の履行と考えると、受任者の費用償還請求権(650条→ ※委託を受けたことが立証できない場合にはさらに 事務管理と解釈して 民702条)を考え、保証人の求償権に関する特則を準用すべき場合には459のあてはめを考えるということになるのでしょうね。
●履行引受では債務者に変更はなく、債権者と債務者間の契約に影響を与えないので、保証や担保の消滅の問題は生じない
追記:↑復習していて出典が不明であることに気が付く。原則、保証や担保に影響はないとしてもあまりに狭小でこの記述の後半、意味がないかも。なお第三者の弁済として弁済し求償権が発生する場合は代位するので保証も担保も消滅はしないですね。
なお、さらに念のため
(併存的債務引受の要件及び効果)
第470条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。
4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。
●併存的債務引受に関する470条第3項・第4項を読んで、履行引受の場面と混同しないこと。
↓これは
あくまでも「債務引受」の規定。
この条文はもちろん、どこかに吸収されたわけでもなんでもなく、「履行引受」は条文化されなかった、とわかっておくこと(探しちゃダメ 明文化されたのは、債務引受だけ!)
そして、そうはいうものの、実務では出くわすかもしれないと心得ておくこと。
また、履行引受人の弁済に当てはめる条文である「第474条第三者の弁済」という概念と、併存的債務引受が従う規定である「第537条第三者のためにする契約」の内容をしっかり区別すること。
債権者A、債務者B、履行引受人または併存的債務引受人をCとした時
それが履行引受なら、AはCに「請求できない」が
併存的債務引受であればAはCに「請求できる」
(第三者のためにする契約)
第537条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
ふう・・
それにしても 平成3年第14問
問題集「合格ゾーン」の表題が「債権譲渡・債務引受」になってるから、うっかり債務引受を想定して問題を読み始めてしまいました。なにこれ、なにこれ???状態!気が付いた時にはものすごい、脱力!もう~~~!!!!
プンプン!!
きっと、私以外にもそういう人、いますよね?
追記:履行引受の明文化についてはさまざまなご意見があったわけですが
https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2011/061/doc/061_110708_shiryou2-1-1.pdf
債務者保護の観点に立って明文規定を設けることも検討すべきとご意見を寄せていた弁護士さんたちがいらしたことを知りました。優しさにほっ・・
法律の世界の常識で判断したり、何かを言うと「冷たい」と言われること、多いですよね
追記:メモ
https://core.ac.uk/download/pdf/327117063.pdf
債務引受と第三者のためにする契約との関係について(その2)
濱﨑智江先生の論説
https://nagoya.repo.nii.ac.jp/record/17814/files/nujlp_254_13.pdf
求償権と弁済者代位
渡邊力先生の論説