『信長の守護神』青来有一・・・73点
本作では、「ジェロニモの十字架」など、取り上げた前2作と異なり、3人称を使って書いています。
そのためか、前2作のような、親の話や、祖母の話を語るようなことはなく、物語の力が薄れているような気がします。
物語に重層性がないというか。
本作も、芥川賞の候補になっています。河野多惠子さんの選評に、「候補になるたびに進歩を示している。今回の作品では、四分の三ほどのところまでは、しっかりした手応えがあった。」と書かれていますが、私はそうは思いませんでした。今思えば、「泥海の兄弟」の方が、意外にお話的におもしろかったなあと思えてきました。
たしかに、キャラの性格とか、描写は克明になされています。
でも、今回は、前2作のような小説に「凄み」がなかったです。
主人公は前2作と同様、ごく普通の人間です。
変なことをするのは、周りの人間(コロク)。
リアルな現実描写の合間に、ファンタジーチックな幻想を挿入するのも、同じ手法です。
青来さんは、漫画家を目指していたこともあるらしい。
ペンネームの由来は、「セーラームーン」だそうです
<あらすじ>
「信長の敵」というゲームがヒットし、映画化までされる。大学受験をひかえた宇一郎は、映画関係の仕事をしたいため、この映画のエキストラとなる。同じ兵隊の役として、コロクという青年がおり、宇一郎は、ある日、コロクと共に、信長役の俳優たちの催したパーティーに出向く。
そのパーティーで、宇一郎は、知らない間にマリファナを吸わされ、コロクは俳優の黒人男性と肉体関係?を結ぶ。
以前から、ダースベイダーのような格好をしたバイクを乗った犯人に、被害者が車に乗ったまま前後のガラスを叩き割られるという事件が起きていたが、ある日、宇一郎は、コロクの部屋に鉄パイプが転がっているのを見て、コロクを追及する。が、コロクは、大きい木が唸るように話しかけてくる、とか、架空のテレビゲームに没頭し、女子高生を箱に閉じ込め、その箱をめった打ちにすると、尻の穴からビタミンカラーのゼリーが出てきて楽しい、などと意味不明なことを言う。コロクは警察に自首し、連行される。
映画撮影は信長役の俳優たちがマリファナの件で連行されたために、中止を余儀なくされる。