『泥海の兄弟』青来有一・・・81点
オニゲンとキンロウという兄弟と、ユタカと僕という義兄弟の関係が対比されています。
オニゲンは弟のキンロウ思いですが、キンロウは兄に不誠実です。
ユタカと僕は、子供だからか、最後まで「きょうだい」「きょうだい」と相手を大事にし、助け合っています。そこは父のオニゲンたち実の兄弟とは違うところです。
この人の作品には、読み出したら止められないおもしろさがあると思う。
干潟というリアリティの世界はガッチリ作って、その中に「たましい」を飛ばしたりするファンタジーの世界を織り交ぜています。
それは前作の「ジェロニモの十字架」でも同じです。
細部のリアリティが、ジェロニモの神への変化という謂わば非リアリティを支えています。
今作は、前作に比べ、物語性により重点がおかれているせいで、作品としての重みや濃密さは、薄れているような感じ。
オニゲンの悪口を言う小母さんの配置など、脇役の使い方もうまいと思う。さりげなく登場させておいて、あとからまた登場させて、悪口を言わせる。その悪口がないと、オニゲンも組長の腹を刺しにいけない。
以下、ネタバレあり。
<あらすじ>
関西から引っ越した中学生の僕は、ユタカという青年と「きょうだい」と呼び合うほどの友人になる。ユタカには、オニゲンという父親がいて、オニゲンにはキンロウという弟がいる。
昔、オニゲンとキンロウは関西でヤクザをしていたことがあり、キンロウは組の金を横領し、殺されそうになるが、オニゲンは機転を利かし、キンロウが死ぬほどの凄惨なリンチを加え、弟の命を救う。当の弟は、故郷である九州の有明海に戻ってくると、兄のその行為をありがたく思うどころか逆に、「兄に裏切られた。」といって、兄を恨む。
キンロウは故郷で再びヤクザをする。オニゲンはカタギになって有明海に帰ってくる。ある日、キンロウが行方不明になり、数日後、鼻、耳をそぎ落とされ、目をくり抜かれ、焼かれた死体で有明海の干潟の泥の底から引っ張り出される。
沖へ行きたいという僕をユタカが連れて行く。干潟の泥の上を、滑板という板を一枚使って、ユタカは上手に飛ぶように前に進んでいく。が、僕は下手で進むのが遅い。隣町の中学生とすれ違い、「弟が殺されても、何もやりかえさない弱虫の息子か。組から金をもらって。」とユタカが悪口を言われる。ユタカは殴りかかるが、逆にユタカと僕は中学生たちに殴られ、泥海に倒れる。夕方になり、やっと起き上がった僕たちは、家路を急ぐ。そこでユタカは光の玉が空から降り注いでくるという不思議な体験をする。僕は帰り道、沼の底に埋もれていたコーラの割れた瓶を踏んでしまい、足がざっくり割れてしまい、破傷風の熱を出し、入院する。
オニゲンは組長の腹を刺し、自らも傷を負うが、準備していた舟に隠れ、その舟でこっそり対岸へ逃げようとする。ユタカはオニゲンについて行こうとするが、オニゲンに諭され、必ず合流することを約束する。「やられたからといって、やりかえしていては、果てしがない。許す方が勇気がいる。」とユタカはオニゲンに諭される。
次の日、有明海に浮かぶ舟の中で死んでいるオニゲンが発見される。
ユタカは学校を転校することになり、僕の前から姿を消す。