ゲーテの『ファウスト』からモチーフを借りてきたり、ツルゲーネフ批判、子殺しのテーマなどが作中にちりばめられています。
私は三冊読むのに二十日間ほどかかりました。
大江健三郎氏は、年に一度はドストエフスキーの作品を読んで自分を奮い立たせている、というようなことを言っていたらしいです。
私が感銘をうけた箇所を引用しておきます。
p252「なにをぬかす、この酔っぱらいのくそ野郎! おまえこそ聖像の飾りを剥ぎまわっているくせして、神様の宣伝が聞いてあきれるぜ!」
「いいですかい、ピョートルの旦那、聖像を剥いだことはたしかだし、嘘をつくつもりはねえ、でも、このあっしはね、真珠の玉ひとつ抜きとっただけだ、おめえさんなんかにゃわかるめえが、ひょっとして、そいつは、あっしの涙がその瞬間に変わったものかもしれねえんだ。神様の炉のまえでな。このあっしが受けてきた辱めの償い、ってわけでさ。なんせ、あっしは孤児も同然の身で、なくちゃなんねえ寄るべだってもっちゃいねえ。おめえさん、本で読んだことがあるんだろうよ、昔むかしあるところに、どこかの商人(あきんど)がいて、こいつがまたこのあっしと寸分たがわず、涙ながらにため息ついてお祈りしながら、聖母さまの後光から真珠の玉をかすめ取った。で、そのあとみんなの見てる前で深々と膝をつき、お辞儀して、その分の金をそっくり台座にお返ししたって話。するてえと、庇護の聖母さまは、そこにいたみんなからその商人をそっと衣で守ってくださったっていうじゃねえか。……」
上はピョートルとフェージカの会話部分の引用です。
ちなみに、フェージカはヴェルホベンスキー氏のカード賭博の犠牲となって、売り飛ばされた過去を持つ男です。この会話の前に、フェージカは二人の人間を殺しています。
- 悪霊〈1〉 (光文社古典新訳文庫)/光文社
- ¥967
- Amazon.co.jp
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さてさて、このたび、にゃんくの書評集が本になりました!
ブログ未発表のレビューがほとんどです。ブログ発表済みのレビューも、作品を読み直し、大幅に加筆修正しているものがありま
す。試し読みもできますので、お気軽にご覧下さい。
『小説道場』
本書は、作家になりたいと考えているにゃんくが、体当たりで挑んだ作品の数々から得たものを、出し惜しみなく綴った闘いの記録でもあります。
作品を書くことは、オリンピック選手などのアスリートたちの日々の訓練と同じ、とある作家は言いました。
一文一文を練り上げ、構造を考え、バランスが悪ければ、また一から組み立て直す…。文章を綴ることは、簡単なように見えて、容易ではありません。
選手たちには、合宿のような泊まりがけの訓練や、あるいは町道場など鍛える場があり、お互いに切磋琢磨しながら、自身の技を向上してゆけます。ところが、同じくらい大変な、作家になりたい人のための道場というのは、あまり聞いたことがありません(というか、ないでしょう、多分)。
そこで、作家をめざす人のための道場で鍛錬する、というイメージで書いたのがこの書評集です。
一週間で一作品群、三ヵ月でひととおりの訓練は終わります。
もちろん、作家をめざすつもりのない人も、対戦試合を眺めているだけでも楽しめます。時には「このような読みもあるのか」とのサプライズもあるでしょう。
皆さんも、作家志望者が真剣に取り組むこの「小説道場」に一緒に参加をしてみませんか?
『小説道場』目次
第一週 怪奇小説3本勝負
坂口安吾『桜の満開の下』、『夜長姫と耳男』、『紫大納言』、『青鬼の褌を洗う女』
第二週 リアリズム基本訓練
志馬さち子『うつむく朝』、井岡道子『次ぎの人』、高倉やえ『ものかげの雨』
第二週 リアリズム基本訓練
志馬さち子『うつむく朝』、井岡道子『次ぎの人』、高倉やえ『ものかげの雨』
第三週 エンタメホラーで作風の幅をひろげる
遠藤周作『蜘蛛』
第四週 基本訓練
文学賞受賞作から文章力を学ぶ
田中慎弥『共喰い』、前田隆壱『アフリカ鯰』、『朝霧のテラ』
第五週 戦争青春文学でテーマの大きな作品を書く
シリン・ネザマフィ『白い紙』、『耳の上の蝶々』
第六週 奥義 風俗AV斡旋で人間の業の深さを知る
野坂昭如『エロ事師たち』
第七週 あえて働かないことにより、見えた世界を描く
葛西善蔵『子を連れて』
第八週 詩人から言葉の切れを学ぶ
三木卓『砲撃のあとで』、『K』、『野いばらの衣』
第九週 童話で物語センスを鍛える
アーノルド・ローベル『ふたりはともだち』、ファージョン『ムギと王さま』、『天国を出て行く』
第十週 漫才師の笑いのセンスを取り入れる
又吉直樹『火花』
第十一週 私小説という圧倒的なリアリティ
島尾敏雄『死の棘』
第十二週 外国文学で視野を広げる
フィツジェラルド『冬の夢』、『お坊ちゃん』、ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』
フィツジェラルド『冬の夢』、『お坊ちゃん』、ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』
総仕上げ 歴史小説、自伝的小説で人間・おのれを見つめる
井上靖『死と恋と波と』、『考える人』、『結婚記念日』、『波紋』、
井上靖『死と恋と波と』、『考える人』、『結婚記念日』、『波紋』、
『楼蘭』、『平蜘蛛の釜』、『しろばんば』、『信康自刃、』、『補堕落渡海記』