コミック『アポロの歌』(手塚治虫)のレビュー | 『にゃんころがり新聞』

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 『アポロの歌』(手塚治虫)のレビューです。

 あらすじです。
  近石昭吾は、何度生まれ変わっても、愛する女性、渡ひろみと結ばれない運命を女神によって定められてしまいます。ある時は、戦争中のドイツで。昭吾はドイツ兵に襲われているユダヤ人のひろみを助けますが、自らの父母を殺されたと勘違いしたひろみに撃たれて死んでしまいます。
 生まれかわった昭吾はカメラマンのひろみを乗せて飛行機を操縦しています。ひろみのワガママな注文のために、飛行機は無人島に不時着してしまいます。怪我をしたひろみを手当てした昭吾ですが、帰国した後、昭吾と二人っきりで暮らしていたことが婚約者にわかると婚約者に捨てられるかもしれないと考え、ひろみは昭吾を殺そうとします。やがて二人は和解しますが、通りすがりの船に助けられる直前、火山が噴火し、ひろみは裂けた大地の中に飲み込まれてしまいます。
 次に生まれ変わった時、昭吾はその凶暴性ゆえに精神の治療を受けています。ひろみは昭吾にスポーツを通じて、正常な人間に戻ってほしいと考え、昭吾のマラソンのコーチをしています。しかし、ひろみの愛人が現れ、昭吾を付け回し、車を昭吾にぶつけて、昭吾は瀕死の重傷を負い、死んでしまいます。
 次に昭吾は未来に生まれ変わっていて、そこでは人間のほとんどは死に絶え、合成人間が支配しています。昭吾は合成人間の女王であるひろみに呼び出され、「私が知らない人間の愛の営みを、見せてみよ」と命じられます。拒否していた昭吾ですが、ひろみのことが好きになっていきます。人間の心を持たないはずの合成人間のひろみも昭吾のことをいつしか愛するようになっています。そして二人は…

                              *

 すごいです。作者あとがきを読むと、作者本人はこの作品をあまり好きじゃないように思えてしまうのですけれど、ぼくはとってもいいと思います。
 今さら言うことではないかもしれませんけれど、手塚治虫は先見性に優れていますね。
 クローン技術などが人体に応用されることを予想して1970年代にこの作品を既に書いています。最新の科学技術に対する関心も高かったのでしょう。
 この生まれ変わっては何度も愛する人と結ばれずに死んでいくお話を、4、5回は繰り返しています。そこもすごいところだと思います。普通、2、3回やると絵を書くのも疲れてくるはずなのに、手塚先生は、ますます元気に最後まで書いています。
 この作品は、どちらかと言うと、手塚作品の中ではマイナーな方だと思うのですが、それでもこれだけ深い世界観、奥行きのある構造を持っています。
 やはり手塚治虫は再読してみる価値は今だに衰えていないような気がします。