『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー57ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー57ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 その頃、ジョーは、北方総督府から総督代理官殿とその参謀ふたりを連れて、リュシエルの行方を捜していました。
 ジョーはミミに病気を治してもらってから、故郷へ帰るところだったのにわざわざ東方の北方総督府へ引き返して、リュシエル王子らしき人物を目撃したことを総督府に報告したのでした。
 ジョーは総督府で長い時間待たされて、もうあきらめて帰ろうと思った頃、士官服に肩章や徽章、胸に勲章などをジャラジャラつけた、総督府のナンバー2である代理官殿が、フーフー荒い息を吐きながら現れました。そしてジョーは密室に移動させられリュシエルたちと出会った時の状況を詳しく聴取されたのでした。
「おまえ、何故すぐ云いに来なかったのだ?」と代理官殿は権柄ずくに云いました。ジョーは吃驚して、「すぐに云いに来ました」と答えました。
「すぐに云いに来ただと?」代理官殿の鼻息は荒く、目は濁っています。「かなり時間が経っておるではないか!」
 此処で随分待たされたからですよとジョーは云い返したかったのですが黙っていました。
「どうせ見間違いだろ?」と代理官殿の横柄な態度はますますエスカレートしていくのでした。
 ジョーは自分がむかし都で兵隊をしていた頃に王子を見かけたことがあり、目撃した男がその王子にそっくりだったことを告げました。
「兵隊ねえ……どうせ間近で見たわけじゃねえんだろ?」
 ジョーは黙っていました。確実なことは何も云えなかったからです。
 その後ジョーはひとりきりにされ、さらに気が遠くなるくらい長い時間待たされました。
 何となく、自分が場違いな処に来てしまったという気持ちを拭い去ることが出来ませんでした。ほんの善意から此処までやって来たのでしたが、自分が報告した目撃情報は出来ればなかったことにしてもらいたいと思ったほどでした。
 そして自分の存在が忘れ去られてしまったのではないかと思いはじめた頃、ジョーは代理官殿から王子捜索の道先案内人をつとめるよう申し渡されたのでした。
「わしらが王子の捜索に出掛けることは、誰にも口外するなよ。この行動はすべて隠密なんだからな」代理官殿は出発の前にそうジョーに云い含めました。

 

 

 そうして代理官殿は今、ジョーの後ろで馬に乗り、その左右に参謀ふたりが随身する形で、既に山賊のアジトがあるという噂の山あいまで捜索の足を伸ばしていたのです。
  ふたりの参謀は顔がそっくりで、まるで双子のようでした。ふたりは着ている士官服までそっくり同じでしたので、もし三日月の形をした軍帽の色まで同じだったとしたら、ジョーにはどっちがどっちなのだか見分けがつかないところでした。白い軍帽を被っている方が〈白の参謀〉で、黒い軍帽を被っているのが〈黒の参謀〉と呼ばれていました。ふたりはそっくりの顔をしていましたけれど、別れて五秒後には誰しも忘れてしまうほどの特徴のない顔をしています。
 此処まで来る途中、村人や旅人に聞き込みを行い――その役目は何故かほとんどジョーがやることになりましたが――ゴルドー村では村人の中に、若い男と盲の女、それに五歳くらいの子供が南へ向かうのを見たと証言するものがありました。
 またその情報を元に南進し、カルマ村に到着したところ、カルマ村では或る老婆がそういう風体の者たちを自分の家に泊めたことを明らかにしました。
 カルマ村の老婆の証言によると、元王子と思われる者を含む三名は、ただで飲み食いをしたあげく、夜中のうちに宿代を支払いもせず、老婆のひとり息子にそのことを追及されると激高し、ひとり息子を刺し殺して夜陰に紛れて逃走したということでした。その犯行の一部始終を目撃していた男もいました。ジョーはその話を聞いて、我が耳を疑いました。ジョーには彼らがそのような酷いことをする人間には思えなかったからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

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