『キッドナップ・ツアー』角田光代・・・87点(新潮文庫、ジャンル:児童文学)
〈あらすじ〉
小学5年生の夏休みの初日、少女のハルの前に2ヶ月ほど家に帰っていなかった父が現れ、ハルは誘拐された。2人はこのところ行っていなかったファミレスに行き、好きな物を食べたり、海に行って泳いだり、寺に泊まらせてもらい肝試しをしたりする。
しかし、ハルの知らないところで父は何度も母と電話で話し、ハルは親たちの会話には入れない。やがて父の所持金が底をつき、ハルはもっと誘拐されていたいと思うが、自分の意志とは関係なく父との別れはやってくる。
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文章がいい。
小学5年生の少女の視点から眺める世界は、幼すぎず、かといって分別くさい大人のものでもなく、その微妙な中間地点をよく描いていると思う。
そして、魅力的な父との誘拐生活が生き生きと描きだされる代わりに、ハルは父母の不仲の原因や理由は一切知らされない。父母の話に入れてもらえないハルには、父母たちの不仲を修復する術をもたない。
父母の不仲の原因や理由というものに一切触れないのも良いと思う。
著者は「誘拐」というモチーフを『八日目の蝉』という小説でも使っているが、どちらが先かは別として、同じモチーフを使いながら、それを発展させ違った小説を書こうとしているようであるのも興味深い。