チャーの秘密の大冒険② | 『にゃんころがり新聞』

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ご迷惑をおかけして申し訳ございません。


チャーの秘密の大冒険①の続きになります。
http://ameblo.jp/nyankodoo/entry-12192661139.html

↑①を読んでいない方は、こちらからどうぞ。

チャーの秘密の大冒険②
(文:8 leaves、
絵:ゆきまちふみや)




僕はその瞬間、前のめりになって映像にかじりついた。そうか、チャーはこの子猫を探していたのか。

 子猫は弱っているのか、か細い声でニャー
ニャーと鳴いている。
チャーはしばらくそ
の子猫を見つめた後、首根っこをくわえ段
ボールから引きずり出した。猫はケガして
いるようで、体から血を流している。チャ
ーは一生懸命その傷を舐めた。

辺りに人の気配はなく、夜の訪れとともに
次第に映像が見えにくくなった
チャーは
猫を口にくわえて移動を始めたのか、暗が
りの映像の中に、時々地面にぼんやり浮か
ぶ街灯が映り込み始めた。

 

着いた先は、散歩道の途中にある小学校の
ようだ。薄明かりの中映った見覚えのある
校門を通り抜け、中に入っていく。
下校時
刻はとっくに過ぎ、学校はしんと静まりか
えっている。チャーは校庭を抜け裏門に着
くと、そこで腰を落ち着けたらしい。猫を
降ろし、再び傷口をペロペロと舐め始めた。
相変わらず猫はか細い声で鳴き続けている。

 そのまま猫を自分の体で守るようにして、
チャーも眠ってしまったようだ。映像が動
かないまま数分が経過した。

 僕は大慌てで映像を早送りした。日が昇
り動き出した映像の中でチャーは、再び猫
の傷を舐めていた。ひとしきり舐め終わる
とまた口にくわえ、学校を後にした。

 早朝になり人通りが増えていた。チャー
の視点から見る人間は大きく、なんだか僕
まで犬になった気分だ。
映像の中で2匹を
見た人たちはチャーが猫をいじめていると
思ったのか、手当たり次第にチャーから猫
を奪おうとした。いつもの散歩コースを外
れたので、チャーのことを知っている人は
少ないようだ。

何かされるたびにチャーが「うううう」と
威嚇するもんだから、
人々は躍起になって
カバンを振り回したり、チャーのお尻をぺ
ちんと叩いたり、首に着いたままのリード
を引っ張ろうとしたり、次々とひどいこと
をした。
それでもチャーはめげず、ううう
うと唸ったまま駆け足で逃げていった。

 僕は普段怖がりのチャーがこんなに勇気
を出していることに驚いた。

緊張からかいつの間にか呼吸を止めていた
らしい。思わず、ふううううと大きなため
息が出た。

 映像を3倍速にしてチャーの動きを追い
かけた。チャーは一日中食事も水も摂らず
いろいろな場所を行ったり来たりして、夕
方になると駐車場らしき場所でぺたりと座
り込んで動かなくなってしまった。
再び猫
を自分の体で暖めているようで、画面は子
猫の毛でいっぱいになっている。チャーは
子猫の母親になったつもりでいたのかもし
れない。

 しばらくぴたっと映像が動かなくなった
後、突然チャーが勢いよく顔を上げた。

ると2匹の前にある建物から一人の男性が
現れ、2匹の前で立ち止まると、「よいし
ょ」と言いながらチャーから猫を引き剥が
した。チャーは突然のことに驚き、
ううう
うと唸っている。
特に気にせず男性が猫を抱えたまま建物の
中に入ると、チャーは大声で吠えた。いつ
ものかわいらしい鳴き方とはまるで違うそ
の声に、僕はチャーの中の野生を感じずに
はいられなかった。

 チャーはしばらく吠え続けた後、失意の
あまり鳴くのをやめたのか、そのまま映像
が止まった。

 少し経ち、建物から中年の女性が一人出
てきた。チャーに手を伸ばし、「おいで」
と声をかけている。しかしチャーは強く威
嚇し、そのまま走り去ってしまった。

 僕はチャーの悔しさを思い、涙した。そ
れにしてもここはどこなんだろう。手がか
りはないだろうかと、男性が現れたシーン
まで巻き戻してみた。よく見ると、男性は
白衣のようなものを着ていた。
胸にあるネ
ームプレートにヒントはないかと目をこら
してみるけれど、字が小さすぎてよく見え
ない。

 仕方なく映像をチャーが走り去ったとこ
ろまで戻した。チャーはそのままゆっくり
と歩き続けた。徐
々に見慣れた景色も出て
きて、自宅に戻ろうとしていることが分か
った。

 途中疲れてしまったのか、チャーは公園
に立ち寄ることにしたらしい。

ここにはチャーがよく使っている水飲み場
がある。そこで水分補給をするのだろう。
予想通り水飲み場に寄り時間をかけてゆっ
くり水を飲むと、そのまま少しだけ移動し
そこで眠ってしまった。よほど疲れていた
のだろう。

映像は長い間止まったままだったので、早
送りを続けると翌朝になった。チャーが帰
宅した日だ。

チャーは目を覚ますとゆっくりと歩き出し、
自宅に一番近い公園の入り口にたどり着い
た。
自宅に帰ろうとしている。僕はその映像が
過去のモノで、チャーが帰ってきたのは夜
だと知っているのに、その瞬間飛び上がり
たいほど嬉しくなった。

 

 チャーは入り口に着くと何か考え事でも
しているのか、数秒間また映像が止まった。

 どうしたんだろう。そう思った瞬間、チ
ャーがすごい勢いで今来た道を逆戻りして
いった。映像がぐわんぐわん揺れる。
  

 なんだなんだ。僕は訳が分からず、しば
らくその映像から目を背けた。
まともに直
視できないほどの揺れだ。横目でちらちら
画面を見ていると、チャーは昨日子猫を奪
われたあの建物の前で立ち止まり、揺れも
収まった。
はあはあとチャーの激しい呼吸が聞こえて
くる。
 

 チャーは少し経ってから、ワンワンワン
と大声で吠えだした。特に誰か出てくる気
配はない。それでもめげずより一層大きな
声で、ワンワンワンワンと延々吠え続けた。

2、3分経った頃、中から昨日と同じ女性
が出てきた。一つに結んだ長い髪。上下水
色の服。この人はもしかしたら……。

 建物の答えが分かった気がした瞬間、チ
ャーの視点が突然ふわっと高くなった

うやら女性に抱きかかえられたらしい。チ
ャーは抵抗することなく、おとなしく女性
に抱かえられその建物の中に入っていった。

 何匹もの動物が待つ受付、その先にある
廊下、そして1つのドアの前にたどり着く
と、中から無数のニャーとかワンワンとか

いう声が聞こえてきた。間違いない、ここ
は動物病院だ。 

ドアが開き、数歩進んだ先に現れたのは、
小さな檻の中に入った昨晩の子猫だった。
体にガーゼが巻かれている。

 女性はチャーをテーブルの上に置くと、
檻から子猫を出しチャーの前に置いた。

猫はチャーを見るやいなや、ニャーニャー
と鳴き自ら歩み寄った。チャーもすぐに子
猫の顔をぺろぺろと舐めた。

 女性が、「あら、この子猫ちゃん、やっ
と鳴いたわ」と嬉しそうな声を出した。
「あなたがお母さんって分かるのね」

 女性の手が近づいてきて、映像がわずか
に揺れた。チャーの頭を撫でているようだ。

「ありがとう、あなたのおかげでこの子猫
ちゃん助かったのよ。

たぶんカラスにつつかれたんじゃないかと
思う。そこまで傷が深くなかったのが幸い
だったわ。でもあなたに助けられてなかっ
たら、どうなっていたか分からない。本当
に本当にありがとう」

 女性は何度もお礼を言い、満面の笑みを
浮かべてチャーの頭やら顔やらを撫で回し
た。そして首輪をくいっと持ち上げた。

「あら、ここに名前があるわね。チャー
ちゃん。じゃあこの猫ちゃんはあなたの子
だから、チャーリーと名付けましょう。
男の子なのよ」

そう言うと女性はチャーリーを抱え、チャ
ーの顔に近づけ、キスさせるような仕草を
した。

「チャーリーはもう少し手当が必要だからこちら
で預かるけれど、元気になったら里親を探すか
ら心配しないで」
チャーはなんとなく話が分かったのか、
「くーん」と小さい声で鳴いた。

「ありがとう、ご家族も心配しているでし
ょうからもう行きなさい。またいつでも遊
びに来てね」
女性はチャーを玄関まで送り届けた。チャ
ーはゆっくりと歩きながら、何度かその女
性の方を振り返った。女性は笑顔のままず
っと手を振っている。

 


 そして数メートル進むと、チャーはまた
ものすごい
勢いで走り出した。映像がぐわ
んぐわん揺れる。僕はまた画面から目をそ
らし、早送りした。そして見覚えのある景
色があるところで、再生ボタンを押した。

「はあはあはあはあ」

 チャーの激しい呼吸ともに順に現れた
のは、驚きと喜びとで複雑な顔をしてい
る僕、涙で顔をグチャグチャにした母さ
ん、
「おお、帰ってきたか。どうしたこんな
に泥だらけになって」
と嬉しそうにチャーの頭を撫でる父さん。

「ほんと、こんなに汚れちゃって。さあ
お風呂に入りましょうね」

 鼻をすすりながら嬉しそうにチャーに
声をかけている母さんの声が聞こえてく
る。

 僕はモニターの前であの日と同じよう
に涙を流しながら、チャーに声をかけた。

「おかえり、必ず帰ってくるって信じて
いたよ」

 次の瞬間、映像はぶつっと切れた。

 

(完)



○執筆者紹介
『チャーの秘密の大冒険』を執筆して
くださったのは、
8 leavesさん
です。
8 leavesさんは、NY在住フリー
ライター 公文紫都(くもん・しづ)さ
んです。
IT関連企業2社、流通系業界紙の記者を
経て2012年に独立。日米のIT、Eコマー
ス関連企業・サービスの取材・執筆を中
心に、人物・イベント取材や翻訳まで幅
広く手がけられています。個人ブログ
「Purple and the City」

http://shidukumon.com/では、体
重570gで生まれた娘の成長記録や、猫のわらびを題材にした物語、またNY関連の情報などを紹介している。ココナラでは、ペットの写真からインスピレーションを得てオリジナルショートストーリーを作るサービスを販売中です。

 https://coconala.com/users/347754
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○冒頭の挿絵は、ゆきまちふみやさんに描いていただきました。
ゆきまちふみやさんは、音楽とサッカーを愛する、関西贔屓のアーティストさんです。

https://coconala.com/users/281998
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