小説『またね』 | 『にゃんころがり新聞』

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またね

 

 

 

さかもとさん

 

 

 

 

私は小さいころからひな人形が嫌いでした。一年に一回しか出さないからか少し湿ったにおいもとても嫌いで、3月になるのが毎年憂鬱で仕方ありませんでした。

小さいころ、親が寝た後にリビングでテレビを見たりゲームをしたりしていた時期がありました。次の日学校があることも早く寝なきゃいけないこともわかっているのに夢中になっていて夜遅くまで起きていました。
しかしそんな私もひな人形が出る季節になると、夜更かしなんてせず、親と一緒に寝室に向かいます。あの細い目でにらまれるとすべての行動が悪いことかのように感じてならないのです。できれば人形と私の二人きりにはしてほしくないのです。なぜ私は女の子に生まれてしまったのか後悔しました。そして小学校低学年も終わるころ、母親に訴えました。

「もう、3月になってもひな人形出さないで!あの真っ白な顔気持ち悪い!」

私の記憶の中では最初の反抗期だった気がします。そして言った後、私はとてもすがすがしい気持ちになりました。この数年の悩みの種が取れた気がしました。しかし目の前にいる母親は激怒しました。ただ怒るわけではありません。その怒りの中でとても悲しい感じがしました。そして、幼かった私にもわかるように静かにその怒りの理由を説明しました。

「あのね。あなたにはねお姉さんがいたの」

そんなはずはありません。私は一人っ子です。上にも下にも兄弟はいません。

 「あなたが生まれる2年前。私には赤ちゃんがいたの。でもね、亡くなっちゃったんだ。3月3日に。私はあの子のことを忘れたくなくて、ひな人形を買ったの。嫌でも3月になると思い出すから。そしてしまうときに『また来年会おうね』って言ってバイバイするの」

なんのことかさっぱりわかりませんでした。でも会えないお姉ちゃんがいることと、そのお姉ちゃんがひな人形だってことはなんとなくわかりました。

「でも、いつまでも過去を見ていても始まらないよね。何かにすがっていてもはじまらない!よし、来年は新しいひな人形を買おうか!」

私は、来年はひな人形が二つ並ぶと思い、その人形に「またね」と声をかけました。


しかし次の年は私が選んだ人形だけが並び、今まであった人形はどこかへ行ってしまいました。


そして20年の月日が流れました。
私はおばさんになり仕事もし、ひな祭りどころかクリスマスもお正月までもありません。
母親も1年前の4月に亡くなり、今日は初めての母親がこの世にいないひな祭りです。とはいっても特別何かをするわけでもありませんが、やっぱり「もういないんだな」と思ってしまいます。家で一息ついているとインターホンが鳴りました。

「宅急便です」

出てみると差出人は母親になっていました。一年も前に亡くなっている母からの贈り物。怪しいのは十分わかっていますが、どこか母の面影を感じていたくて受け取ってしまいました。そして、中を開けてみたらあの時私が大嫌いだった人形が入っていました。「また会えたね」という手紙とともに。

なんだか私は気味が悪くなって新聞で何重にもして捨てました。罰当たりだとは思いました。でもなんだか嫌な予感がしてならないのです。その次の日からしばらくは何か変なことが起こるのではないかと警戒しました。しかしいつもと変わらない毎日をすごすだけで何も変わりません。

 

そして次の年のひな祭りがやってきました。昨年人形を捨ててしまった出来事なんてすっかり忘れてしまってます。そしてインターホンが鳴りました。

「宅急便です」

とても嫌な予感がしました。出てみるとやはり母親からの贈り物でした。ここで受け取らないのがいいはずですが、どうしても受け取らなければいけない気がしました。中を見てみると捨てたはずの人形が入っていました。そして昨年と違うのはメモのような手紙ではなく、封筒に入った手紙が入っていたことです。

 「私は二度も捨てられました。来年迎えに行きます。『またね』」

これを読み終わったとたん背筋が寒くなって命の危険を感じました。持っていた手紙を破いて捨て、人形も今度は帰ってこれないように粉々にして捨てました。

 

次の年のひな祭り。警戒しながら窓の外を見てみます。外は明るく小鳥は鳴き、とても素晴らしい天気です。今日もいつもと変わらない毎日だ。そう思っていると…。


インターホンが鳴りました。

 

 

 

 


END

 

 

 

 

 

 

 

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