『恋する気持ち(SaraTine)』
一緒に暮らし始めて数週間。
過ごす時間が増えると、今までよりもどんどんSarawatを好きになっていく。
整った顔が、ふわっと笑顔になる瞬間。
欲望の宿った瞳で見つめられた瞬間。
練習と言いながらギターで愛を奏でる瞬間。
触れ合う手。
揺れる前髪。
どれをとっても完璧で、好きの加速に繋がっていく。
「Tine・・・・・・」
Watを見てぼーっとしていると、怪訝な顔で名前を呼ばれた。
「えっと・・・何?」
慌てて返事をすると、ますます眉間にシワが刻まれる。
「何見てんの?」
ふぅっとため息をつかれると、正直に話していいものか躊躇う。
まだ、この距離感に慣れてない。
相手が女の子だったら耳元で愛を囁いて、好きな気持ちをたくさん伝えるだろう。
だけど、自分が無限に愛されるということに、まだ戸惑いがある。
愛されることに慣れていないから、好きだと伝えることにも戸惑ってしまう。
それが、Watを不安にさせていないことを祈りつつ。
「あー・・・・・夕飯何にしようかなって思って。」
慌てて話を逸らした俺を、Watがじっと澄んだ目で見つめる。
納得していないのかもしれない。
もう一度深くため息をついて、Watは優しく微笑んだ。
「何が食べたい?」
優しく頭を撫でられると、心臓がぎゅっと痛くなる。
「あ・・・・今日は俺が作る。ちゃんと、親に作り方教えてもらったから。」
毎日買い弁をしていた俺たちだけど、そろそろちゃんと料理をした方がいいと思うようになった。
自分の事には意外と無頓着なWatの健康管理にもなるし。
じっとWatを見ると、キョトンとした目で俺を見ている。
何か変なことを言ったんだろうか。
少し動揺して目が泳いでいる俺を、Watが優しく包み込んだ。
「ありがとう。お前は本当に可愛いな。」
耳元で囁かれる。
自分から愛を伝えるのは苦手だけど、こうやって囁かれるのは好きだ。
ただ、俺はこれから起こるであろう展開を想像すると、素直に喜べないでいる。
絶対に、大嵐が巻き起こる。
想像するだけで気が重くなる。
いつまでも纏わりついて離れないWatを引き離して、俺は親に教わった通りにご飯を作り始めた。
慣れない手付きで野菜を切る俺を横で見ながら、Watは目を細めて笑っている。
時折写真を撮りながら、片手でコーヒーを飲む。
何をしていても絵になる男だ。
不器用ながらも、簡単なレシピに救われてなんとか夕飯が整った。
味付けもWat好みだったらしく、会話も盛り上がって楽しい夕食のひと時がすぎた。
さてこれから片付けと言う時、俺はそっとWatの手を掴んだ。
「えっと・・・・・Wat・・・話があるんだけど、いいかな。」
改めて話す俺に、Watが怪訝な表情で見る。
立ち上がろうとしていたのをやめて、椅子に腰を下ろす。
「あの・・・・・俺、バイトしようと思うんだ。」
恐る恐る想いを口にする。
「ダメ」
表情を変えずに、Watはズバリと切り捨てた。
こうなることは分かってた。
分かっていたけど・・・・・・。
「でも、このままじゃ俺ダメなんだ。
親に仕送りしてもらって、Watに世話になってばっかりで。
俺も何か頑張りたいんだ。
ねぇ・・・・・Wat・・・お願い。
俺たちの生活に支障がないようにするから。
お願い。お願いお願い。」
手を握って、じいっとWatを見る。
何か言いたげなWatだったが、俺は知ってる。
Watが俺の頼みを断れないのを。
「あと、Fongも一緒にやろうって話をしてるんだ。
それなら、問題ない・・・でしょ?」
一生懸命目で訴える。
はぁっと力強くWatがため息をついた。
「分かったよ、Tine。
でも、少しでも俺たちの生活に影響があるなら辞めてもらうから。」
これ以上言っても俺の意志が変わらないと思ったのだろう。
Watは面白くない表情で認めてくれた。
「ありがとう!!愛してる」
これは、勢いで出てしまった。
でも、恥ずかしさよりも喜びが優っている。
その言葉に、Watがにやりと口角を上げて笑った。
バイト先はもうすでに決まっている。
Fongと2人で面接を受けて、どちらも受かった。
明日すぐ来てほしいと言われているので、今日Watを説得できて良かった。
思い切り不機嫌になられたらどうしようかと思っていたから。
「それで。俺にTineは何してくれるの?」
さっきまでの優しい笑みが消えている。
見下ろすような視線のWatに、嫌な予感しかしない。
「何・・・・・してくれるって?」
視線が泳いで、動悸が激しくなる。
こう言う時の嫌な予感は、意外と当たる。
「俺はバイトを許可したけど、Tineは何をしてくれるの?」
こういう王様的な部分は、何も変わっていない。
きちんとした報酬を払えと言ってるんだろう。
俺は、「えっと・・・・」と言葉を濁しながら、思考を働かせる。
どうしたらいいんだろう。
何をしたらこの王様のご機嫌を上昇していけるんだろう。
「皿洗いする」
思いついたから言ってみた。
面倒くさい皿洗いなんてWatはしたくないだろうと。
「いい。俺がする。」
俺はガックリと肩を落とす。
これでは王様のご機嫌は斜めのままらしい。
「あー・・・・・じゃぁ、マッサージ!!」
一生懸命考えても、Watのして欲しいことがわからない。
Watが少し考える仕草をする。
「マッサージってどこを?」
俺は持っていたタオルをWatの顔に投げた。
「エロい想像ばっかりするな」
タオルを顔から取ると、Watは整った顔で優しく笑った。
心臓が激しく動く。
いつになったら慣れるんだろう。
完璧に整ったこの恋人の笑顔を見ると、気持ちがざわついて落ち着かない。
俺は視線を逸らすと、2人分の皿を持ってキッチンへ向かった。
Watのことを心から愛してる。
その気持ちに押しつぶされそうになる。
自分のペースが乱されて、どうやって動けばいいのかわからなくなる。
水を出すと、俺は勢いよく皿にかけた。
自分の気持ちを打ち消すように。
次の日、渋々送り出してくれたWatに見送られながら、俺はバイトへと向かった。
すでに着いているFongが入り口で俺に手を振っている。
「お前、よくバイトを許可してもらえたな」
クスクス笑う友を、軽くにらむ。
「お前のおかげだよ。1人だけだったら許してもらえなかった。
本当の目的を言うわけにはいかないから。」
もしFongがいなかったら、今ここに俺はいなかっただろう。
Fongは困ったように微笑んだ。
「束縛が強い彼氏を持つと大変だな」
Fongに肩をポンポンと叩かれながら、俺たちはバイト先の喫茶店へと入って行った。
そこは木がベースになっているお洒落な喫茶店だった。
大学の近くということと、時間が自由に選択できるということで選んだ。
Fongは新しい出会いを求めて、一緒に働くことを決めたらしい。
「初めまして。僕はバイトリーダーのBankです。
わからない事があったら、何でも聞いてください。
同じ大学で同い年だから、肩肘張らないで気軽に話しかけて。」
俺よりも少しだけ背は低いけれど、Watに負けないくらいの美貌の好青年。
にこっと笑う笑顔が優しくて、男でも思わず見惚れてしまうくらいだ。
動く彫刻のような美しさを持つWatと比べるのなら、ファンタジーに出てくる妖精のような儚さをもった美しさ。
Tine以外には冷たいイメージのWatに比べると、Bankは陽だまりのような柔らかさを持っている。
どれほど怖いバイトの先輩がいるのだろうと緊張していた俺とFongは、視線を合わせてふっと笑った。
店は比較的小さめだが、Bank目当ての客が途切れる事なく訪れる。
客数は多いが、ほとんどがご指名で来ているので俺たちはBank程の忙しさはなかった。
「あっ・・・・・・」
コーヒーのカップを持ち上げた時、思っていたよりも容器が熱く手が滑った。
幸い厨房内でカップが割れたため、お客さんには迷惑はかからなかった。
ただ、思い切り手にかかってしまい、ズンとした痛みが右手を襲った。
「Tine!!」
後ろから声をかけられたかと思うと、右手を思い切り引かれた。
すぐに厨房の水道の水を右手に当てられる。
冷たい水が熱い箇所を冷やしていく。
後ろから抱きしめられるみたいに、Bankが俺を包み込んでいる。
キレイな顔が俺のすぐ横にあって、俺の心臓がドクンと揺れる。
「大丈夫?」
優しく囁かれて、俺は何度も首を縦に振った。
痛みが冷水に沈められていく。
「キレイな手に痕が付いたら大変だよ。
赤くなってるところは、薬を塗ったほうがいい」
Bankの右手に手首を掴まれ、左手で優しく手を撫でられる。
「あ・・・・・ありがとう」
優しいBankの声に、気持ちが落ち着いていく。
「君のためなら何でもするよ。Tine」
フワリと頭を撫でると、Bankは新しくコーヒーを作って厨房を出て行った。
出しっぱなしの水と早く動く心臓に、頭が付いていかない。
今のは、何だったんだろう。
「Tine、大丈夫?」
Fongが話しかけてきて、はっと我にかえる。
手を見ると、少しだけ赤くなっていたが痛みは薄れていた。
「大丈夫・・・・・」
俺の表情に首を傾げながら、Fongは「なら良かった」とだけ言った。
さっきの囁きが耳から離れない。
厨房から出ると、Bankはファンの女の子たちに優しく微笑んでいる。
赤くなった手が、ずきっと音を立てた気がした。
「これ何?」
キレイな顔が怒ると怖い。
まるで大魔王のような表情で、Watが俺の右手を掴んでいる。
あの後、大丈夫だと言う俺を制止して、Bankが包帯を巻いてくれた。
火傷と言っても赤くなって終わっているのに、大袈裟に包帯を巻かれていることでWatには隠しようがなかった。
「あ・・・・えっと・・・・・・バイトで熱いコーヒーこぼしちゃって・・・」
俺の手なのに、俺以上に怒ってる。
右手で俺の右手を掴んで、左手は自分の腰に置いて思い切り見下ろされている。
ものすごく、怒っている。
「それで。自分で巻いたの?」
怒っている時のWatには逆らってはいけない。
俺が数週間で学んだスキルだ。
「い、いや、バイトのリーダーが巻いてくれた」
ふわふわと笑うBankの笑顔を思い出して、気持ちがざわつく。
「そのバイトのリーダーって、男?」
威圧的なWatに、泣きそうになる。
「・・・・・・・うん」
今日一日頑張ってやっと恋人との時間ができたのに、その恋人が怒り心頭になっている。
気分はトホホだ。
「俺以外が、Tineに触ったの?」
怒りの矛先がずれていく。
「い、いや、片手じゃできないから。
巻いてくれたんだよ。バイトのリーダーが。」
善意で手当てをしてくれたBankさんに申し訳ない気がして、一生懸命に説明する。
「なんで俺のこと呼ばないの?」
唇を尖らせるWatに、俺は一瞬キョトンとする。
脳に情報が回ると、口元が緩んできた。
「なんでお前のこと呼ぶんだよ」
そう言いながら、独占欲で縛られることに快感を覚える。
「お前が怪我した時、お前が倒れた時、お前が泣きたい時、側にいるのは俺じゃなきゃダメだ。」
まっすぐ俺を見るWatから視線が離せない。
こんなに愛されて、こんなに求められて。
これ以上の幸せはあるんだろうか。
感謝の気持ちを言うのも照れ臭くて、俺は下を向いた。
自分では見えないが、熱くなっている耳は赤いかもしれない。
「お前、まだバイトするの?」
置いていかれる子犬のようにシュンとした目で見られて、気持ちはお母さんだ。
「うん・・・・・あ、でも、今度から気をつける」
ものすごく緊張するが、ぎこちない手つきでWatを抱き寄せる。
フワリとWatが俺の懐に入り込んだ。
ふっと笑った気がした。
「次怪我して帰ってきたら、バイト辞めてもらうから。」
俺の胸でつぶれた声に、思わず苦笑いする。
ヤキモチを妬いてくれるのが嬉しい。
寂しがってくれるのが嬉しい。
心配してくれるのが嬉しい。
それが、俺だけじゃないって思えるから。
俺の胸に顔を埋めながら、隙間から僕の右手を撫でる。
納得いかないのか、何度もなぞるように触れる。
「Tine。お前が傷つくと、俺の心も傷つく。
頼むから、気をつけて。」
下を向いて表情は見えないが、Watは落ち込んだ声でいう。
「・・・・うん」
自分でしたくてした怪我ではないけれど、これ以上Watを悲しませたくない。
俺はこくんと頷いた。
顔をあげたWatと目が合うと、一瞬息が止まる。
こんなに一緒にいるのに、なんで俺はこの瞬間に慣れないんだろう。
毎回、それが初めてのことみたいで。
毎回Watに恋に落ちる・・・・・・。
俺たちは、どちらからともなくゆっくりと近づいた。
そっと触れ合う唇に、熱を感じる。
この気持ちをどうやって外に出せばいいんだろう。
好きだといえばいいのかな。
でも、好きという言葉だけじゃ物足りない。
もっともっといろんな感情が入り混じっている。
こんな感情を抱くのは、後にも先にもこの人だけだろう。
重なった唇から、そっと息を吹き込まれる。
その瞬間、俺たちは一つになった気がした・・・・・。
“ごめんTine。今日代わって”
Fongからそんなメッセージが届いたのは、チアが始まる直前。
さっきまで一緒にいたんだから、その時に言ってくれれば良かったのに。
少しだけふて腐れながらも、俺は“いいよ”とだけ返信した。
幸いチアはパート練習だから休んでもいいと言われたため、俺はバイト先へと急ぐ。
店は相変わらず満員御礼だ。
「やぁ、Tine」
Bankがふわりと笑って俺を出迎えてくれた。
整った顔に優しい声。
一日の疲れがぶっ飛ぶくらいの癒し感。
「あ、こんにちは」
お辞儀をすると、Bankは困ったように笑った。
「同い年で同じ学科だよ。タメ語でいいよ。」
ふわりと笑うBankに、俺もつられて笑顔になる。
「あー・・・うん、ありがとう・・・」
照れ臭くてへらっと笑ってみる。
「Tineは可愛いね。」
優しく頭を撫でられる。
いつもWatがしてくれているのとはちょっと違う。
でも、その手つきは優しい。
「あ、俺、着替えてくる」
その手からやんわりと逃げるように、俺はスタッフルームへと急いだ。
心臓がドキドキ動いている。
急いで着替えるとフロアに出る。
フロアでは、Bankがファンに囲まれている。
「Bankさん、好きな人とかいないんですか?」
ファンの子の1人が言う。
「いるよ。片想いだけどね」
優しく笑うBankが振り返って俺に笑いかける。
俺はぱっと目を逸らすと、溜まっているお皿を洗うために厨房へと戻った。
こういう時、無性にWatに会いたくなる。
水の中にジャブジャブとお皿を入れて洗う。
「Tine・・・・・Tine・・・・・お客様だよ」
フロアから呼ぶ声がして、俺は慌ててフロアへと向かった。
観葉植物の隣の席で、木漏れ日に目を細めているWatが俺に手を振る。
光の効果で、天使感が増す。
Bank目当ての客も、Watに見惚れている。
「Wat!どうしたの?」
驚きと照れ臭さと嬉しさが混じって、変な気分。
そんな俺を見て、Watが優しく笑った。
「Tineがどんなところで働いているのか、見てみようと思って。
Typeさんにも写真送ってあげたいし。」
そっと包帯の取れた右手をとられる。
俺は、くすっと笑う。
「兄のことまでありがとう」
そう言うと、Watは眉間にシワを寄せる。
そして、俺の手を思い切り引いた。
身体のバランスを崩して、俺は思い切りWatの上に体重を預けた。
抱きしめるような形で俺を受け止めたWatは、まだ眉間にシワを寄せている。
「Tine。そんな可愛い顔で笑うのは俺の前だけにして。」
そんな囁きを耳に落とす。
「Tine!!お客様の上に乗ったらダメだよ。
お客様、失礼しました。」
後ろから来た声と力強く掴まれた腕。
俺は勢いよくWatから引き離された。
「お客様、大変ご無礼をいたしました。」
静かに頭を下げるBankを、Watは静かに見ている。
僕の二の腕には、まだBankの手があって身動きが取れない。
ぱしっという音がして、俺の腕から温もりが消えた。
何が起こったのか分からず辺りに視線を移すと、WatがBankの手を払ったことに気づく。
あまりにも突然のことに、Bankもキョトンとしている。
「Wat!!」
思わず名前を呼んで、俺は改めてWatの怒りに気づいた。
「俺の恋人に、気安く触るな」
こういうところは変わっていない。
俺はがくりと首を垂れた。
気安く触るも何も、Bankは俺を起こすために掴んだだけなのに。
「恋人?」
Bankがじっと俺をみる。
あぁもう。
余計な情報をどんどん提供して。
「あ、あー・・・・・・・えっと・・・・はい」
言うのが嫌と言うよりは、俺は内心気にしているんだと思う。
Watの隣に俺はふさわしくないと。
だから、恋人だって自信を持って言えないでいる。
「そっか・・・・・・・・」
Bankは困った表情で笑った。
「君の恋人に触れて嫌な気持ちにさせてごめんね」
Watに向かって優しく言うと、やり過ぎたと顔に出ているWatは「こっちも・・・ごめん」とだけ言った。
それにしても・・・・・・・
キレイな顔が二つある、
そこにいる自分は、とても場違いな気がした。
フロアの視線は、もちろん2人の男に注がれている。
「Tine。ちょっといいかな」
Bankに促されて、俺は控え室へと向かった。
代わりにフロアにスタッフが入ると、チラホラと帰り支度をする人の姿も見えた。
控え室に入ると、Bankは鍵をガチャリとかけた。
ギョッとして振り返ると、困ったようにBankは笑う。
「大事な話をする時に、邪魔されたくないから。
たまに過激なファンが入ってきたりするんだ。」
そう言うと、ソファーに腰掛けるように促された。
言われるがまま、俺はソファーに腰掛ける。
隣に腰を下ろしたBankは、深くため息をついた。
いつも笑顔で穏やかなBankがため息をつくことは、すごく珍しい。
俺はその横顔をじっと見た。
「まいったな。
君の恋人がSarawatだったなんて。」
心の底から困ったような声に、俺自身も戸惑いを隠せない。
「彼はすごく人気がある。僕のところにも噂はたくさん届いてる。
実際に会うのは今日が初めてだったけど。
噂通り、キレイな人だね。
人気があるのもわかる。
でも、彼は君に釣り合うの?」
じっと澄んだ瞳に見つめられて、俺の息が止まる。
自分でも気付いていたし、SNSでの書き込みでも見かける言葉。
俺はWatに釣り合わない。
ぎゅっと自分の掌を握りしめた。
「俺たち、似合わないですよね。
分かってるんです、Watの隣に俺は釣り合わないって」
ぐっと唇を噛むと、優しく掌が包み込まれる。
「そんなことないよ。Tine。僕が言いたいのは、彼が君に釣り合わないって言ってるんだよ。
君は自分が思っているよりももっと魅力的だ。
君が笑ってくれたらみんなが笑顔になる。
僕は、そんな君が好きだ。」
ふわりとBankが微笑む。
肩の力が抜けた気がした。
今まで俺はWatの隣にいようと思って必死になっていた。
それは、嫌われないように。
失わないように。
でも、今ここには、自分を認めてくれる人がいる。
そのままでいていいんだと言われて、張り詰めていたものが解けた気がした。
「あー。ありがとうございます。
でも、あの・・・・・・俺にはWatがいるので。」
何に対しても、断ると言うのはあまり好きじゃない。
相手を無条件で傷つけることになるから。
Bankは静かに微笑んだ。
続く(next)