『果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語ー52ー』にゃんく | 『にゃんころがり新聞』

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果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語

ー52ー

 

 

 

 

 

にゃんく

 

 

 

 

 

Ⅸ 戦利品

 

 

 夜空に星屑が惜しげもなくばらまかれたように輝きはじめた頃、オカシラ達が山荘に帰って来ました。大男が荷車を引いています。
 ミコさんが、「お出迎えしましょうか」と云うので、ミミ、リュシエル、メメも一緒に外に出ました。名前は分かりませんでしたが、昼間はいなかった若いエプロン姿の女性も、ミコさんの隣でお出迎えをしています。
 オカシラ達は、疲れた表情をしていました。リュシエルは、一瞬、オカシラ達から血の匂いが漂って来たような気がしました。
「怪我はなかったかしら?」とミコさんがオカシラに尋ねました。
「お帰りなさい」とエプロン姿の女性が云いました。
「大丈夫大丈夫。それより、三人とも、腹が減った。酒の準備をしてくれ」
 オカシラは、ミコさんと抱擁を交わし、エプロン姿の女性とキスをしました。
 リュシエルは、荷車の上に、食糧が積み込まれているのを見ました。その他には、衣類やネックレス、指輪などの貴重品も少なからず積載されています。
 オカシラは、山荘に入る前に、思い出したように振り向いて、「ほらよ」と云って、リュシエルにまた何かを投げつけて来ました。胸の中で抱き留めたそれは、金貨二枚でした。「?」
「一枚は、おれたちの取り分として、頂いておくぜ。野郎たち、たんまりため込んでやがったぜ。庶民を虐めて私腹をこやすとは、このことだ」
 そう云って、オカシラは山荘の中に這入って行きました。
「もしかして、この食糧などは……?」とリュシエルが呟くと、後からミコさんがやって来て、
「オカシラ達は、総督府の関所を襲撃して来たのよ。これは戦利品ってわけ」と云って、荷車を指差して、山荘の中に消えて行きました。
 大男が荷車を山荘の中に慎重に運び込もうとしていました。
 何気なく荷車の上の品を観察していたメメが、「きゃあっ」と突然叫び声をあげて飛び退りました。何事かと思ってリュシエルが近付いてみると、荷車の隅に、見覚えのある男の首が載っていました。鼻より長い顎髭を蓄えた、制服の左胸に星の階級章を三つ付けた男の首でした。
 男の首は、生きていた頃の血色の良さを失い、土気色に変わり果てていました。

 

 

 その後、オカシラたちは祝杯をあげ、宴会になりました。ミコさんとコユビさんが忙しそうにお酒の準備をしたり、食べ物をテーブルの上に並べています
 リュシエルがご馳走になった部屋で、椅子を並べて、その何十倍も豪華な晩餐会が催されました。
 リュシエルが料理を食べ尽くし、満腹になった後も、〈ばか力〉と呼ばれた大男は、「小食ですね」とリュシエルに云って、いつ終わるともなく食べ続けていました。
 白い髭の〈スナイパー〉は、ほとんど料理には手をつけず、良質のぶどう酒を自らの杯に注いでは飲んでいました。
 いつの間にか、オカシラと若いエプロン姿の女性の姿が見えなくなっていました。リュシエルがミコさんに教えてもらったところによると、エプロン姿の女性は、〈コユビちゃん〉と呼ばれているのだそうでした。
 リュシエルは、ひとりでお手洗いに行くのが怖いのか、一緒に付いてきてほしいというメメと奥のトイレまで行く途中、小部屋の中から艶めかしいそのコユビちゃんらしき女性の声が聞こえて来ました。荒い息をしているオカシラの声も、途切れ途切れに聞こえています。
「何してるの?」と訊くメメに、リュシエルは、「何でもないよ」と早く用をすませるよう促して、元の部屋に戻って来ました。
 ちらっとミコさんを見ると、すこし寂しそうな顔つきをしているようにリュシエルには思えました。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

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