ショートストーリー『ジョンを処分する』(作/aikawa) | 『にゃんころがり新聞』

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ジョンを処分する

 

 

 

 

作/aikawa
 

 

 


土曜日の夕方だった。
郵便受けの中に赤い封筒を見つけた瞬間、まさか、と思わず呟いてしまった。声が聞こえたのか、庭で愛犬のデュークと戯れていたジョンが私の方を向いた。
封筒を開け、中に入っている手紙を読む。
『明日中に、あなたの家にいるジョンを「施設」で処分してください。命令に従わなかった場合、あなたは重い罰を受けることになります』
手が震えた。
近年、ジョンというファーストネームの子供が爆発的に増加し、深刻な社会問題となっている……。
政府はその対策として、国内にいるジョンを処分し、個体数を減らしていく方針を打ち出した……。
ジョンの処分を命じる家庭はランダムで選ばれ、命令に逆らった者には重刑が科せられる……。
とうとう、この時が来てしまったのだ。
「パパ、どうしたの? 誰からのお手紙?」
ジョンがデュークと共に駆け寄ってきた。私は後ろ手に手紙を隠し、作り笑いを浮かべる。
「ただのダイレクトメールだよ。ジョン、そろそろ夕食の支度をする時間だから、家の中に入ろう」

ジョンを処分せずに済む方法はないだろうか?
夕食を食べている間も、ベッドに潜り込んでからも、ひたすら考え続けた。しかし答えが見つかるよりも先に、東の空が白み始めた。
私は隣で眠るジョンの寝顔を見つめた。たちまち目頭が熱くなり、涙が頬を伝った。
ジョンが目を覚まさないよう、私は声を殺して泣いた。

「ジョン、今日はパパとお出かけしようか」
朝食の席で私は提案した。外出するのが好きなジョンは、大喜びでそれに賛成した。
朝食が済むと、デュークに留守番を命じ、私たちは車で自宅を発った。
久しぶりの遠出で心が浮き立っているのか、ジョンはよく喋った。彼がはしゃげばはしゃぐほど、私の胸は締めつけられた。
出発して一時間が経ったころ、ジョンは眠りに落ちた。朝食時に彼に出したオレンジジュースに、私は睡眠薬を投入していた。それが漸く効果を発揮したのだ。


間もなく「施設」に到着した。
建物の中に入り、必要事項を記入した書類を受付に提出する。車まで引き返し、助手席で眠っているジョンを車外に運び出す。
建物の玄関の外で、「施設」の職員が私を待ち構えている。
「ジョン、ごめんね」
ジョンを職員に手渡す。職員はジョンを胸に抱きかかえ、私に背を向ける。
「ジョン、ありがとう」
自動ドアが開いた。職員が建物の中に入り、自動ドアが閉まる。
「ジョン、さようなら……!」

運転席でひとしきりに泣いたあと、私は車を発進させた。
妻に先立たれた私は、一人暮らしの寂しさに耐えられなかった。孤独感を紛らわせるために飼い始めたデュークは、私のよきパートナーになってくれたが、言葉が通じないのが物足りない。
私が向かう先は、町外れの孤児院。
新しい家族の一員には、どんな子供を選ぼう?
どうせ、ジョンというファーストネームの子供しかいないだろうけど。

 

 

 

(おしまい)

 

 

 

 

aikawa

1984年、兵庫県生まれ。

「時空モノガタリ文学賞」第122回の『美術館』というテーマで入賞(作品名は、「小さな大望」)。アイコンは、HebihAEshiri さんに作成していただきました。

 

 

 

 

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