2gether ~恋する気持ち(SaraTine)二次創作小説~ | 海に焦がれて

海に焦がれて

タイの沼にずぶずぶにはまりまして、最近では台湾・中国のドラマにもはまっております。同じような経験をしているみなさんと交流を持てたら良いなと思っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『恋する気持ち(SaraTine)』

 

 

 

 



一緒に暮らし始めて数週間。
過ごす時間が増えると、今までよりもどんどんSarawatを好きになっていく。
整った顔が、ふわっと笑顔になる瞬間。
欲望の宿った瞳で見つめられた瞬間。
練習と言いながらギターで愛を奏でる瞬間。
触れ合う手。
揺れる前髪。
どれをとっても完璧で、好きの加速に繋がっていく。



「Tine・・・・・・」



Watを見てぼーっとしていると、怪訝な顔で名前を呼ばれた。



「えっと・・・何?」



慌てて返事をすると、ますます眉間にシワが刻まれる。



「何見てんの?」



ふぅっとため息をつかれると、正直に話していいものか躊躇う。
まだ、この距離感に慣れてない。
相手が女の子だったら耳元で愛を囁いて、好きな気持ちをたくさん伝えるだろう。
だけど、自分が無限に愛されるということに、まだ戸惑いがある。
愛されることに慣れていないから、好きだと伝えることにも戸惑ってしまう。
それが、Watを不安にさせていないことを祈りつつ。


「あー・・・・・夕飯何にしようかなって思って。」



慌てて話を逸らした俺を、Watがじっと澄んだ目で見つめる。
納得していないのかもしれない。
もう一度深くため息をついて、Watは優しく微笑んだ。


「何が食べたい?」



優しく頭を撫でられると、心臓がぎゅっと痛くなる。


「あ・・・・今日は俺が作る。ちゃんと、親に作り方教えてもらったから。」



毎日買い弁をしていた俺たちだけど、そろそろちゃんと料理をした方がいいと思うようになった。
自分の事には意外と無頓着なWatの健康管理にもなるし。
じっとWatを見ると、キョトンとした目で俺を見ている。
何か変なことを言ったんだろうか。
少し動揺して目が泳いでいる俺を、Watが優しく包み込んだ。



「ありがとう。お前は本当に可愛いな。」



耳元で囁かれる。
自分から愛を伝えるのは苦手だけど、こうやって囁かれるのは好きだ。
ただ、俺はこれから起こるであろう展開を想像すると、素直に喜べないでいる。
絶対に、大嵐が巻き起こる。
想像するだけで気が重くなる。
いつまでも纏わりついて離れないWatを引き離して、俺は親に教わった通りにご飯を作り始めた。
慣れない手付きで野菜を切る俺を横で見ながら、Watは目を細めて笑っている。
時折写真を撮りながら、片手でコーヒーを飲む。
何をしていても絵になる男だ。
不器用ながらも、簡単なレシピに救われてなんとか夕飯が整った。
味付けもWat好みだったらしく、会話も盛り上がって楽しい夕食のひと時がすぎた。
さてこれから片付けと言う時、俺はそっとWatの手を掴んだ。



「えっと・・・・・Wat・・・話があるんだけど、いいかな。」



改めて話す俺に、Watが怪訝な表情で見る。
立ち上がろうとしていたのをやめて、椅子に腰を下ろす。



「あの・・・・・俺、バイトしようと思うんだ。」



恐る恐る想いを口にする。



「ダメ」



表情を変えずに、Watはズバリと切り捨てた。
こうなることは分かってた。
分かっていたけど・・・・・・。



「でも、このままじゃ俺ダメなんだ。
 親に仕送りしてもらって、Watに世話になってばっかりで。
 俺も何か頑張りたいんだ。
 ねぇ・・・・・Wat・・・お願い。
 俺たちの生活に支障がないようにするから。
 お願い。お願いお願い。」



手を握って、じいっとWatを見る。
何か言いたげなWatだったが、俺は知ってる。
Watが俺の頼みを断れないのを。



「あと、Fongも一緒にやろうって話をしてるんだ。
 それなら、問題ない・・・でしょ?」



一生懸命目で訴える。
はぁっと力強くWatがため息をついた。



「分かったよ、Tine。
 でも、少しでも俺たちの生活に影響があるなら辞めてもらうから。」



これ以上言っても俺の意志が変わらないと思ったのだろう。
Watは面白くない表情で認めてくれた。



「ありがとう!!愛してる」



これは、勢いで出てしまった。
でも、恥ずかしさよりも喜びが優っている。
その言葉に、Watがにやりと口角を上げて笑った。
バイト先はもうすでに決まっている。
Fongと2人で面接を受けて、どちらも受かった。
明日すぐ来てほしいと言われているので、今日Watを説得できて良かった。
思い切り不機嫌になられたらどうしようかと思っていたから。



「それで。俺にTineは何してくれるの?」



さっきまでの優しい笑みが消えている。
見下ろすような視線のWatに、嫌な予感しかしない。



「何・・・・・してくれるって?」



視線が泳いで、動悸が激しくなる。
こう言う時の嫌な予感は、意外と当たる。



「俺はバイトを許可したけど、Tineは何をしてくれるの?」



こういう王様的な部分は、何も変わっていない。
きちんとした報酬を払えと言ってるんだろう。
俺は、「えっと・・・・」と言葉を濁しながら、思考を働かせる。
どうしたらいいんだろう。
何をしたらこの王様のご機嫌を上昇していけるんだろう。



「皿洗いする」



思いついたから言ってみた。
面倒くさい皿洗いなんてWatはしたくないだろうと。



「いい。俺がする。」



俺はガックリと肩を落とす。
これでは王様のご機嫌は斜めのままらしい。



「あー・・・・・じゃぁ、マッサージ!!」



一生懸命考えても、Watのして欲しいことがわからない。
Watが少し考える仕草をする。



「マッサージってどこを?」



俺は持っていたタオルをWatの顔に投げた。



「エロい想像ばっかりするな」



タオルを顔から取ると、Watは整った顔で優しく笑った。
心臓が激しく動く。
いつになったら慣れるんだろう。
完璧に整ったこの恋人の笑顔を見ると、気持ちがざわついて落ち着かない。
俺は視線を逸らすと、2人分の皿を持ってキッチンへ向かった。
Watのことを心から愛してる。
その気持ちに押しつぶされそうになる。
自分のペースが乱されて、どうやって動けばいいのかわからなくなる。
水を出すと、俺は勢いよく皿にかけた。
自分の気持ちを打ち消すように。

 

 

 

 

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次の日、渋々送り出してくれたWatに見送られながら、俺はバイトへと向かった。
すでに着いているFongが入り口で俺に手を振っている。



「お前、よくバイトを許可してもらえたな」



クスクス笑う友を、軽くにらむ。



「お前のおかげだよ。1人だけだったら許してもらえなかった。
 本当の目的を言うわけにはいかないから。」



もしFongがいなかったら、今ここに俺はいなかっただろう。
Fongは困ったように微笑んだ。



「束縛が強い彼氏を持つと大変だな」



Fongに肩をポンポンと叩かれながら、俺たちはバイト先の喫茶店へと入って行った。
そこは木がベースになっているお洒落な喫茶店だった。
大学の近くということと、時間が自由に選択できるということで選んだ。
Fongは新しい出会いを求めて、一緒に働くことを決めたらしい。



「初めまして。僕はバイトリーダーのBankです。
 わからない事があったら、何でも聞いてください。
 同じ大学で同い年だから、肩肘張らないで気軽に話しかけて。」



俺よりも少しだけ背は低いけれど、Watに負けないくらいの美貌の好青年。
にこっと笑う笑顔が優しくて、男でも思わず見惚れてしまうくらいだ。
動く彫刻のような美しさを持つWatと比べるのなら、ファンタジーに出てくる妖精のような儚さをもった美しさ。
Tine以外には冷たいイメージのWatに比べると、Bankは陽だまりのような柔らかさを持っている。
どれほど怖いバイトの先輩がいるのだろうと緊張していた俺とFongは、視線を合わせてふっと笑った。
店は比較的小さめだが、Bank目当ての客が途切れる事なく訪れる。
客数は多いが、ほとんどがご指名で来ているので俺たちはBank程の忙しさはなかった。



「あっ・・・・・・」



コーヒーのカップを持ち上げた時、思っていたよりも容器が熱く手が滑った。
幸い厨房内でカップが割れたため、お客さんには迷惑はかからなかった。
ただ、思い切り手にかかってしまい、ズンとした痛みが右手を襲った。



「Tine!!」



後ろから声をかけられたかと思うと、右手を思い切り引かれた。
すぐに厨房の水道の水を右手に当てられる。
冷たい水が熱い箇所を冷やしていく。
後ろから抱きしめられるみたいに、Bankが俺を包み込んでいる。
キレイな顔が俺のすぐ横にあって、俺の心臓がドクンと揺れる。



「大丈夫?」



優しく囁かれて、俺は何度も首を縦に振った。
痛みが冷水に沈められていく。



「キレイな手に痕が付いたら大変だよ。
 赤くなってるところは、薬を塗ったほうがいい」



Bankの右手に手首を掴まれ、左手で優しく手を撫でられる。



「あ・・・・・ありがとう」



優しいBankの声に、気持ちが落ち着いていく。



「君のためなら何でもするよ。Tine」



フワリと頭を撫でると、Bankは新しくコーヒーを作って厨房を出て行った。
出しっぱなしの水と早く動く心臓に、頭が付いていかない。
今のは、何だったんだろう。



「Tine、大丈夫?」



Fongが話しかけてきて、はっと我にかえる。
手を見ると、少しだけ赤くなっていたが痛みは薄れていた。



「大丈夫・・・・・」



俺の表情に首を傾げながら、Fongは「なら良かった」とだけ言った。
さっきの囁きが耳から離れない。
厨房から出ると、Bankはファンの女の子たちに優しく微笑んでいる。
赤くなった手が、ずきっと音を立てた気がした。









「これ何?」



キレイな顔が怒ると怖い。
まるで大魔王のような表情で、Watが俺の右手を掴んでいる。
あの後、大丈夫だと言う俺を制止して、Bankが包帯を巻いてくれた。
火傷と言っても赤くなって終わっているのに、大袈裟に包帯を巻かれていることでWatには隠しようがなかった。



「あ・・・・えっと・・・・・・バイトで熱いコーヒーこぼしちゃって・・・」



俺の手なのに、俺以上に怒ってる。
右手で俺の右手を掴んで、左手は自分の腰に置いて思い切り見下ろされている。
ものすごく、怒っている。



「それで。自分で巻いたの?」



怒っている時のWatには逆らってはいけない。
俺が数週間で学んだスキルだ。



「い、いや、バイトのリーダーが巻いてくれた」



ふわふわと笑うBankの笑顔を思い出して、気持ちがざわつく。



「そのバイトのリーダーって、男?」



威圧的なWatに、泣きそうになる。



「・・・・・・・うん」



今日一日頑張ってやっと恋人との時間ができたのに、その恋人が怒り心頭になっている。
気分はトホホだ。



「俺以外が、Tineに触ったの?」



怒りの矛先がずれていく。



「い、いや、片手じゃできないから。
 巻いてくれたんだよ。バイトのリーダーが。」



善意で手当てをしてくれたBankさんに申し訳ない気がして、一生懸命に説明する。



「なんで俺のこと呼ばないの?」



唇を尖らせるWatに、俺は一瞬キョトンとする。
脳に情報が回ると、口元が緩んできた。



「なんでお前のこと呼ぶんだよ」



そう言いながら、独占欲で縛られることに快感を覚える。



「お前が怪我した時、お前が倒れた時、お前が泣きたい時、側にいるのは俺じゃなきゃダメだ。」



まっすぐ俺を見るWatから視線が離せない。
こんなに愛されて、こんなに求められて。
これ以上の幸せはあるんだろうか。
感謝の気持ちを言うのも照れ臭くて、俺は下を向いた。
自分では見えないが、熱くなっている耳は赤いかもしれない。



「お前、まだバイトするの?」



置いていかれる子犬のようにシュンとした目で見られて、気持ちはお母さんだ。



「うん・・・・・あ、でも、今度から気をつける」



ものすごく緊張するが、ぎこちない手つきでWatを抱き寄せる。
フワリとWatが俺の懐に入り込んだ。
ふっと笑った気がした。



「次怪我して帰ってきたら、バイト辞めてもらうから。」



俺の胸でつぶれた声に、思わず苦笑いする。
ヤキモチを妬いてくれるのが嬉しい。
寂しがってくれるのが嬉しい。
心配してくれるのが嬉しい。
それが、俺だけじゃないって思えるから。
俺の胸に顔を埋めながら、隙間から僕の右手を撫でる。
納得いかないのか、何度もなぞるように触れる。



「Tine。お前が傷つくと、俺の心も傷つく。
 頼むから、気をつけて。」



下を向いて表情は見えないが、Watは落ち込んだ声でいう。



「・・・・うん」



自分でしたくてした怪我ではないけれど、これ以上Watを悲しませたくない。
俺はこくんと頷いた。
顔をあげたWatと目が合うと、一瞬息が止まる。
こんなに一緒にいるのに、なんで俺はこの瞬間に慣れないんだろう。
毎回、それが初めてのことみたいで。
毎回Watに恋に落ちる・・・・・・。
俺たちは、どちらからともなくゆっくりと近づいた。
そっと触れ合う唇に、熱を感じる。
この気持ちをどうやって外に出せばいいんだろう。
好きだといえばいいのかな。
でも、好きという言葉だけじゃ物足りない。
もっともっといろんな感情が入り混じっている。
こんな感情を抱くのは、後にも先にもこの人だけだろう。
重なった唇から、そっと息を吹き込まれる。
その瞬間、俺たちは一つになった気がした・・・・・。




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“ごめんTine。今日代わって”



Fongからそんなメッセージが届いたのは、チアが始まる直前。
さっきまで一緒にいたんだから、その時に言ってくれれば良かったのに。
少しだけふて腐れながらも、俺は“いいよ”とだけ返信した。
幸いチアはパート練習だから休んでもいいと言われたため、俺はバイト先へと急ぐ。
店は相変わらず満員御礼だ。



「やぁ、Tine」



Bankがふわりと笑って俺を出迎えてくれた。
整った顔に優しい声。
一日の疲れがぶっ飛ぶくらいの癒し感。



「あ、こんにちは」



お辞儀をすると、Bankは困ったように笑った。



「同い年で同じ学科だよ。タメ語でいいよ。」



ふわりと笑うBankに、俺もつられて笑顔になる。



「あー・・・うん、ありがとう・・・」



照れ臭くてへらっと笑ってみる。



「Tineは可愛いね。」



優しく頭を撫でられる。
いつもWatがしてくれているのとはちょっと違う。
でも、その手つきは優しい。



「あ、俺、着替えてくる」



その手からやんわりと逃げるように、俺はスタッフルームへと急いだ。
心臓がドキドキ動いている。
急いで着替えるとフロアに出る。
フロアでは、Bankがファンに囲まれている。



「Bankさん、好きな人とかいないんですか?」



ファンの子の1人が言う。



「いるよ。片想いだけどね」



優しく笑うBankが振り返って俺に笑いかける。
俺はぱっと目を逸らすと、溜まっているお皿を洗うために厨房へと戻った。
こういう時、無性にWatに会いたくなる。
水の中にジャブジャブとお皿を入れて洗う。



「Tine・・・・・Tine・・・・・お客様だよ」



フロアから呼ぶ声がして、俺は慌ててフロアへと向かった。
観葉植物の隣の席で、木漏れ日に目を細めているWatが俺に手を振る。
光の効果で、天使感が増す。
Bank目当ての客も、Watに見惚れている。



「Wat!どうしたの?」



驚きと照れ臭さと嬉しさが混じって、変な気分。
そんな俺を見て、Watが優しく笑った。



「Tineがどんなところで働いているのか、見てみようと思って。
 Typeさんにも写真送ってあげたいし。」



そっと包帯の取れた右手をとられる。
俺は、くすっと笑う。



「兄のことまでありがとう」



そう言うと、Watは眉間にシワを寄せる。
そして、俺の手を思い切り引いた。
身体のバランスを崩して、俺は思い切りWatの上に体重を預けた。
抱きしめるような形で俺を受け止めたWatは、まだ眉間にシワを寄せている。



「Tine。そんな可愛い顔で笑うのは俺の前だけにして。」



そんな囁きを耳に落とす。



「Tine!!お客様の上に乗ったらダメだよ。
 お客様、失礼しました。」



後ろから来た声と力強く掴まれた腕。
俺は勢いよくWatから引き離された。



「お客様、大変ご無礼をいたしました。」



静かに頭を下げるBankを、Watは静かに見ている。
僕の二の腕には、まだBankの手があって身動きが取れない。
ぱしっという音がして、俺の腕から温もりが消えた。
何が起こったのか分からず辺りに視線を移すと、WatがBankの手を払ったことに気づく。
あまりにも突然のことに、Bankもキョトンとしている。



「Wat!!」



思わず名前を呼んで、俺は改めてWatの怒りに気づいた。



「俺の恋人に、気安く触るな」



こういうところは変わっていない。
俺はがくりと首を垂れた。
気安く触るも何も、Bankは俺を起こすために掴んだだけなのに。



「恋人?」



Bankがじっと俺をみる。
あぁもう。
余計な情報をどんどん提供して。



「あ、あー・・・・・・・えっと・・・・はい」



言うのが嫌と言うよりは、俺は内心気にしているんだと思う。
Watの隣に俺はふさわしくないと。
だから、恋人だって自信を持って言えないでいる。



「そっか・・・・・・・・」



Bankは困った表情で笑った。



「君の恋人に触れて嫌な気持ちにさせてごめんね」



Watに向かって優しく言うと、やり過ぎたと顔に出ているWatは「こっちも・・・ごめん」とだけ言った。
それにしても・・・・・・・
キレイな顔が二つある、
そこにいる自分は、とても場違いな気がした。
フロアの視線は、もちろん2人の男に注がれている。



「Tine。ちょっといいかな」



Bankに促されて、俺は控え室へと向かった。
代わりにフロアにスタッフが入ると、チラホラと帰り支度をする人の姿も見えた。
控え室に入ると、Bankは鍵をガチャリとかけた。
ギョッとして振り返ると、困ったようにBankは笑う。



「大事な話をする時に、邪魔されたくないから。
 たまに過激なファンが入ってきたりするんだ。」



そう言うと、ソファーに腰掛けるように促された。
言われるがまま、俺はソファーに腰掛ける。
隣に腰を下ろしたBankは、深くため息をついた。
いつも笑顔で穏やかなBankがため息をつくことは、すごく珍しい。
俺はその横顔をじっと見た。



「まいったな。
 君の恋人がSarawatだったなんて。」



心の底から困ったような声に、俺自身も戸惑いを隠せない。



「彼はすごく人気がある。僕のところにも噂はたくさん届いてる。
 実際に会うのは今日が初めてだったけど。
 噂通り、キレイな人だね。
 人気があるのもわかる。
 でも、彼は君に釣り合うの?」



じっと澄んだ瞳に見つめられて、俺の息が止まる。
自分でも気付いていたし、SNSでの書き込みでも見かける言葉。
俺はWatに釣り合わない。
ぎゅっと自分の掌を握りしめた。



「俺たち、似合わないですよね。
 分かってるんです、Watの隣に俺は釣り合わないって」



ぐっと唇を噛むと、優しく掌が包み込まれる。



「そんなことないよ。Tine。僕が言いたいのは、彼が君に釣り合わないって言ってるんだよ。
 君は自分が思っているよりももっと魅力的だ。
 君が笑ってくれたらみんなが笑顔になる。
 僕は、そんな君が好きだ。」



ふわりとBankが微笑む。
肩の力が抜けた気がした。
今まで俺はWatの隣にいようと思って必死になっていた。
それは、嫌われないように。
失わないように。
でも、今ここには、自分を認めてくれる人がいる。
そのままでいていいんだと言われて、張り詰めていたものが解けた気がした。



「あー。ありがとうございます。
 でも、あの・・・・・・俺にはWatがいるので。」



何に対しても、断ると言うのはあまり好きじゃない。
相手を無条件で傷つけることになるから。
Bankは静かに微笑んだ。








続く(next)