小説『命泣組曲⑥』~ついに姿をあらわした病院の理事長。その驚きの正体とは・・・? | 『にゃんころがり新聞』

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ここまでのストーリーを読んでいない方は、こちらからお読みください。↓

命泣組曲①~⑤

(ここまでのストーリー)

女子大生・虹乃は、ママから頼まれ、一週間、長生病院に被験者として入院することになった。
ところが退院していい頃を過ぎても、病院から彼女にお声はかからない。
虹乃がママと連絡をとりたいと看護婦に申し出ても、
「あなたにママはいません」
と言われたり、虹乃のことをキチ子お母様と呼ぶ謎の中年女・フチ子が現れたり、孫の赤鬼ちゃん、青鬼ちゃんが出現したり、セックス狂いの先生と看護婦が登場したりなど、病院内はなんだかおかしな雰囲気につつまれはじめる。
……追いつめられた虹乃が、病院を脱出しようとするとき目にしたものとは?!

読者を未体験ゾーンへとつきおとす、爆笑のノン・ストップ・エンタテイメント!

 

 

 

 

 

命泣組曲⑥

 

 

 

 

 

文:にゃんく

 

 

 

 

「あたしを元の姿に戻して」
とあたしが言葉をかけると、少年はグラスをテーブルに置いて、

まいごのまいごの おばあちゃん
あなたのおうちは 何処ですか?

と音程のはずれた声で唄いながら、リズムにあわせて爪先立ちをしたり、元に戻ったり、また爪先立ちをしたりを繰り返している。

おうち~をきいても わからない!
なまえ~をきいても わからない!
ゴホ、ゴホ、ゴホホ
ゴホ、ゴホ、ゴホー♪
咳き込んでばかりいる お・ば・あ・ちゃん!

病院の~お医者さま
こまってしまって
ワンワンワワーン
 ワンワンワワン!

「ふざけないで!」
叫ぶあたしの声を愉しむみたいに、理事長はにたつきながら、部屋の奥までスリッパで移動して行き、家庭用冷蔵庫ほどの大きさのダイアル式金庫の前まで行くと、屈みこんでダイヤルをガチャガチャと右に左に回していた。その間も理事長は「いぬのおわまりさん」のメロディーを口ずさんでいた。彼は金庫の扉を開けると、その中を暫くまさぐっていた。
「もしかして、あんたの捜し物はこれですか?」
と言って理事長は、金庫から取り出した試験管を、あたしの方に示してみせた。「あんたの若さのつまった、エキス」
理事長が憎たらしく、黄色い液体の詰まった試験管を鼻先で振っている。
「それは……?」
「あんたの身体から採取はしたが、今はもう、あんたのものじゃない」
「……」
「なぜなら、こいつを使って、ぼくが長生きしなくちゃならないからね。そのための金は、君の母親に支払っているのだからね」
「返して。返してよ」
「まいごのまいごの おばあちゃん♪ あなたのおうちは 何処ですか? ウヒヒヒ」
「あたしを元の姿に戻して!」
理事長はクラスメートの弱い者を虐める時のような残忍な顔つきをした。
「そいつは、できない相談だね。ヒヒ」
理事長は試験管の蓋であるコルクを抜き取った。ポンッという、シャンパンを開ける時のような威勢のいい音がした。
「いくつもの、命が消えてった、この病院で」と理事長は語った。「それら消えて行こうとする命の物語のハーモニーは、とても切なくて哀切感がただよっていたよ。でも、いくら物侘びしげな物語だからといって、そのひとつひとつに理事長である私が同情して、いちいち首を突っ込んでいられると思いますか? そんなこと、できるわけない。人には、それぞれ、立場というものがあるのだからね。君たちは、頂点を支える無数の屍の土台のひとつであり、わたしは、そのうえに君臨する、理事長なのだから」
そう言うと、理事長は大口を開け、瓶の先を下へ傾ける素振りをした。黄色い液体が試験管の先から溢れ落ちようとする。
あたしは怒りのためにガタガタと脚が震えて動けなかった。夢人が、獣のような叫び声をあげて、理事長までの十二、三メートルほどの距離を一息に縮めていった。夢人が理事長から試験管を奪おうとする。理事長はひょいと手を伸ばし、試験管を頭上に持ちあげたり、背中に回したりして隠そうとしている。
「ヒヒヒヒヒ」
一瞬の隙をついて、理事長が試験管を口に咥えて、その中身の液体をゴクゴク喉元に流しこんでいた。夢人が彼の腕を摑み試験管を取り戻したときにはもう、中には一滴の残量も残されてはいなかった。
黄色い液が理事長の唇の端から垂れている。それをシャツの袖で拭いながら、
「ぐはー、不味い。実に不味いね、あなたのエキスは。今までで一番のまずさだ!」
理事長は甲高い子供の声で言った。
夢人が理事長の襟を両手で摑み、
「き、貴様、吐き出せ!」
と言って前後に激しく揺さぶったが、理事長はへらへら笑いながら、悪戯っぽく黄色い舌をペロリと出すばかりだ。
「この野郎!」
夢人が怒って理事長を擲った。理事長の顔が歪み、彼は床に手をついたまま這いつくばっている。それでもしばらくすると、理事長は何度擲られてもまるで痛みを感じない昆虫のように、ヒヒヒヒヒという嫌らしい笑い声をあげはじめる。
夢人はさらに理事長に詰め寄り、彼の首をぎりぎり両手で締めあげた。
「うぐっ、うぐっ……、」
少年の理事長は空中に晒され、足裏を空中でぷらぷらさせながら苦しそうに呻いていたが、突如
「うあああああああ!」
と絶叫をあげはじめた。
数秒後、あまりの苦しみように、夢人が手の力を緩め理事長を床のうえにおろしたが、
「うあ、うあ、うああ!」
と理事長は頭を抱え、苦悶に満ちた表情で床をのたうち回るのをやめなかった。理事長の両目は白目を剥き、口のまわりは自らの白濁した涎で汚れている。
あっけにとられているあたしたちの目の前で、理事長の神々しい変身がはじまっていた。まるで神の手で粘土細工をこねまわすように、彼の頭蓋骨が押し潰され縮小し、脚の長さが不自然に圧縮され、顔のかたちが幼児のそれに変形していった。それに加えて、彼は軀の至るところから、血を吹きだしていた。骨がボキボキ折れる音が聞こえている。
「ああああああ」
想像を絶する苦悶の様に、思わず目をそむけた。
そしてわずか一、二分のあいだに、あたしたちの目の前にあらわれたのは、泣き叫ぶ赤ん坊の姿だった。床で仰向けになっている赤ん坊の脚先に、少年のときに着用していた衣服が丸められて不要物となり果てている。
「オンギャア、オンギャア!」
理事長は生まれたての赤ん坊のように、産声をあげている。
「オンギャア、オンギャア!」
彼の泣き声が部屋のなかでやかましいほどだ。けれども、あたしたちはどう対処してよいのかわからず、ただしばらく彼の姿を見守っていた。
そのとき、背後で、扉をノックする音がした。

 

 

 

(つづく)

 

 

 

 

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