果てしなく暗い闇と黄金にかがやく満月の物語
ー㊿ー
にゃんく
リュシエルとミミが目を醒ました時、山荘の外には夕闇が取り巻いていました。
しばらくすると、ミコがふたりが目覚めたのに気付いて、紅茶を持って来てくれました。ミコは椅子に腰掛けて、三人は紅茶を啜りながら話しました。
「メメがいなくなっているな」とリュシエルが云うと、
「あの子は元気にこのあたりを探索してるようね」とミコが云いました。「心配しないでいいよ。それはそうと……おまえさんたち、都へ行くと行っていたけれど、都に行くには、こっちの方角だと遠回りになっちまうよ?」
リュシエルはそう云われ、ほんとうのことを告げるべきかどうか逡巡しましたけれど、「実は、……魔女に追われているんです」と思い切ってほんとうのことを話してみることにしました。
「魔女に追われているって?」ミコはこの地域の人間には見慣れない緑色の目を大きく見開きました。
リュシエルとミミはこれまでのいきさつを簡単にミコに説明しました。打ち明けなかったのは、リュシエルが元王子であるということだけでした。何もかも告白するには、お互いまだもう少し時間が必要なように思われたのです。
あらましを聞き終えると、ミコは、
「愕いたね。カエルの軍団を手足のように操るなんて、世の中にはまだそんなすごい魔女がいたんだね」
と云って頭に巻いた黒い布を手で直し、居ずまいを正しました。
「……さっきも云ったけれど、此処には好きなだけ居てもいいよ。怖い顔してるけど、みんな心根は優しいやつらばかりだから。腕っぷしも強い連中だしね。おっかない魔女さんが恋人を奪い返しに来たとしても、そう簡単には奪われることはないよ」
ミミはミミで、疑問に思っていたことをミコに聞いてみました。「ミコさんは、オカシラとはどういう関係なんですか?」
「幼馴染みさ」とミコは云いました。
「幼なじみ?」
「赤ん坊の頃、私は山の中に捨てられていたのさ。それをオカシラの母親に拾われて育てられたの。だから、私にとっちゃ、オカシラのお母様が命の恩人でもあり、ほんとうの母親でもあるのさ」
「ミコさんは魔女ではないの?」ミミは、自分たちを救ってくれた魔法のオカリナの力のことを不思議に思っていたのでした。
「まあ、魔女の端くれみたいなものさ。あんたたちのことを追っかけている、おっかない魔女さんほどの凄い力はないけどさ。
私の親がどういう人間だったのか知らないけれど、あんたたちと同じ民族の人間じゃないことだけは確かさ。ひょっとすると、ジプシーか何かだったのかもしれないね。大きくなるにつれて、自分には他の人にはない不思議な力が備わっていることに気付いたの。心を集中させれば、ごく近い未来を予測出来たりすることが分かってきたのさ」
なるほどミコの容貌は見慣れないものでした。頭に巻いた布からは縮れた髪の毛が覗いていましたし、遠い異国の出自を思わせる彫りの深い顔立ちをしています。
ミコは山荘の外の夕闇を一瞥すると、椅子から立ち上がり、「さあ、オカシラたちが帰って来るから、そろそろご馳走の準備をしとかないとね」と云いました。「あなたたちは、此処でのんびりしてるといいよ」